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4-7 泥水のメロディー-2

 “ゲーム”開始の宣言と同時に大鎌を振るう。しかし、全く手ごたえが無い。

 リリィがその背中の2対4枚の翅を使い、アタシの攻撃から空に逃れていた。

 その見下ろしてくる視線は冷たい。背筋にぞわり、と寒気が走る。


 空を飛ぶリリィのスピードは凄まじいものだった。右、左、背後……アタシの視界から逃れるように回り込みながら、蹴りや突きを放ってきた。

 

 「う、ぐっう!!」


 ―――今度は上だった。打ち下ろされたその手を大鎌で受ける。が、重い。リリィの攻撃の一撃一撃は、重く、鋭い。単純に強い。Aランク以上、なんて言われるだけある……!

 完全に防戦一方だ。今までの敵とは一線を画していた。


 「まぁ、雑魚だったらそれはそれで虚しいけどね……!」


 だが、アタシに勝ち目が全く無いってわけじゃないらしい。今のところ攻撃を受けること自体は出来ている。動きもまだギリギリ見える、対応できる。

 ―――やられっぱなしは性じゃない!


 背後に回ったリリィが繰り出した裏拳を後頭部に食らった。脳がぐらり、と揺らぐ感覚。がそれを“蜜”の力で無理矢理押さえつけ、大鎌を振るう。

 被弾覚悟のカウンターだ。背後に回ることを予想し、迅速に攻撃を仕掛ける!果たしてその成果は出た。

 アタシの大鎌に切り裂かれたリリィは、その体の傷口から真っ黄色い“蜜”を吹き出した。


 「花子チャンのカウンターが炸裂ゥ!!ついにリリィの体に傷をつけたぁ!!」

 「……っ!」

 

 その被弾に揺らぐリリィに攻撃を次々と仕掛けていく。

 

 「そら、うりゃ、おりゃ、当たれぇ!」


 一気に形勢逆転を狙う。一発当たった所から追撃を重ねて一気に崩す!これも立派な戦法だ。

 今まで出したことの無いぐらいの力を“蜜”から引き出して、怒涛の連続攻撃だ。

 そのいくつかがかすって、またも黄色い“蜜”を吹き出すリリィ。

 

 しかし、その攻撃の合間をぬうように繰り出されたリリィの前蹴りがアタシの腹に叩き込まれて、弾き飛ばされた。


 「げっは!……酷いなぁ、女の子のお腹蹴るかねフツー」

 「……ふん」


 素っ気無いなぁ。

 やっぱりリリィは相当強いらしい。単純な強さからして、今までと全然違う。

 なんせ今まで通りなら最初の一撃で終わってたはずだしね。

 完全に「戦い」ってやつになっている。

 ここまで早く、力強く動いたことは無い。“蜜”から力をこれまでの戦いからとは比較にならないレベルで引き出しているアタシ。

 いいじゃないか―――ホント、派手にやれそうだ。


 弾き飛ばされて距離が空いた。すかさずアタシは大鎌を投擲して攻撃をしかける。

 飛び道具戦でもやってみようじゃないか、リリィ!


 「おっとお馴染み大鎌ブン投げ攻撃だ!さらに続けざまに投げる、投げる、投げまくる!」


 マイクンの実況通り、アタシは大鎌を増やしまくりながら遠慮なく投げつけまくっていた。しかしこれはさっぱり当たらない。リリィの機動力が凄まじい……!


 が、別にこれは最悪当たらなくても問題ない。躱された大鎌が次々と闘技場に転がっていく。この全ては、この距離からでも、直接手に持っていなくても、自在に扱えるのだ。攻撃を仕掛けるとともに、次の布石も打っている、ということだ。

 

 しかし、リリィも黙っているわけじゃない。アタシの大鎌をよけながら、何か小さな針のようなものを、指のあたりから飛ばしてきた。

 それがアタシの頬に掠り、そこからつぅ、とアタシもまた黄色い“蜜”が流れた。

 

 「こんなしょぼい攻撃……っつうう!?」


 針がかすった瞬間、頭を何かでかき混ぜられた感覚がした。それに思わずふらついてしまう。

 その隙をつかれた。一瞬で目の前に現れたリリィが、正拳突きでアタシをぶん殴った。

 それを食らったアタシは思いっきりぶっ飛ばされ、“真価の闘技場”の“ゲームエリア”端の壁に大クラッシュした。

 なんつーか、あのYランク戦、プ〇さんまがいの大熊との戦いを彷彿とさせる。

 あの時と違うのは、きっちりダメージを受けてるってとこだな。


 「おっとリリィの攻撃が完璧に決まった!花子チャン、立てるかぁ!?」 

 「あんにゃろう……やりやがったな!」


 悪態をつきながら体を起こすと、追撃の小さな針が何本も飛んできていた。

 アレに掠ってから頭をかき混ぜる嫌な感覚が消えない。毒か何かか。とりあえず、もう食らいたくない。

 大鎌を滅茶苦茶に奮い、全て叩き落す。


 「それはね、花ちゃん。―――初めて“蜜”をもらった時のことを覚えてる?あの時の苦しみを蘇らせる私独自の毒よ」


 不意にリリィが話しかけてくる。

 その苦しみとは、


 痛みが湧く。でも寂しくてどうでもよくなる。

 怖くて仕方ない。でも寂しくてどうでもよくなる。

 気が狂いそうだ。でも寂しくてどうでもよくなる。

 孤独、焦燥、寂寥がアタシを混ぜる、混ぜる、まぜる、マゼル、混ゼる。


 そう……そういったものだった。

 それをまた蘇らせる、だって?さっき掠っただけでもあたしの動きを止めるに十分だった。クソッタレに性格悪い攻撃じゃねえか。


 「その針にはアタシの“蜜”が少し入ってるの。それが他人の体内に入ると、そういう症状を引き起こせるみたいなの。アタシもこの間知ったんだけどね……そう、あれは地球人代表者連合軍を皆殺しにしてた頃だったかしら?あまりにも簡単に追い詰めてしまえたから、その戦いの後半には色々実験してたの」

 「それがアンタの性質、得意なことってワケ?毒、だなんて……マイクンが嘆くだろうねぇ『ビジュアル的に地味じゃねーか!!』ってさぁ」

 「ふん。随分余裕じゃないの。もっと食らわしたら黙ってくれる?」

 「やーだよ。…あー、あとさ、リリィ。んな正直に解説なんてしちゃってさぁ。バトル漫画かよ。馬鹿なんじゃないの?」

 「……いいじゃない。せめて、何で負けるのかぐらい知りたいでしょ?」

 その問いを笑い飛ばす。


 「ぶっは!このぐらいじゃ負けねーっての!リリィのバーカ!」



 アタシは、また駆け出して行った。まだまだ手はあるんだよ、コノヤローが!


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