03 紅之蘭 著 職人技 『ガリア戦記 36』
【あらすじ】
共和制ローマ。ガリア遠征七年目、遂にウェル王(ウェルキンゲトリクス)が蜂起。前年、小アジアで盟友クラッススが、パルチア帝国軍を相手に敗死したことで、三頭派の一角が崩れた。内と外にいる敵がカエサルを窮地に立たせる。報告書『ガリア戦記』最終章・第Ⅶ巻。
Ⓒ奄美「ゲルマン騎兵」
第36話 職人技
ケペンナ山北麓、ガリア・アルウェルニ族領王都をゲルゴウィア(現仏・クレルモン=フェラン近郊)。王宮には、ガリア軍の幕舎で幕僚諸将が居並んでいる。
戦妃イミリケが、年下のウェル王に言った。
「ケペンナ山越えをしたカエサルは、全十個軍団と合流してしまった。どう手をうつの?」
「ならば我らは、ガリア中央部全部を味方につける。これならば味方は五十万を超えることになる。ローマの十倍の兵力だ」
「で、策は?」
「まずはローマ傘下のボイ族を攻める。ボイ族が我々に降れば、カエサルが見捨てたことになり、カエサル傘下の他部族どもはこっちに寝返ってこよう」
なるほど。
王、戦妃に続いて幕僚諸将が立ち上がり、ガリア反乱軍兵団はボイ族王都ゴルゴビア攻略へ向かった。
ガリア各地で冬営していたローマ十個軍団は、リンゴネス族領でカエサルと合流することに成功した。リンゴネス族領内に陣城を築いたカエサルは、ローマと友好関係にあるハイドゥイ族や、ボイ族に食料調達を要求。二個軍団をリンゴネス族領に残し、残り八軍で、ボイ族領攻略に出陣した。
途中、カエサルは、セノー族の町ウェラウノドゥヌムを攻略、さらにケーナブムを陥落にいたらしめた。――まさに電光石火である。
カエサル麾下ローマ共和国八個軍団は、リゲル川を渡り、ノウィオドゥームの町を攻略した。そこでの戦いは危険なものだった。――というのも、当初、町の住民は、ローマの大軍に恐れをなして降伏し、占領部隊を入城させたのだが、直後、町の物見が、ウェル大王の援軍が遠くの丘にいるのを見て勇気づけられ、市門を閉めて占領軍の殲滅を図ったのだ。
だが、カエサル麾下の軍団は精鋭だった。町の空気から事態を察した占領部隊は、背後にある市門に戻って、確保。民兵の襲撃をしのぐ。
やはり異変に気付いたカエサルは、傭兵のゲルマン騎兵四百騎を出撃させた。騎兵は占領部隊に合流、さらに市内深を蹂躙した。
カエサルと駒を並べて、陥落したばかりの町の惨状を目の当たりにした幕僚のブルータスは、自軍による蛮行の痕を見て、目を覆った。横にいたカエサルが苦笑した。
「今回の作戦は兵士に無理をさせている。それに対するねぎらいであるとともに、敵方への見せしめでもある。――何よりわが軍は、四方に敵がいて、補給路が絶え絶えになっている。敵に食みながら前に進むしかあるまい」
カエサルの軍勢は、次の攻略目標をアウアリウム(現ブルッヘ)に定め、進軍を開始した。
一方、ウェル大王のガリア軍は、カエサルの速さについていけず、ノウィオドゥームの町の救援に間に合わなかった。ガリアの幕舎では、大王と諸族長たちが、三つの町をローマに奪われたことについて、対応策を協議した。
ウェルが族長たちに提案した。
「ガリアに対するローマのカエサルは、ローマに対するカルタゴのハンニバルと同じだ。――ならば当時のローマ軍がハンニバルを退けた戦術をとればよい」
ガリア軍は〝焦土作戦〟をとりつつ、ローマ軍本隊の後方にいる輜重隊を地道に襲い、本隊を日干しにする。こうすれば勝利は見えてくるというものだ。
ウェル大王の〝焦土作戦〟案は、麾下諸族に支持され、ただちにローマ軍が略奪に向かいそうな町々が、焼かれていく。
だが、当時としては大都市であるアウアリウムは、セノー族の首都であり、要害でもあることから対象外にして欲しいと、セノー族長がウェル大王に泣いて嘆願するので、対象地リストから外された。
破竹の勢いのローマ軍は、この町を、防御柵〝攻牆〟で囲い、攻城塔二基、兵舎・倉庫となる小屋といった攻城施設を建設し始めた。
まさにそのころ、ウェル大王の〝焦土作戦〟及び、輜重部隊襲撃作戦の効果が出始めた。兵士たちへの小麦の配給が止まり、予備の食料である肉類が兵士たちに配給された。狩猟系のゲルマン人傭兵たちは喜んだが、肉よりもパンを好むローマ人たちは、口にこそ出さないが、不満を高めていった。
空気を読んだカエサルは、攻城施設を建設の現場監督をしている百人隊長を幕舎前広場に呼び寄せ、意見を聞いた。
「――補給がおぼつかない。撤退するかね?」
「とんでもない。我ら一同、総督の名誉を汚すような真似はしたくありません」
ブルータスがつぶやく。
「ローマ軍の士気は高いな」
ウェル大王は、カエサル麾下ローマ軍の食料が欠乏しかけていることを知り、アウアリウム救援のための軍を率いてやってきた。さらに別動隊を、ローマ軍の補給路遮断に向かわせた。
偵察隊により、ガリア軍の動きを察知したカエサルは、ただちに別動隊の迎撃に向かった。
続く
【登場人物】
カエサル……平民派が支持層。嫡娘ユリアは、盟友ポンペイウスの後妻として嫁ぐも『ガリア戦記Ⅵ巻』の冬、死産に伴い没する。各軍団長には、副将ラビエヌスや、ファビウスといった名将かいる。副心にブルータス、デキムスといった若く有能な将官がいる。姪アティアの息子オクタビアヌス、その姉オクタビアがいる。
キケロ兄弟……兄キケロと弟キケロがいる。兄は元老院派の哲人政治家で、弟はカエサル麾下の有能な軍団長となる。
クラッスス……カエサルの盟友。資産家。騎士層の支持。長男が親元に戻ると次男がカエサルの属将となる。
ポンペイウス……カエサルの盟友。軍人層の支持。カエサルの娘・ユリアを後妻に迎える。
ウェル大王……反ローマ派領袖。クーデターにより、ガリア・アルウェルニ族の王・全ガリアの盟主となる。イミリケは教育係で、同王族出自の愛妾。〝戦妃〟の二つ名がある。麾下にルーク元帥(カドルキ族の王ルクテリウス)がいる。




