4-7 泥水のメロディー-3
「来い!こっちに!」
先に投げて増やして投げて置いた大鎌のうち十数本を、アタシの所に呼び寄せた。
すぐにぶっ飛んできた大鎌達。
「ヨシヨシ。そのままアタシの周りを離れるな!守れ!」
グルグルと大鎌数十本がアタシの周りを旋回し続ける形になった。
「むっ……」
リリィが顔をわずかに顰める。
「フフン、気付いたかリリィ。増やせるし、手を使わずとも自在に操れる。つーことはこういう使い方も出来るんだよ!」
アタシの“蜜”による力は、本当に大きくなった。以前は100本単位で大鎌を増やしていると急激に疲れが出ていたし、こんな細かい使い方なんて出来なかった。
だけど、“蜜”は思い通りにする力、ご都合主義パワーだ。
その実感を深めることによって、引き出せる力は際限なく増えていき、応用もかなりきくようになった。
「今まで使う機会が無かったんでね。こういう小細工もイカすでしょ?」
「おおっとぉ!?花子チャンの周りを大鎌達が囲んでいる!なるほど、壁ってことか!これをかいくぐって攻撃を当てるのは骨が折れるぜ!?」
そう、実況の通り。こいつらは壁だ。さっきみたいな針が飛んできてもこれだけの鎌の壁があればあっさり弾き返せるって話だ。
リリィが例の毒入りの小さな針を指先から次々と連射してくるが、全て大鎌達が全てはじき落とした。
行ける。ついでに、アタシの周りのこの大鎌達が防御だけに使うモンじゃないってことも見せてやろう。
「リリィ、毒入り針を連射連射連射ァ!!しかし、花子チャンの大鎌に全部弾き返される!!んでもってそのまま突進をかけた!!一気に接近戦だぁぁぁーーー!!!」
「ふふん、行くぜーリリィ!」
大鎌の防御によってあっさり距離を詰めることに成功したアタシは、持っている大鎌を振るう……と連携して、周りの大鎌も操った波状攻撃をかける。
「こいつはえげつねぇ!花子チャン自身と大鎌達のコンビネーション!こりゃ避けきれるもんじゃねぇ、どんどんリリィの体が傷ついていく!!」
「オラオラオラオラ!!ガンガンいこうぜってなぁ!!!」
これがアタシの考えた、アタシの武器の特性を活かした最高の戦い方。まさに二刀流どころか十数刀流とも呼ぶべき連続攻撃!
アタシの持つ大鎌の攻撃を避けても、それをサポートするように動いていた別の大鎌が切り付ける。各々の大鎌の動きをまるでその数に応じて脳味噌の数が増えたかのごとく細かく、個別に動きをコントロールできるからこそできる、正確無比かつ絶えまない波状攻撃。完璧だ。
リリィもよく捌いているが、それでも傷はどんどん増える。
「オイリリィ!このまま終わりかぁ!?」
「……っつ!」
そう煽ってやると、リリィは翅を使って無理矢理空に逃げた。一旦退いて体制を整えるつもりか。
だけど。忘れてはいないか、リリィ。
“蜜”の力は「思い通りにする」力だって―――!
アタシは、空中を踏みしめてリリィに一直線に接近した。
「―――なんてこった!!!花子チャン……空中を走ってやがる!!!」
―――つーか今までなんでコレやるヤツいなかったのって話だよ。「思い通りにする」んだぞ?空くらい走れるってーの。
「なっ!?」
「逃がさねーぞリリィ!」
しかもだ。今日のアタシは冴えてるらしい。この接近すらオトリ。本命は―――
「―――っつぅがぁ!?……ど、どこから……」
余りにも上手く行き過ぎて思わず二ヤリと笑ってしまった。
さっきのアタシの周りに来させなかった大鎌の余り……放置されていた大鎌を操り、遠距離からスナイパーのように奇襲を仕掛けた。さっきの大鎌を投擲した時のスピードより数段早くしたのも功を奏したらしい。その大鎌は、アタシに集中していたリリィの不意を完璧についた形で直撃した。
そうして空中で大きく体勢が崩れたリリィのその隙をついて―――
丁度真っ二つにするラインで、大鎌を縦に振り下ろし、思い切りリリィを斬りつけた。
「完っ璧!!!花子チャンの大鎌が、リリィを捉えたァァァァァァ!!!!!」
―――――――――――――――――――――――――
「……真っ二つにするつもりでやったんだけど。やっぱそれなりに強いんだね、リリィ」
“ゲ―ムエリア”の丁度中心のあたりで、リリィは地に堕ち、倒れていた。
アタシはそれを見下ろしながら、話しかけていた。
頭のてっぺんから思い切りぶった斬ってやった。両断、とはいかなかったものの、もう戦えないだろう、と思えるぐらいの深く大きな傷がついていて、そこから絶え間なく真っ黄色な血液がわりの“蜜”が流れて流れて、止まらない。
「……っつ、ぜぇ、ぜぇ……」
「正直、あんま良い気分ってワケじゃないんだ、リリィ。本当なら、アンタを傷つけたいワケじゃない。特に恨みがあるわけじゃないし、……アタシ達、割と仲良かったと思うんだよね。大切だったさ、そりゃあ……」
これで終わりだと思ったら、普段は中々言えないようなことが口から漏れ出してきた。
「言えよ。言ってくれよ、リリィ。なんで急に“ゲーム”を中止する、なんて言い出したんだ。地球人を絶滅させる計画を主導し始めたんだ。……なんであたしと殺し合う、なんて言い出したんだ?」
「……い、言うと思う……?」
「このまま言わなけりゃアタシは、アンタを、リリィを、ただの狂人として、今からとどめをささなきゃなんない」
「とどめ……?」
「そうさ。その傷じゃもう動けない」
「とどめ……とどめ……っつぅぅぅ……」
……リリィの様子がおかしい。
口をきつく結んで、だけどその口は大きく歪んでいて……
―――笑いを堪えていた。
「っつはぁ、はぁ……とどめ、とどめときたか……花ちゃん、本気?」
「アタシは―――」
「ホントに、とどめなんて刺せると思う?」
「は―――?」
もう完全にリリィの口は笑いの形をとっていた。
「……私もね、多少は優しさってのを今でも持ってるんだよ。実況のマイクンが素晴らしいラストバトルってのを求めてたみたいだしね。……ねぇ、どうだった?プロレスラーは演技が上手いっていうけどさ、私もアマチュアなりに頑張ってみたんだけど―――」
ニマニマと笑いながら話すリリィ。その顔とアタシのつけた大きな傷がミスマッチで、見ていると落ち着かなくなってきた。
「演技……だって?その傷で?んな馬鹿な……」
「馬鹿はそっちだよ、花ちゃん。“蜜”の力、「思い通り」にする力……その持ち主が傷ぐらいでどうにかなると思ってるの?」
―――そう言うと、機械仕掛けの人形のようにリリィは体を跳ね起こした!
「んなっ……!?」
「はい、どーん!」
思い切り突き飛ばされた。リリィの姿が急激に遠くなる。また壁にクラッシュする直前で、なんとか踏ん張って耐える。
「ヒントだよ、花ちゃん」
リリィが静かに語りかけてきた。
アタシはとっさに、今“ゲームエリア”にある大鎌の全てを操り、フィニッシュムーブの準備をしていた。
―――焦っていた。アタシは。
「『“蜜”の力をどれだけ発揮できるかを決めるのは何か?って言うとね……まぁ自分でもハッキリしないけど精神力、みたいなもんさ。ねぇ、その精神力が自分の中にどれだけあるのか、その果てってそんなに簡単に想像がつくかい、キミ。心、でもいいさ。なぁ、想像がつくかい、心に限りがあるって。体力、みたいに分かりやすいもんじゃないだろ?』……そう、マアリは言っていたの。わかる?」
「要は、“蜜”の力に果てなんてないって、そう言うことよ。……そんなものがあるのに、この程度の傷が何だって言うの?」
リリィは、立っていた。
ニマニマと笑いながら、真っ黄色い“蜜”を垂れ流しながら、
それでも、この場の支配者、女王の様に立っていた―――




