ただ、何となく振り下ろした。
その閑散とした街に着いたのは、ついさっきのことだった。
黒いドレスに身を包み、惜しげもなく豊満な谷間を見せつけながら、
ゆらり、ゆらりと優雅に歩く女が一人。
その女は、一緒に来たほかの者たちが井戸を探している間、何となく街を散歩していただけだった。
だが、その途中で、大変奇妙なものを見つけた。
――全裸の男だ。
両手両足を天へ向けて伸ばしたまま、一か所で縛られ、宙吊りにされている。
目隠し、耳栓、猿轡まで施され、唯一の情けだろうか、
上向きにつるされた男の背中側には一本の支柱が当てられていた。
支柱がなければ、自重だけで手足へ大きな負担がかかる。
その備えなのだろうが、その代わり背中は痛そうだな、と女はぼんやり思った。
照りつける日差しを一身に浴びながら、それでも男は微動だにしない。
さらされた股間だけが、彼を男だと判別できる唯一の手掛かりだった。
ちょうど尻のあたりには、
『お好きにどうぞ』
という看板まで立てられている。
しばらくその姿を眺めていた女は、くわえていた煙管を口から離した。
そして何のためらいもなく、それを振り上げると、
勢いよく股間めがけて振り下ろした。
ジュウッ!
肉の焼ける音が響く。
「ん゛ぅーーーーーっ!!」
男は体を大きくよじらせ、くぐもった悲鳴を上げた。
女は男が生きていたことに、特に何の感情も抱かない。
ただ気だるげに、
「殿下~。探し人、いましたよ~」
とだけ声をかけるのだった。
「それで、ステイル。ここで何をしている?」
拘束を解かれた男――ステイルは、火傷した股間を押さえながら、小さく体を縮こませていた。
マーカス殿下に問い詰められているのである。
このステイルという男は、スカイリア王国の密偵というより、マーカス個人の密偵だった。
彼は非常に優秀な密偵である。
もっとも、その優秀さは情報収集能力そのものではない。
密偵とは敵地や情報の集まる場所へ潜り込み、情報を持ち帰る仕事だ。
当然、常に命の危険と隣り合わせであり、正体が露見すれば、どんな殺され方をするか分からない。
だからこそ密偵は短命で、入れ替わりも激しい。
ところが、ステイルは異様なほど長生きだった。
その最大の理由は、彼の特殊能力とも言える危険察知能力にある。
彼は人に信用される術に長けており、敵地へ潜り込むこと自体は得意だった。
しかし、
「これ以上踏み込んだら危ない」
という感覚が人一倍鋭い。
危険を察知すると即座に撤退するため、捕まることも、自らを危険へさらすこともほとんどない。
だが、それは同時に彼最大の悪癖でもあった。
危険だと判断した瞬間、彼のチキンハートは情報収集よりも、自分が生き残ることを最優先する。
結果として、
「何かあるらしい」
程度の情報は持ち帰る。
だが、その先へ踏み込まないため、肝心の確度が高い情報は得られない。
そして結局、報告を受けたマーカスが自ら現地へ赴くことになる。
今回も、もちろんそうだった。
ステイルは、
「ティアーノが大変です!」
とだけ連絡を寄こし、その後は一切音信不通。
仕方なく、マーカス自らがやって来たのである。
マーカスは深く息をつくと、静かに剣を抜いた。
その切っ先を、ステイルの首へ当てる。
「もう一度だけ聞こう。
ステイル――ここで何をしている?」
ぷるぷると震えていたステイルは、観念したように、小さく口を開いた。




