キューさん改め、レン君
先ほどまで倒れていた原っぱへ戻るため、杖で道を探ってみる。すると、
「あの、ぼくはどうしたらいいですか?」
と、キューさんに聞かれた。やさしいなあと思いながら、
「では、手を引いてもらえませんか」
「はい! もちろん!」
なんだかとても嬉しそうな声がして、右手首を優しく握られた。
よかった、人の手っぽい。たぶん……人だと思う。
そうして、ゆっくりと引っ張ってくれる。
ああ、安心とはこういうものかと、しみじみ思う。
足元のルイぴっぴが、不機嫌そうにブーブーと鼻を鳴らした気がした。
原っぱに座り、まずは自身の話をする。気を失って、気づいたらここに倒れていたこと。ルイぴっぴとは家族であること――そんなことをかいつまんで話す。
次に、キューさんの話を聞いてみた。
なんでもキューさんは「牧場」の出身で、道の先にいるという理想のご主人様に会いに行くところだったらしい。だが、乗っていた乗り物が何かに襲われ、どうしていいかわからず、とにかく三日ほど走り続けていたのだという。
「三日も走ってたの!?」
と驚愕すれば、
「ルイぴっぴだってそれくらいできる!」
と、すかさず下から文句が飛んでくる。張り合わないの、と膝の上のルイぴっぴを抱き上げて、頬ずりをする。
「仲がいいんですね」
と、少し寂しさを含んだ声でキューさんがつぶやく。
「まあ、長い付き合いですからね。キューさん。道の先に行くつもりだったなら、私も一緒に行っていいですか。旅は道連れといいますし」
ちょっとだけ図々しいかな、と思ったが、二人では大変なことになりそうなので聞いてみる。
「かまいませんよ。というより、ぼくもお願いがあります」
「私で聞けることなら。先に言っておきますけど、ルイぴっぴはあげられませんからね」
「別にそのウサギはいらないです。あの、ぼくのご主人様になってもらえませんか?」
言うや否や、がばりと抱きついてきて、逃がさないという意思表示をしてくる。
そのとき、ふわりと甘く、どこか水辺を思わせるさわやかな香りがした。
わあっ、と悲鳴を上げるが、「一生懸命働きますから」と必死に訴えてくる。
ルイぴっぴは、「ごしゅからはなれろ」と言わんばかりに、木の棒で何度もキューさんを叩いているようだった。背中あたりから、ばごばごと鈍い音がしている。
それでもキューさんは一切ひるまず、嗚咽交じりに「ぼくのご主人様になってください」と言い募ってくる。
これ幸いと、
「いいよ」
と返すと、
「本当ですか! おごっ!」
キューさんの悲鳴が聞こえたと思ったら、顔面にルイぴっぴが勢いよく抱きついてきた。
顔から引きはがそうとしても、なかなか離れない。息ができなくなって、もがく。
「うわき、だめ、ぜったい!」
と、顔の前でむーむーと怒りの抗議をしてくるルイぴっぴを、やっとの思いで引きはがす。
息を整えて、
「考えてみてよ、ルイぴっぴ。一人くらい、お料理とか作ってくれる人がいた方がありがたいでしょ」
と小声で伝えてみると、
ルイぴっぴは、それもそうかとばかりに、すぐに手のひらを返し、キューさんに指をさして、
「今日からお前は、召使い1号だ!」
と宣言した。
先ほどルイぴっぴに頭を踏みつけられて、少し気絶していたキューさんも意識を取り戻し、開口一番、
「ご主人様!、ぼくに新しいお名前をください!それが契約になりますから!」
と言う。
さきほど感じた香りを思い出す。
水辺に咲く花のような、静かでやわらかな気配。
――蓮。
その名が、自然と浮かんだ。
「レン」
と、呼ぶ。
すると、キューさん改め、レンの背中が淡く光を発し、「イサメ」の名が記される。
「ああ、ぼくは今日からレンです。ぼくのすべては、ご主人様のものです」
恍惚とした表情で、うっとりと、ねっとりと告げるものだから、
ルイぴっぴがまた、不機嫌そうに鼻を鳴らした。




