表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/59

暗黙の掟

 ルイぴっぴがとんでもなく失礼なことを言っているので、イサメは内心ひやひやしていた。

 勝手にせんべいをあげようと腕から抜け出さないよう、ぎゅっと抱きしめていると、

「あなたがトップなのかしら?」

 相変わらず野太い乙女ボイスで尋ねられる。

「はい。イサメと申します。うちの酒呑童子がお店を荒らしてしまい、申し訳ありません」

「いいのよぉ~。聞いた話じゃ、うちが先に手ぇ出したみたいだし。

 改めまして、あたしはトッド。よろしくねぇ。後ろの人たちも……うふっ」

 妙に色っぽい声(でも野太い)で挨拶してくる。

「ごしゅ、この鹿、発情期かな~? 飼うと危険かな~? 飼ってい~い?」

 ルイぴっぴがまたも失礼なことを言い出した。

 幸い、ルイぴっぴの言葉が分かるのはイサメだけだ。

(ダメに決まってるでしょ!)

 という気持ちを込めて、もう一度ぎゅっと抱きしめる。

 すると強く抱かれたのがうれしいのか、

「むわ~」

 と上機嫌な声を漏らした。

 そのとき、

「失礼。僕は使用人のレンと申します。主は目が不自由なのです」

 突然、レンが口を開いた。

(はて? なんでそんなことを?)

 と思っていると、

「あら、ごめんなさいねぇ~。

 私とは握手できない系の人なのかと思っちゃった」

 イサメは一瞬で理解した。

(しまった。握手を求められていたのか。)

「いやはや、失礼いたしました」

 慌てて頭を下げる。

「いいのよぉ~。 さ、お話し合い、しましょ!」

 トッドは気にした様子もなく笑い、ソファへ案内してくれた。

 トッドとガンテツが向かい側。

 イサメたちは三人掛けのソファへ腰を下ろす。

 「せんべい、せんべい」と騒ぐルイぴっぴを抱きしめながら、話し合いが始まった。


「なるほどねぇ~。

 それで、うちへ来たわけなのねぇ~」

 トッドが納得したようにうなずく。

「つーわけでぇ、責任取って身分証探しやってくれや」

 酒呑童子が話を引き継いだ。

 その瞬間、

ドンッ!

 ガンテツが両者の間にある机を叩いた。

「おいガキ! ボスにその態度たぁ、どういう了見だ!」

 この場には双方の親分がいる。

 本来なら話をするのは、イサメとトッド。

 酒呑童子が前へ出るのは筋違いだった。

 親分の面子を守るため、ガンテツが声を荒らげたのだ。

 しかし、

「いいのよぉ、ガンテツ。

 あなた、童子ちゃんっていうのねぇ……」

 トッドは酒呑童子を見つめながら、あっさり止めてしまった。

 その目は恋する乙女――

 というより、獲物を狙う肉食獣そのものだった。

 着物の隙間からのぞく筋肉と刺青を、うっとりと眺めている。

「俺は、自分よりでけぇやつ抱く趣味はねぇ」

 なんて失礼なことを言う。

 イサメが慌ててたしなめようとすると、

「いやぁ~ん いいわぁ~。

 やっぱり童子ちゃんからは、いい男のスメルがプンプンするわぁ~」

 トッドはテンションMAX。

「でも、私より大きい人に出会うのって難しいのよぉ~」

 と、いじらしい声を漏らす。

 その横で、

「……ボス。話がそれてます」

 ガンテツが心底疲れ切った声でつぶやいた。


「あら、そうね。 本題だけど――身分証を盗ったのは、うちの子じゃないわよ」

 急に真面目な声色になったトッドが言う。

「言い切れる根拠は?」

 酒呑童子も即座に切り返した。

「あらぁ~。

 童子ちゃんなら、すぐ分かるんじゃない?

 この町が、どういう場所か」

 トッドは静かに語り始めた。

 このトッド・タウンはティアーノ公国内に存在している。

 だが実質的には、スカイリア王国の影響下にある町だった。

 国境を越える旅人相手の商売。

 そして、スカイリアへの情報収集。

 それが、この町の存在意義である。

 もっとも、関所の兵士だけで町を管理することはできない。

 人数も足りなければ、町の裏事情にも精通していない。

 だからこそ、トッドたちのような裏社会の人間が必要になる。

 多少の窃盗や暴行には目をつぶる代わりに、この町の裏側を任されているのだ。

 その代わり、絶対に越えてはならない一線がある。

 殺人。そして、この世界で何より重要な身分証の窃盗。

 それだけは絶対に許されない。

 もし見逃したとなれば、スカイリアとの信頼関係は崩れる。

 つまり、自分たちの立場そのものが終わる。

 だからファミリーはもちろん、町のならず者たちにも、その掟だけは徹底させている。

 だからこそ、

「うちの部下じゃないってことだけは、自信を持って言えるわ」

 トッドはそう締めくくった。

「信用できるか、んな話」

 酒呑童子が一刀両断に切り捨てる。

 するとトッドは待ってましたと言わんばかりに身を乗り出し、

「ああん!

 そう言うと思ってた!

 だからぁ~、とっておきのこと教えてあ・げ・る」

 語尾にハートマークが付きそうな声で、意味深に笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ