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ぐるぐる石

バシン!

「いってーーー!」

 レンが放った強烈な蹴りが、酒呑童子の尻に直撃した。

 普段ならたやすく避けられただろうが、今回は甘んじて受け入れる。

「お前がここにいる理由は何だ!? ぼくの"代わりに"ご主人様を守るのが役目だろうが!」

 あまり声を荒らげることのないレン君が珍しく怒鳴っているので、イサメも少し驚いていたが、

「まあまあ、私も悪かったから。それに一番悪いのは盗った人なんだから、ね」

 となだめる。

 人というものは、自分のことで怒るよりも、自分以上に怒ってくれる人を見ると、不思議と少し落ち着くものだ。


 身分証を盗られ、絶望していたところへ、意気揚々とレン君が戻ってきた。

 しかも、何だか死にかけの人を一人引きずりながら。

 うつむいているイサメを見つけ、慌てて駆け寄ったレンへ事情を説明すると、すかさず酒呑童子へ蹴りを入れに行ったのだった。


「ご主人様は何にも悪くないです! 悪いのは酒呑童子ただ一人です!」

「だから悪かったって言ってんだろ! ちゃんと取り戻してやらぁ!」

「何が取り戻してやるだ。そんなの当たり前だ!イキがるな!」

 やいやいと二人で言い争いを始める。

 その間にイサメはルイぴっぴの毛づくろいをし、ようやく体についた砂を払い終えた。

 二人の言い争いがひと段落したところで、

「それで、レン君のほうは収穫あったの?」

 と聞けば、

「あっ、そうでした!」

 今思い出したといわんばかりにレンが顔を上げた。

「トッドの部下を見つけてきました!」

 そう言うと、引きずってきた、どこが顔なのか分からないくらい腫れ上がった人物の頭をむんずとつかみ上げる。

 そして目を覚まさせるために、一発拳を入れた。

「ふがっ!」

「ご主人様! こいつがトッドの居場所を知っているはずです!」

 嬉しそうに言うレン君に、イサメはどういうことかを尋ねた。


 時は少しさかのぼる。

 ご主人様からお願いをされたレンは、情報収集のため、道行く人や店に入ってはトッドについて聞いて回っていた。

 だが、皆、知ってはいるものの語りたがらない。

 目をそらしたり、こちらを煙たがる様子ばかりだった。

(困ったなぁ)

 そう思いながら歩いていると、突然、三人組の男たちに囲まれた。

 レンは臆することなく、

「トッドさんという人を知っていますか?」

 とのんきに尋ねた。

 すると下卑た笑みを浮かべた男たちは、自分たちは"トッドファミリー"の一味だと名乗った。

 そして、

「路地裏でいいことをさせてくれたら、情報をやる」

 と言ってきた。

 もちろん、そんなことはしない。

 レンが、“殴らないから情報よこせ”と、まるで盗賊のような返しをすると、男たちは怒り出した。

 三人のうち一人が、ぐるぐる模様の描かれた奇妙な小石をレンの目の前へ突き出し、

「これを見ろ! 言うこと聞け! いいことしたくなってきただろう?」

 と言った。

 しかし、レンには何も起こらなかった。

 その直後、別の男がお尻を揉んできたので、それを攻撃と判断。

 三人まとめてぼっこぼこにしたらしい。

 そして、リーダーらしき男だけを連れて帰ってきた、とのことだった。


「ああ、とりあえず、怪我がなくてよかったねぇ」

 イサメは、まずそこに安心した。

「はい! それと変な石も一応持ってきました!」

 レンはそう言うと、イサメの手のひらへ、小さな石を載せた。

 目の見えないイサメには、それがどんな物なのか分からない。

 そのままルイぴっぴへ渡す。

 ルイぴっぴは石をじーっと見つめると、

「おたから! おたから! ごしゅ! これ、おたから!」

 お宝センサーが反応したのか、大騒ぎし始めた。

「あら、ルイぴっぴが、お宝だって。

 レン君、これルイぴっぴにあげてもいい?」

 一応確認すると、

「もちろんです!僕のものは全部ご主人様のものですから、ご主人様が好きにして大丈夫です!」

「ありがとう。ルイぴっぴもレン君にちゃんとお礼を言わないと」

 そう促されると、

「よくやった。ほめてつかわすぞ!」

 ルイぴっぴは偉そうにうなずき、さっそく石をぽっけへしまい込んだ。

「あの……それ、俺の石……」

 引きずられていた男が、おそるおそる口を開く。

 だがレンが一睨みし、無言で拳を見せると、

「ひっ! す、すんません! あなたに差し上げますから、もう許してください!」

 男は半泣きになって頭を下げた。


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