ああ、不便だ。
「もうっ!、ルイぴっぴ。このまま進んでも大丈夫? 道とかある?」
と聞いてみると、
「くさむら、あと、みちあるよ、ごしゅ」
と返事があった。なんというか、進んでいいのか不安になりながらも、慎重に進んでみる。
少しして、棒でつついたときの音が、しゃっしゃっという軽い音から、じゃっじゃっと背の高い草に当たる音に変わった。
さらに少し進むと、どすどすと、固めの地面に当たる感触に変わる。
距離にして数メートルほどだが、考えることが多くて大変だ。
「ふぃー、道に出たかね。ルイぴっぴは、どっちに行ったらいいと思う? 人がいる方がいいな」
というと、ふんふんと鼻を鳴らしたルイぴっぴが、
「ごしゅ、あっちからなんか来るよ」
「あっちってどっちさ?」
「あっちは……あっち!」
「はいはい、あっちね。で、何が来るの?」
「わかんない。なんか、へんなの」
あっちがどっちか分からないので、とりあえず待ってみる。何が来るのか分からないことに、不安を覚える。
すると、た、た、た、と、誰かが走ってくる音が左から聞こえてきた。荒い息遣いとともに。
一瞬の逡巡。意を決して、
「もし、すみません。道をお教えいただけないですか? 目が不自由なもので」
つくづく、見えるというのは大切だと感じた瞬間だった。見えていれば、なりを見て、話しかけてもよいか判断できるのだが、今は四の五の言ってはいられない。
「はあ、はあ、はあ……ああ、はい。ぼくは、どうしたらいいのでしょう?」
目の前から声がした。たぶん、自信はないけれど男性……?
女性といわれれば女性な声色で、でも「ぼく」と言っているし……。
それはさておき、妙な返しだと思ったが、
「呼び止めてしまい、申し訳ない。町へ行きたいのですが、方向を教えてもらえませんか?」
「ぼくも、ここら辺は知らなくて……ぼくは、ぼくは、どうしたらいいですか?」
どうしよう、会話が。ルイぴっぴと話すより難しいかもしれないと思い始めたが、めげずに続ける。
「では、あなたはどちらに向かわれているのでしょう?ああ、そういえば、名前を名乗っていませんでしたね。私はイサメといいます。こっちのうさぎはルイぴっぴという、私の家族です。あなたのお名前は?」
「えっと、ぼくは、ただ道の先へ行きたくて……」
一瞬、そこで黙り込み、
「あ! 名前はあります! きゅう、はち、はち、はち、ぜろです!」
数字?と聞き返したくなったが、ぐっと我慢して、
「教えていただき、ありがとうございます。お名前、少し長いので……キューさんとお呼びしても?」
「ええ、はあ……まあ、大丈夫です!」
なんだか歯切れの悪い返しだったが、ともかく、
「立ち話も何なので、向こうで座って話しましょうか?」
と、先ほど自分が歩いてきた方向を指さす。
すかさずルイぴっぴが、
「ごしゅ、そっち行ったら木にぶつかるよ」
と教えてくれた。
キューさんと話しているうちに、体の向いている方向が変わって、いつの間にやら、後ろも変わっていたらしい。
ああ、つくづく、見えないって不便だ。




