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自作小説倶楽部 第24冊/2022年上半期(第139-144集)  作者: 自作小説倶楽部
第143集(2022年5月)/季節もの「法」(憲法記念日)&フリー「道」
17/25

01 奄美剣星 著  法 『ヒスカラ王国の晩鐘 26』

挿絵(By みてみん)

Ⓒ奄美「公爵邸の侍女」


   26 法 


 夫婦喧嘩というには常軌を逸していた。


 列車内、クロスシート中央を抜ける通路。その両端に男と女が立っていた。男は両手で拳銃を構え、女は両手にナイフを構えていた。男は拳銃射程距離に詰めるために、女は相手の間合いに入るため、双方、通路に向かって走り出す。――拳銃を持って駆け出した父パスカル。父の後ろにいた幼い私は、取り残され、パニックを起こし、ただ泣くより仕方がなかった。


 父母ともにチートだった。――恐らく父は人類最強の人だ。ところが……母ヒルダときたら、人外レベルの超人だったのだ。なにせ母は毒を盛られても死なず、拳銃の弾丸が当たっても、筋肉で弾丸を押し戻し、数分で傷を塞いでしまう。――ゆえに私は、数秒後、父が母の手にかかり、血まみれになって突っ伏すだろうことは容易に予想できた。

 父が長い車両の四分の一まで駆け出したとき、母は既に間合いに入り込み、足蹴りで拳銃を弾き飛ばす。

 立ちすくむ私。――その私の後ろに、今回の旅行にも同行している父の親友の小父様が来て、頭に手をやった。

「ユナ、一生のトラウマになるかもしれない。でも俺は、君のパパの最後を見ておいてもらいたいんだ」

 母のキック攻勢は一方的で、父は両腕でガードするのが精一杯という様子だった。


          *


 上流階級は貴族・資産階層に属する人々、中産階級は医師・弁護士・教職員といった知識人・大会社役員階層を指す。職工・鉱山労働者といった一般労働者が下層階級に相当する。

 私たち親子は、中流階級家庭が住むマンションで暮らしていた。父パスカルは医師で、母ユナは幼稚園保育士。父母の愛情を一身に受けた私は幸福そのもの、周囲も羨むような理想的な家族だった。

 両親は、仕事柄か上流階級の人々と接する機会が多かった。そういう事情もあってか、上流階級の子弟が通う名門の小中高一貫校に入学する必要が生じたようだ。

 私は、入学試験に合格したら、テレビ番組でよく紹介される、セレブが集うリゾート地でのバカンスに行くことを条件に、受験勉強を開始。そして筆記試験は、合格ラインすれすれながらも、なんとかクリア。

 筆記試験に続く面接試験は、私というよりも、「子は親の背中を見て育つ」ということわりから、両親の資質を図る目的のものだった。下水溝にはまった生徒に対してどのように振る舞うかとか、暴れ馬が飛び出してきたらどのように対処するか、そして信じられないことに、面接官の暴言への対処法すらも、審査対象となったのだった。――父と母は、機転を利かせ、難問をすべてクリア。紳士淑女認定され、私は上流階級の子弟と机を並べることになったのだった。

 こうして私は無事合格。ご褒美で、リゾート地へ向かう「青列車」旅行を楽しんでいたというわけだ。


          *


 母のキック攻勢に対し、防戦一方の父。最後の一発が命中し、父は天井にぶち当たり、床でバウンドしながら、私の前まで弾き飛ばされてきた。そしてのけ反ったまま血反吐を吐いたのだった。

 

 両親についてだが、このころ薄々気づいてはいた。――父は敵国のスパイで、母は、父が潰そうとしている組織に属する刺客だった。「青列車」には電報サービスがある。電報室のある蒸気機関車から第一両目にある車掌車に呼ばれた母。母は、戻ってくると「スイッチ」が入ったように、人柄が変わっていた。目つきが怖い。

 よろめきながら、どうにか立ち上がった父は降車扉に寄りかかりながら、すべてを諦めたかのように母に言った。

「ヒルダ、ユナを任せた」

 そう言って父は、非常レバーを倒して、乗降扉を開けて、走る列車から外へ飛び降りた。

 四両編成の「青列車」は、数百メートルはあるだろう深い渓谷に架けられた、長い鉄橋の上を走っていた。

 このとき母にかけられた「呪縛」が解けたようだった。

「わっ、私、なんてことを――」母は私をたぐり寄せ、後を追うように、扉の前に立った。

 風が、私と母の帽子を吹き飛ばす。

「奥さん、早まっちゃいけない!」小父様が叫ぶ。

 母がダイブする。

 轟……。


          *


 当時のヒスカラ王国元老院には急拡大中の過激政党があった。保守的な与党は党首暗殺を企てたが、党首は用心深く、なかなか表にはでてこない。父は、上流階級社交場ともなっている父兄懇親会に出席。密かに党首を始末。党幹部たちは、バカンスを装って、逃亡を図っていた私たちを追跡。刺客を放った。――その刺客というのが母だったということを、父は気づいていなかった。――母も、父がスパイだったということに気づかず、結婚し、私を生んだのだった。


 母に抱かれて谷底へ落ちていく私と母。

 このときだ。

 十メートルはあろう鯱が、海中を泳ぐかのように、空を飛んできた。背に乗っていたのは先にダイブした父。その父が私を抱いたままの母を「お姫様抱っこ」した。ナイスキャッチ!

 なんだかんだと、父はすごくカッコイイ。


 任務達成!

 父が所属していた諜報機関は、ご褒美をくれた。父は、私たち家族のために第一線を退き、地方都市にある諜報員養成学校転属となり、そこの教官になった。


          *


 ヒスカラ王国同名王都にあるカミラ女公宮殿は三階建てで、大理石で築かれた回廊状になっている。カミラ女公は、先々代国王の王女で、王国軍大佐職にある。だから「姫大佐」とも呼ばれている。大佐は、見た目こそ一五、六歳だが、実のところ六〇歳過ぎらしい。

「貴方たち、素敵な家族ね。――世界最強の道士たるスパイと、人外規格の刺客双方の血をひく令嬢ユナ。――本来、私はユナを副官に所望したのですがねえ。どこぞの親御さんが年金暮らしを捨てて、娘を危険に晒すくらいなら自分がやりますですって。ちっ!」

 軍服姿の麗人が、ときたま父に、そんな嫌味を言って苦笑するのだそうだ。


ノート20220512


※最近はまっているアニメ『SPY×FAMILY』第五話までを視聴しての閃き。自分の作品世界観に置き換えてみた。


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