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自作小説倶楽部 第24冊/2022年上半期(第139-144集)  作者: 自作小説倶楽部
第141集(2022年3月)/季節もの「分岐点」(春分・春一番・卒業・春休み)&フリー「疫病」(コロナ・防疫・免疫)
12/25

04 らてぃあ 著  分岐点 『手のひらの上』

とある幸せな騙しあい


挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美剣星「占い師」

「今、貴女は人生の岐路に立っています」

 占い師は少し軽い口調で言った。深刻に悩んでいる客になら、もう少し重々しい調子で話すだろう。しかし目の前にいる女は好奇心に目を輝かせて耳を傾けている。シナリオ通りで、楽しい展開をお望みだ。ならばプロとしてそう振る舞うのみだ。

 女は薄明りの中でも十分に美しい。聞くところによれば親からたっぷり財産を受け継いでいるという。天はこの女に難物を与えたのだろうと考えながら占い師はタロットをめくる。

 女の相談は二人の男と自分の相性だ。

「まず、お見合い相手の男性ですが、社交的で機転が利く。会社でも出世するでしょう。ただし、女性にモテて浮気性なところがありますね」

「まあ、困ったわ。伯母様の一押しなのよ」

「貴女が、しっかりつなぎとめて置けばいいことですよ」

「でもね。私、高校の時に付きあった男子にも浮気されたことがあるのよ。春休みにちょっと海外旅行に行っている間に、どういうわけか彼は隣のクラスの女の子と何度もデートしていたの」

 嫌な思い出が蘇ったらしく女は表情を曇らせる。

「それでは、今お付き合いされている男性のほうですが、」

 うかつなフォローは余計だと気付いた占い師は話を進める。

「お人好しでお調子者、カモにされることもありますが、浮気はしません」

「すごい。当たっているわ」

 女は鈴を転がすように笑った。

「やっぱり、一緒にいて楽しい人よね」


   ◆◆◆


「いやあ、ありがとう」

 男は上機嫌で占い師に礼を言った。

「貴男はもっと自信を持つべきですよ。彼女のことだけでなく、あらゆる場面でね」

 占い師の言葉に含まれた嫌味に気付くことなく男は大笑していた。今、男は女が自分を選んだことを知って幸せの絶頂にいるのだ。

 さっきまで男は分厚いカーテンの奥に隠れて占い師と女の会話を聞いていた。占い師はあまりの男の浮かれように、女が部屋を立ち去るまで男の理性が続いてくれて良かったと、今になって冷や汗をかいた。

 男が差し出した封筒を確かめる。

「お約束よりお金が多いようですが」

「なあに、僕のために嘘をつかせたわけだから、謝罪も込みだよ」

「何も、嘘はついていませんよ。勘のいい見合い相手が浮気しそうなのも、貴男がだまされやすいのも、彼女が貴男を好きなのも本当です」

 封筒を懐に入れ、己の携帯電話を取り出した占い師は端末の画面を確かめてにやりと笑った。


   ◇◇◇


 送金を確かめると女は携帯電話をバッグにしまい紅茶をすすりながら男を待つ。

 浮かれて転ばないかしら。と考えて笑いがこみ上げそうになったが表情には出さない。

 彼に占いの館を勧められてから、占いに行くまでの時間が短くて大変だったが、事前に占い師とコンタクトを取り、買収し直すのも上手く行ってよかった。

 それにしても、

 女は笑いをこらえる。

 占いで自分を選ばせようとするなんて、彼の発想はいつも突飛で、奇抜で面白い。それでいて自分は頭がいいと思っているのだから笑ってしまう。カーテンの奥で餌を取られた檻の中の猛獣のように動きまわっていたのは傑作だった。

 きっと一生、私を楽しませてくれる。

 数分後、喫茶店には誰が見ても幸せなカップルがいた。


          了


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