身分証はどこへ?
「ルイぴっぴの弾丸どんぐりが捕まえたんだよ! 捕まえたんだよ!」
イサメの肩に乗ったルイぴっぴが、胸を張って得意げに叫ぶ。
「はいはい。ありがとウサギー」
イサメは笑いながら、その小さな頭をわしゃわしゃとなでる。
「むわぁ~」
ルイぴっぴは気持ちよさそうに目を細めると、そのままイサメにぎゅっと抱きしめられ、幸せそうな声を漏らした。
――いたって、いつもの風景である。
イサメたちがこの廃村へたどり着いたとき、真っ先に騒ぎ始めたのはルイぴっぴだった。
「においする! ぶつかったやつのにおいがする!くらえ! 弾丸どんぐり!」
イサメが止める間もなく、ルイぴっぴはお腹のぽっけからどんぐりを取り出し、勢いよく投げ放った。
どんぐりは、まるで狙いを定めていたかのように一直線に飛んでいく。
「童子。どんぐりが飛んでいった方へ行ってみて」
「おう」
酒呑童子が向かった先で見つけたのが、ステイルだった。
無実だと必死に主張するステイルを、誰一人として相手にしない。
レンは無言のまま服を一枚ずつ脱がせ、丁寧に身ぐるみを改めていく。
袖の中。
靴の中。
ベルトの裏。
隠しポケット。
最後は縫い目まで確認したが――
「ご主人様……持ってないみたいです」
レンは申し訳なさそうに首を横へ振った。
イサメには、一つだけ決めていることがある。
ルイぴっぴを疑わないこと。
もちろん、明らかに変なことを言っているときは別だ。
今回も、イサメはルイぴっぴを疑っていなかった。
「うーん……」
身分証は、確かにこの男が盗んだ。
だが、持っていない。
どうしたものかと考え込んでいると、
「こいつ、腹ん中にでも隠してんじゃねぇか?一回腹ァさばいてみるか」
酒呑童子が、とんでもないことを言い出した。
すると、ルイぴっぴがお腹のぽっけから、大鉈を一本取り出して酒呑童子へ差し出す。
それを見たステイルは顔を真っ青にし、
「ひぃぃぃぃっ!」
と悲鳴を上げた。
「とりました!私が取りました!
でも、次の町でゴブリンに奪われたんです!本当なんです!だから許して!」
土下座する勢いで白状するステイル。
一同は半信半疑だった。
だが、さすがに腹の中へ隠しているとは思えない。
「……まずは次の町へ向かおう」
イサメはそう判断した。
「おじき! こいつここで逃がすのかよ!懲らしめねぇのか?」
酒呑童子が不満そうに尋ねる。
「そこら辺に縛っておいて」
イサメはそれだけ言うと、すぐ馬の方へ歩いていった。
「へへ……助かったぁ……」
安心して力を抜いたステイルだったが、
ゴッ!
「ぎゃっ!」
酒呑童子の拳骨が見事に頭へ落ちる。
「縛っとけって言われただけだ。 優しくしろとは言われてねぇ」
そう言って両手両足を縛り上げると、吊るし上げた。
本当なら尻に杭でも打ち込んでやりたいところだった。
だが時間もない。
「今日はこれで勘弁してやる」
酒呑童子はそう吐き捨てると、イサメたちの後を追って歩き出した。
一方その頃。
「ルイぴっぴ、こっち頭? 頭?」
「ごしゅ! こっちこっち! こっちだよ!」
「こっちってどっち?」
馬の背に半分だけ乗り上げたまま、イサメは左右どちらへ体を向ければいいのか分からず困っていた。
ルイぴっぴは一生懸命説明するのだが、
まるで話がかみ合わない。
しばらく、様子を見ていたレンがそっとイサメに手を貸す。
「ありがとう。レン君」
「当然です、ご主人様」
その様子を見ていた酒呑童子は、思わず鼻で笑った。
「……なんだかなぁ」
ほのぼのとした雰囲気に、さっきまでステイルへ怒っていたのが、なんだか馬鹿らしく思えてきた。
酒呑童子はそんなことを思いながら、小さく肩をすくめ、ゆっくりと仲間たちの後を追いかけるのだった。




