表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】 屍喰神楽 ~シニカミカグラ~  作者: 八刀皿 日音
4章 新たな世界へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/128

13.〈白き黄金の方〉の思い出


 ――それは、ロナがまだ幼い頃のことだった。


 兄ランディとともに、好奇心に駆られて郊外の探検に出た彼女は、兄とはぐれてしまい……さまよい歩くうち、森の奥、庭都(ガーデン)を見渡すにちょうどいい小高い丘に出てしまう。


 同じような場所は、もっと中心部に近い位置にもあり、そちらは民の憩いの場として整備もされていたが……こちらはまるで手付かずといった感じだった。

 そしてそれが、ロナには奇妙に思えた。


 郊外の森林部とはいえ、子供の自分がたどり着けるような場所――そこまで行き来に不便があるような位置でもない。

 なのになぜ、こちらの方にはまるで人の手が入っていないのか。

 いや――それどころか。


 そもそも、これまで誰一人としてここに立ち入った人間はいないのでは――。

 そんな風にすら感じる、この場の空気は一体何なのか。


 大きな禁忌に触れてしまったような、緊張と恐れと、そして高揚めいたものがない交ぜになった感覚を持て余しながら……ロナが、より見晴らしの良い丘の端へ向かおうとすると。




「ふむ……ここへ至る者がいるとは、と来てみれば」




 不意に聞こえた声に、ロナが隣を見れば――。

 いつの間にかそこには、一人の壮年の男性が立っていた。


 幼いロナにとっては、見上げるほどに背の高い……白い衣をまとった、金の髪の男性だった。



「そして、やはり……()えるか、お前には――私が」



 その(おお)きな人は、深く青い瞳でロナを見下ろす。


 それを、ロナは良く知っているような気がした――けれど同時に。

 その感覚は、日々生きる上で当たり前のように触れる、この大地を見ることと……同じようにも感じた。


 しかし――はっきりと分かることもあった。

 それは、この巨きい……白く黄金に輝く人が、『人間では無い』ということだ。

 むしろ、この〈星〉そのものにこそ近しいと――そう思えるほどに。



「混じるのは、せいぜいが半分といったところだが……それでもか。

 いや、ふむ……そうか。

 もう半分もまた、(ゆかり)はなくとも(えにし)は深い――か。

 ……なるほど、な」



 巨きい人の瞳は、ロナの心の底――いやそれよりもなお深く、魂まで見透かすかのようだった。

 それは少なからず、空恐ろしいものだったが……同時に、奇妙な安心感もあった。


 そう――まるで、この星そのものと自分自身が、直に触れ合っているかのようで。



「そうだな――さすが、と言うべきか。

 お前のその感じ方は、間違いではない」



 ロナの考えを読み取ったように……巨きい人はそう言って、微かに笑んだ。

 しかしそんな表情も、すぐに消える。



「お前は――今世の名は……そうか、ロナか。

 ではロナ、一つお前に忠告しておこう。

 お前は幼いが、聡明だ――今はまだその意味が分からずとも、決して忘れることはあるまい」



 巨きい人はそう前置きし……視線を、庭都の方へと向けた。



「――『違和感』を意識するな。それを突き詰めるな。

 お前たちにとって、それは――今なお根治せぬ、滅びへ至る病のもとでしかない。

 ゆえに、目を向けるな。追おうとするな。

 それはごく些細な痛痒(つうよう)と同じだ……意識すればより酷くなるが、放っておけばいずれは感じなくなる。

 そうして、平和に、穏やかに日々を過ごせ――いつの日か、人間がその悪疫を克服する……そのときまで」



 魂にまで染み通るような、静かながら重々しい声で告げて――巨きい人は、きびすを返す。

 そして――最後に一言、



「私が、災いを為す必要など無いように」



 それだけを言い置いて……ロナの前から姿を消したのだった。




 ……そんな、ロナが〈白き黄金の方〉と呼ぶ存在との出会いは、彼女にとって鮮烈なものであった。

 それもそのはず――庭都を生きる人類には、かつての時代の『神』のような、人を超越した何者かを表す概念も言葉も、存在していないからだ。


 ゆえにロナは初めてそのとき、そうしたものの存在を直接に知覚し、意識した。

 そしてそれは、今を生きる人類にとって初めての――とも言えた。


 だが同時にロナは、これは己の胸にだけ秘め、決して口外するようなことではない――とも感じていた。

 だからこそ、兄にも、幼馴染みのアキにも語ることはなかった。


 そうして――以来、再び〈白き黄金の方〉と出会うようなこともなかったのだが……。




「それで、あなたは――今度は(・・・)どうするの?」




 陽の傾く中。

 井戸を挟んで彼女にそう問いかけてきた、見たところ同年代の女性の気配に――ロナは。


 あの〈白き黄金の方〉と同じものを、感じ取るのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まさか、ロナの前世は……!?
ロナ、昔は誰なんですかねぇ。 というか、生まれ変わった場合の性別ってどうなるんですかね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ