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自作小説倶楽部 第24冊/2022年上半期(第139-144集)  作者: 自作小説倶楽部
第144集(2022年6月)/季節もの「六月の花」&フリー「職人技」
21/25

01 奄美剣星 著  職人技 『ヒスカラ王国の晩鐘 27』

気まぐれな「姫大佐」に仕える老副官大尉の憂鬱。


挿絵(By みてみん)

Ⓒ奄美「姫大佐」


    27 職人技


 「姫大佐」の二つ名のあるカミーラ・ヒスカラ女公が、小脇に抱えていた羊皮紙で装丁されたノートを開く。ノートは、姫大佐の自著『使魔図鑑』というもので、紙面に描かれている異形の海洋生物たちは、彼女によって封印された使魔である。

「まずは小手調べ――」 

 ヒスカラ王国第一位王位継承権者、現女王の大叔母に当たる姫大佐。彼女が、ヒスカラ王家の遺伝的特徴である青髪を、宙に乱していた、掻き揚げる。


 ――無詠唱術式――


 その際、ロケット・ペンダントの蓋を開く。

 蓋の中には香料の丸薬が収められていて、蓋が開いた瞬間に、ミルクと入浴剤が混ざったような香りがした。恐らくは、乳香と龍涎香の調合香であろう。――今は廃れた古の神々を祭った神殿では、そういった香料が重宝されてきたという。

 通常、道士が使魔を召喚する場合、代償として、血を与える。強力な使魔であればあるほど、血液量は多く必要とされるため、川を遡上する鮭程度の大きさのものになるが、姫大佐が召喚した使魔は、人食い鮫ほどの大きさだった。しかも彼女の代償は血液ではないため、疲れを知らない。――つまるところ姫大佐は、総神官長に相当する最上級道士だ。


 大きく口を開けた「鮫」が、明るい噴水中庭を泳いでゆき、中庭を囲む列柱回廊の一角に向かった。そこにいたのは、椅子にもたれた背の高い貴紳だった。貴紳は若く、見た目には二〇歳くらいのようだった。

「亜神? だが余はそなたの顔を見知らぬ。名を名乗ることを許す」

「ユンリイ大帝、私は亜神にはあらず、一介の道士にすぎません」


 ユンリイ大帝は連合種族を統べる亜神である。ヒト族を西の彼方に追いやり、今やノスト大陸の九割を支配していた。若い大帝が、刮目しつつ口角を上げた。

「亜神の憑代となる者は、年をとらぬ細胞構造に進化している。ヒト族の憑代は、ヒスカラ王室ゆかりの者に多いと聞く。――噂に聞くカミーラ・ヒスカラ女公か?」

「ご名答!」

 姫大佐は、見かけこそ一五、六際の華奢な少女のような容姿だが、極秘資料によれば、六〇歳と書かれてあった。

 姫大佐も口角を上げた。

 宙に浮かぶ「鮫」が、大帝に突撃をかけた。

 するとだ。今までどこに隠れていたのだろう、背中に翅を生やした侍童姿の「天使」たち五名が、抜刀して、鮫に斬りかかる。斬り刻まれた「鮫」が失速して地面に落ちて消える。

「その子、チロちゃんっていうの。酷いなあ、何も始末しなくたっていいじゃない。お気に入りのペットだったのに――」

 姫大佐がむくれた顔をして見せる。

「余を呪殺しようとしたくせに、酷いもへったくれもあるまい?」

 大帝は冷笑すると、片手を上げた。恐らくは、「天使」という名の眷属どもで、「鮫」のごとく姫大佐を斬り刻む合図なのだろう。


 ――失礼いたします!――


 使魔「鯱」に乗って、時空の「狭間」で待機していた幽体アストラルボディ状態の私は、同じく幽体状態となっている姫大佐の襟首を引っ掴んで、命からがら現世の王国に逃げ帰った。


 ノスト大陸西端・ヒスカラ王国同名首都のメインストリートに構えたカミラ女公邸。邸宅アトリエの床に描かれた星紋に、文字通り〈お姫様抱っこ〉をして帰還したのは、私、ロメオ・パスカル大尉、姫大佐付き副官だ。

 私が、使魔召喚をやるときは、一般の道士同様に、己が血液を献じて召喚する。「鯱」の使魔は、致死すれすれの量を要するので、姫大佐を床に戻した直後、床に崩れ落ちることになる。


「大叔母様、また勝手な真似を――」

 アトリエには、オフィーリア女王陛下と灰色猫が、ご立腹で待ち構えていた。

 可憐な十五歳の女王陛下は、英雄ボルハイム卿の憑代になっており、灰色猫は、アンジェロ護国卿の憑代になっている。

 ある時期から肉体的に年を取りにくくなる王族は、俗に言う「エルフ体質者」だ。姫大佐と女王陛下が並ぶと、大叔母と姪孫ではなく、姉妹のようにしか見えない。


 失神しかけている私の聞き違いでなければ、姫大佐いわく、

「講和条約の証として、私か、オフィーリアがユンリイ大帝に嫁ぐことになったのでしょう? オフィーリアを憑代としている魂魄は、英雄亜神ボルハイム卿。――今の大帝の憑代は、卿が、あっちに転生した息子と伺っています。昔の父と息子が、嫁と亭主になるというのもアレだろうから、嫁に行き遅れた私が、進んでお受けすることにしたってわけ」

 つまるところ姫大佐は、生霊になって、敵地にいる婿の品定めをしてきたということだ。

「パスカル大尉、大儀であった」


 ――何が大儀であっただよ、ロリババアが!――


 床に突っ伏した私は、それから半日の間、記憶の中断を余儀なくされた。


                    ノート20220628 

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