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【新装版】 屍喰神楽 ~シニカミカグラ~  作者: 八刀皿 日音
4章 新たな世界へ

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12.彼女の思いと視えるもの


 ランディが提唱する『思想』を、広く伝えるための団体――〈白鳥枝党(しらとりしとう)〉。

 今や、庭都(ガーデン)において知らぬ者はないと言えるほどの規模になったこの団体の設立にあたって……誰もが口を揃えて一番の功労者にあげるのが、ランディの妹ロナの名だ。


 彼女がいなければ、その『思想』がこうも好意的に、かつ短期間に、多くの人に広まることはなかっただろう――と。

 それは、ランディやアキといった、代表格の人間ですら変わらない。


 だが――当のロナには、まったくそんな意識はなかった。

 謙遜などではなく、ただ彼女自身の事実として。


 当然、彼女は彼女なりに、兄の力になるべく力を尽くしてきた。

 そしてそれが、兄の、枝党の活動の一助となっている……それ自体は確かだろう。

 しかし、『ロナがいてこその結果』とまで言われれば――彼女にとっては否なのだ。


 ――なぜならそれは、彼女にしてみれば、彼女という存在の有無にかかわらず『当然の帰結』であったからだ。

 彼女に視えた通り――なるべくしてなった、ただそれだけのことだったからだ。


 そう、彼女にしてみれば……。

 自分はただ、その流れに途中から乗っただけ――それだけだったからだ。


 思想を言葉にし、導き出したランディと……それを認め、後押しし、民衆との橋渡しとなったアキは、絶対に必要不可欠な人間だったが……。

 思想が人々に広まり、その中に眠る種を芽吹かせていく――それはロナにとっては、いざ活動として起こったなら、必然ともいえる帰結であり……。

 いきおい、彼女の手助け一つで左右されるようなものではないからだ。


 なので、彼女のやることは、活動当初と変わらない。


 一目置かれる存在になったとて、ランディやアキと並ぶ代表、枝党の顔となって前面に立つようなこともなく……他の善意の協力者と同じく、組織の下支えとしての仕事をこなし。

 そして、それとは別に、〈カタス〉に在籍していたころからの習慣でもある『研究』に耽る――そんな日々を送っていた。


 しかし、ロナ自身の思いはどうであれ――彼女が、若いながらも知識の豊富な人間なのは事実であり。

 それだけに、枝党の協力者から、様々な相談を持ちかけられることもままあったのだが……。



「……井戸水が、ですか」



 カタスの自室を引き払ったあと、兄の家の近くに融通してもらった新しい住まいで、いつも通りに研究について思考を巡らせていたロナ。

 彼女のもとを訪れた、年配の女性がもたらした相談事が……『井戸水の水位が下がってきている』というものだった。



「ええ、はい。

 それも、あたしたちのところの井戸だけでなく……思った以上にあちこちで。

 先生たちのところは、まだ大丈夫のようですけど……」


「生活用水の不足などは出ていますか?

 場合によっては、早急にカタスの方にも対策を要求しますが」


「いえ、まだそこまでのことじゃないんです。

 ただ……この間の、地鳴りのこともあるでしょう?

 どちらも、珍しいことだし……何かの前触れなんじゃないか――って、不安の声もあって」



 ……庭都の住民は、その成り立ちと発展の経緯もあり、かつての文明に属する知識は――カタスのツカサでさえ――必要最低限のこと以外、あまり持ち合わせていないのが現状だ。

 ゆえに、こうした事態を、何らかの現象と理論的に結びつける術がそもそも無いと言える。


 逆に言えば、ランディやロナのような、自らの研究と知的好奇心から過去の知識に触れている人間からすれば、それと照らし合わせて仮説も立てられるのだが――。



「分かりました。

 アキやイクサの人たちの力も借りて、一度詳しく調べてみますね――どれぐらいの規模で、どれぐらいの変化が起こっているのか。

 ……その間に、また何かあったら、教えて下さい」



 瞬間的に思い当たった、いくらかの仮説には触れず……ロナは女性を安心させるように微笑みながら、そう答えるにとどめた。

 実際、ちゃんとした検証は必要であったし――不確実な予測で不安だけを煽るなど、それこそただの愚策だと考えたからだ。



 そして――アキと、ケンゴウ率いるイクサの協力のもと、数日かけて庭都全域の井戸を調査した結果……。

 そのほとんどで、少し前から顕著な水位低下がみられることが確認される。


 アキに渡されたその調査結果に目を通し、さらに、実際に自らそうした井戸の一つに向かい、集まる人々から話を聞くうち……。

 ロナの中には、確信に近い一つの考えが形を成そうとしていた。



「〈白き黄金の方〉……あなたは、本当に……」



 日も落ち、井戸に集っていた人々も家に戻り。

 一人になったロナが、ふと呟きつつ……深い井戸の底へ落としていた視線を上げると。




「それで、あなたは――今度は(・・・)どうするの?」




 ……いつの間にそこにいたのか。


 井戸を隔ててロナの対面に、彼女と同年代に見える若い女性が――見覚えもある気がするのに、どう見ても初対面の女性が立っていて。


 穏やかな調子で、ロナにそう問いかけた。




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