関所を越えて
馬車が大きな関所の前で止まった。
「相変わらず、この世界の馬車は腰にくるね」
ため息交じりに、レン君の手を借りながら馬車を降りる。
さすが国境といったところか。
比較的栄えているピエタの町と比べても立派な関所が、そこには佇んでいた。
だが、スカイリアからティアーノへ向かう道は驚くほど人が少ない。
反対に、ティアーノからスカイリアへ向かう道には、まばらながら人の姿があった。
「全然人がいませんねぇ。これも戒厳令の影響でしょうか?」
レンが不思議そうにつぶやく。
受付でティアーノへ入りたい旨を伝えると、門番は少し驚いた様子を見せた。
しかし、きちんと身分証を提示すると、
「入るのは構わんが、こちらへ戻るには数か月待たされるかもしれん。それでもいいのか?」
そう忠告しながらも、入国を許可してくれた。
国境を越えるため、荷物の検査を受ける。
イサメ、レン、酒呑童子の三人分の通行料を支払う。
ルイぴっぴはペット扱いなので無料。
ちなみに剥面ブラザーズは、戦闘力皆無ということで、ピッツァーに別の仕事を紹介してもらい、お留守番である。
(やっと身分証が役に立った)
そんなことを思いながら、懐へしまい、関所を越えていく。
関所を抜けると、すぐ宿場町になっていた。
町の看板には、
『トッド・タウン』
と書かれている。
見渡しても荒野ばかり。
まるで西部劇に出てくるような町並みだった。
「さてと。まずはピッツァーさんから紹介されたトッドさんを探すかね。町の名前から人の名前を付けたのか、人の名前から町の名前を付けたのか。どっちだろうね」
誰に聞かせるでもなくつぶやくと、
「ルイぴっぴも、いつかルイぴっぴシティ作るの!」
ルイぴっぴが一人、意気込んでいた。
「町の名前と一緒なんだから、その辺で聞けばすぐ分かるんじゃねぇか?」
酒呑童子が辺りを見回しながら言う。
「それもそうだね。レン君、ちょっと情報収集に行っておくれ。私たちはここで待ってるから」
レンは一瞬だけ「なんで僕が」という顔をした。
だが、酒呑童子と自分を見比べ、ご主人様が自分のほうを頼ってくれたことがうれしくなり、
「はーい!」
と軽やかに返事をすると、すぐ駆け出していった。
腕の中のルイぴっぴと遊びながら時間を潰していると、
「おじき、酒飲みてぇ。金」
と、ダメ人間まっしぐらの酒呑童子がねだってきた。
一切妥協することなく、
「ダメ」
と言い切る。
酒呑童子はぶつぶつ文句を言いながら、イサメに背を向け、少しだけ離れていってしまった。
ちょうどそのときだった。
ルイぴっぴがイサメの体をよじ登り、頭のてっぺんに立って雄叫びを上げた瞬間――
ドン!
真正面から大きな衝撃が走った。
「うわっ!」
ルイぴっぴごと地面へ手をつく。
頭の上にいたルイぴっぴは、その衝撃でころんと地面へ落っこちた。
その直後。
後ろのほうで、人が走り去る音が聞こえた。
ハッとして、
「ルイぴっぴ、大丈夫かい!?」
と聞けば、
「ルイぴっぴ、砂まみれ。ゆるさんぞ、さっきのやつ……ごしゅ、大丈夫?」
ルイぴっぴもこちらを心配してくれる。
幸い怪我はない。
ほっと胸をなで下ろした。
「おじき、大丈夫かよ」
心配そうな酒呑童子の声が聞こえたので、イサメは片手を前へ差し出した。
酒呑童子はその手をつかむと、ぐいっと引き起こしてくれた。
自分が目を離した隙に起きたことだけに、その声には珍しくばつの悪さがにじんでいた。
「急にぶつかられて、びっくりしたよ。」
そう言うと、酒呑童子が眉をひそめる。
「おじき。物、盗られてねぇか?」
その一言で、イサメははっとした。
慌てて体中を探る。
そして、
「ルイぴっぴ……身分証って、ルイぴっぴに預けたんだっけ?」
大事な物は基本的にルイぴっぴへ預けるようにしている。
きょとんとしたルイぴっぴが、イサメを見上げ、
「ルイぴっぴ知らない」
と首を横に振った。
イサメは深々とうつむき、
「身分証、やられた」
せっかく立ち上がったばかりだというのに、再びその場へしゃがみ込んだ。




