02 柳橋美湖 著 六月の花 『北ノ町の物語 97』
【あらすじ】
東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。
……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。
季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。
異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。ダンジョンの試練を達成し、第三の女神となったクロエ。さらにもう一つ待ち構えた最後の試練は、恋!
Ⓒ奄美「クロエ」
97 六月の花(黄色い薔薇)
ご機嫌いかが、クロエです。
今、私は、北ノ町から通じている異界の果ての町にいます。町はずれに〝心〟の形を模した池があり、畔に立って半べそをかいていると、マダムがやってきました。
◇
祖母の紅子は、死別していたことになっていたので、縁遠い感じで、ちょっと話づらい。母のミドリも、現世では、死別していたことになっているのですが、奔放なところがあって、生前から、この手の話しをするのにはためらいがありました。――その点、画廊オーナーのマダムは、とても身近で相談しやすい方です。
「クロエ、お茶しにいかない?」
大陸の最果てにある〝竜骨の町〟は大きな町ではなかったのですが、それでも、通りに出ると洒落たお店が並んでいます。素敵な帽子屋さん、靴屋さん、ブティック。私たちはウィンドウショッピングを楽しみました。
「クロエのパーソナル・カラーは黄色。素敵なワンピね、プレゼントするわ」
「いいんですか? それにしても、なんで私のパーソナル・カラーは黄色なんです?」
「傍目で見ていたらそう思ったの。世の中、そんなものよ」
マダムの根拠は未だ私には分りません。ですが、私がワンピに合わせて、帽子とか靴とか買い足していくと、いつの間にか、黄色の服飾品が増えていきます。不思議なもので、そんなことから黄色が好きになっていきました。
それから私たちは、レコードの音楽に誘われるように、近くのカフェに入りました。
席に着くなりマダムが、聞いてきます。
「クロエ、結論は出たの?」
最後の試練となる花婿選び。候補三人のうち一人を明日までには決める予定だった。花婿候補というのは、お爺様の顧問・瀬名さん、地元ベンチャー企業を立ち上げた従兄・浩さん、そして魔界の貴公子・白鳥さんでした。ところが、候補三人のうち、白鳥さんが棄権。私は、マダムに、白鳥さんに失恋したことを打ち明けました。
「三択が二択になった。迷いのものもとが整理されて良かったじゃない」
「そういうものでしょうか?」
「そういうものよ、世の中なんてものは……」
マダムと話していると不思議、ちょっと気が晴れてきました。
◇
このときです、町の横に浮かんでいた、カットされたダイヤモンドのような形をした、先の試練の場であった浮遊ダンジョン〝トロイ〟の尖った基部が、ドスンと地面に刺さり、さらに横倒しになったのです。だから町は大騒ぎ。パニックになって右往左往していました。
同災害で、瀬名さんと浩さんは、住民と協力し合って、避難所となるテントを設営したり、飲料水・水道を確保して、炊き出しをしたりして下さっていました。
後で聞くところによると瀬名さんは、〝トロイ〟倒壊時、瞬時に安全な経路を見極めて、避難民を誘導していたとのことです。
避難民の少女の一人が、どこで摘んできたのか、黄色い薔薇一輪を瀬名さんに手渡しました。瀬名さんは、花をジャケットの胸ポケットに挿して、照れ笑いしています。
「クロエ、瀬名さんに尊敬のまなざしだよ」
黄色い薔薇花は、尊敬を意味するのだそうで、よく娘さんが、父の日に贈る花束なのだとか。――え、私、実はファザコン?
「クロエはファザコンというより、グランド・ファザコンかもね」
マダムは微笑を浮かべていました。
それでは皆様、また。
By・クロエ
【主要登場人物】
●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。
●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。
●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。
●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。
●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。
●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。




