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自作小説倶楽部 第24冊/2022年上半期(第139-144集)  作者: 自作小説倶楽部
第142集(2022年4月)/季節もの「新生活」(引っ越し・転勤・新人・辞令)&フリー「神羅万象」(風・香り・鳥・彗星)
14/25

02 柳橋美湖 著  森羅万象 『北ノ町の物語 95』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。

 ……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。

 季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。

 異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。ダンジョンの試練を達成し、第三の女神となったクロエ。さらにもう一つ待ち構えた最後の試練は、恋!


挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美「牡丹」

     95 森羅万象


 皆さん、ご機嫌いかがですか、クロエです。〝試練〟を経て第三の正規女神となった私は、異世界で伴侶を選ぶ新たな〝試練〟を受けています。求婚者は三人。季節感を狂わせる、桜に囲まれた蓮池のある庭園での最終的個別ミーティング。前回は瀬名さん、そして今回は従兄の浩さんです。


     ◇


 私は、蓮池にかけられた橋から中ノ島に渡りました。島の真ん中には奥へと通じる道、両側には、チィアリーダーが両手に持つボンボンのような芍薬・牡丹、ラッパのような百合といった花々が植え込まれていました。


 島というと、文豪・中島敦の『南洋譚』というオムニバス作品があります。『南洋譚』は、「幸福」「夫婦」「鶏」といった三つの短編で構成されていて、このうち、「夫婦」というエピソドでは、恐妻家ギラ・コシサンの民話が紹介されています。

 美男子ギラ・コシサンが住む島に、エビルという美女が現れます。エビルは島中の男性を誘惑し、多くの家庭を崩壊させていきます。夫を奪われた妻たちが、決闘を申し込みむのですが、エビルは腕っぷしが強く、返り討ちにしてしまいました。

 いろいろな男性を誘惑した挙句、美男子のギラ・コシサンに迫って結婚したエビルは、DV妻で、夫を恐妻家にしてしまいました。

 島には、女性が適齢期になると、既婚男性に夜の営みの手ほどきを受けるという風習があります。ある日、恐妻家ギラ・コシサンに、美少女リメイがお相手として当てがわれました。リメイは、妻のように狂暴ではなく、彼だけを愛しましたので、ギラ・コシサンは、リメイを連れて駆け落ちし、幸福な余生を過ごします。

 夫を奪われた悪妻エビルはというと、島民たちに出くわすたびに、八つ当たりして回ったので、誰にも同情されません。けれども彼女は、やもめとなったばかりの金持ちを目ざとく獲得し、後妻の座を得、こちらはこちらで幸せに暮らしたとのことです。


 夫婦と言えば、織田作之助の『夫婦善哉』という中編作品が有名です。大阪の大店の若旦那・柳吉は、素行が悪く、妻子を捨てて、若い芸者の蝶子と東京に駆け落ちします。

 柳吉は、何をやっても長続きせず、せっかく蝶子が苦労して貯めた資金で店を出しても、すぐ潰してしまう。そのうえ蝶子の貯金を勝手に引き出して女遊びの放蕩三昧。耐えかねた蝶子は、柳吉を捕らえて折檻するのだけれども、それで許してしまう。暴力を受けた柳吉は、蝶子のもとへ帰らなくなります。

 結局のところ、蝶子が柳吉に謝罪をする形で元の鞘に収まります。店は妹が婿を貰って継ぎましたが、お調子者の柳吉は、隠居した父親から、蝶子と別れたと嘘をついて、まんまと遺産をせしめて物語は終わります。


 人というのは、どんな伴侶でも、それなりの幸せをつかむということなのでしょうか? 仮に失敗したとしても、次を見つければいいということなのでしょうか? あるいは結婚=幸福とは限らないという寓話なのでしょうか? 結婚したことのない私にはまだ分りません。


 従兄・浩さんとの出会いは、北ノ町に来てからで、父と駆け落ちし、私を生むと離婚したシングルマザー母。東京郊外で生まれた私は、浩さんの存在を知らなかった。背が高くて、美男子で、ピアノが弾ける。正直言って戦闘能力はあまり高くなかった。

 でも、女神候補だった私と、北ノ町にあるお爺様の屋敷地下にある隕石を巡って、〝教団〟戦闘員・魚眼人との戦闘していたとき、町民の気をそらすため、渚でコンサートをしていました。幻惑の演奏の間、お爺様たちが、バスター・ソードで、魚眼人の大半を討ち取ってしまいます。浩さんの演奏もまた戦闘スキルの一つだったのです。

 浩さんは、ITの個人業事業主で、守護者・電脳執事さんを独自の技術で生み出している。クリエイティブなのが、この人の最大のチャームポイント。また、求婚者三人はいずれも私よりも年長ですが、浩さんは、最も私に近い年齢であるという点でギャップが少ない。

 浩さんに私と結婚した場合の、生活ヴィジョンを尋ねてみました。

「そうだね。もちろんクロエを幸せにしたい。幸福へのロードマップだけどね、僕はさほど戦闘向きじゃないけれど、物を作り出すことは比較的得意だ。この世界のインフラを整備したい」

 異世界に献身することになるわが身としては、嬉しい申し出。何よりのプレゼントです。


 中ノ島からまた橋を渡ると、奥の半島のような造り出しに至ります。

 振り向くと、浩さんは、スマホで召喚した守護者・電脳執事さんと一緒に手を振っています。笑っているけれど、ちょっと寂しそう。


          ◇


 造り出しには東屋があり、そこに、最後の求婚者・白鳥さんが待っていました。

 それでは皆様また。次回にお会いしましょう。


      By クロエ

【主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。

●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。

●審判三人娘/金の鯉、銀の鯉、未必の鯉の三姉妹で、浮遊ダンジョンの各階層の審判員たち。


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