4-7 泥水のメロディー-4
何だってんだ。
あんな死んでもおかしくないってぐらい傷ついてやがるのに、リリィはピンピンしているようにすら見える。
普通ならあと一息!なんて思うが、今のリリィの態度は、あと一息どころかスタートラインにも立ってないんじゃないかとこっちに錯覚させる。
……本当に錯覚か?
「戦いにはならないわ。『有限』と『無限』の埋められない差を見せてあげる」
リリィの言葉がフラッシュバックする。アタシは、「無限」に立ち向かっているんだろうか―――
上等だ。ならこっちは「無数」だ。。
「―――増えろ。増えろ、増えろ、増えろ!……増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ……ッッッ!!!」
ここら一帯の大鎌達に命じる。力の限り命じる。自分でもわからなかった、今まで使う必要が無かったその力を、底が見えるほどに使う!
「こ、コイツは……もうあり得ねーよ花子チャン!!!『真価の闘技場』が大鎌だらけじゃねーか!!!もう何も見えねえー、どうなってんだ今ァ!!?」
直にわかるさ。マイクンにそう心の中で呟いて、アタシは全力のフィニッシュムーブを放つ!
完全に焦りに支配された行動。その自覚はどこかにあった。
「コレで……コレで終わらねぇワケ、勝てねぇワケねぇだろ!!!」
不安を振り払うように、自然に口にしていた。
「―――あぁ、どうせ最後だし、言ってやるよ。この技の名前をな、リリィ。その方が“蜜”のシステム的にいいかも知れないな。アンタが『無限』だってんならこっちは『無数』だ!」
「あはは、花ちゃん、随分必死だね!無駄よ無駄。『無数』?……この程度で?」
「うるせぇ……!食らえばわかる!『無限……廻葬』!!!」
言っちまったよ。厨二ネームの必殺技名。だけど、それぐらい本気だ。
何に急かされるように、心臓がドクドク高鳴る。
うるせぇ。これで勝てる。勝てるに決まってる。勝つんだ。
何を不安に思うことがあるのか。
無数の大鎌達がリリィに殺到していく。
ガタガタと音を立てて。
ヒュンヒュンと風を切って。
呑みこんだ。
巻き込んだ。
ズタズタに引き裂いた。
「コイツは……『無限廻葬』!花子チャンのフィニッシュムーブだ!!しかもその数はまさに無数!!!今までとは規模が違い過ぎる……!!!間違いねぇ、これが花子チャンの全力!!!えげつねぇ、こんなの信じらんねーぜクソッタレ……やはり相手がリリィだからか!?花子チャンの全力は、リリィに届くのか!?」
届くのか!?じゃねーよ届くに決まってんだろ……!!!
「無限」がなんだってんだ。そんなもの「無数」で削りきってやる……!!!
リリィに次々と向かっていく無数の大鎌達が視界を塞いでいるせいで、アタシからリリィの姿は全く見えない。
その間もずっと、大鎌達はアタシに命じられてリリィはズタズタに切り裂かれている。力の限りを大鎌達を動かすのに使っている。
「ぐぅ……まだだ、まだまだ、まだまだまだまだまだまだまだ…………ッッッ!!!」
力を絞りつくすように引き出す。
……なぁ、リリィ。アンタもう死んでるだろ?
こんだけやってるんだぜ?
結局リリィが急に色々おかしくなっちまった理由は聞きさせなかったけど、しょうがねぇよな。
死んだら、元も子もねぇし。
あーあ、後に残るのはあの真っ黄色い“蜜”だけか。諸行無常だねぇ。
……クソッタレめ。
だったらなぜアタシはまだ必死にこいつらを動かしてるんだ。
まるでまだリリィが死んでないみたいじゃないか。
まだあそこにリリィがニマニマ笑いながら立っている気がする―――!
だとしたら……
―――ついに、力尽きた。大鎌が動きを止めて、今はただリリィがいたところに積み重なっている。
勝った、だろ?あの大鎌の山の下には、リリィが死んだあとの“蜜”の真っ黄色い水溜まりが出来ているはずなんだ。
だけど、なんだ。このアタシを覆う絶望感は。
何に?いったい何に?
これが、そうなのか?
……「無限」だってのか?
二ヤリと非人間的な程に口角をあげた笑みを向けられた気がした。
―――ふと気がつくと。
アタシの心臓を(心を)大きな銀色の針に突き抜かれていた。




