手の鳴る方へ
「で、なんでおじきは落ち込んでたんだよ。俺がいなくて寂しかったかぁ?」
わいわいと食事の準備をしている最中、酒呑童子が聞いてきた。
「別に落ち込んでいたわけじゃないよ。ただ平等とは何かを考えていただけさ。それと、おじきって何? 私のこと言ってる?」
昨日までそんな呼び方はしていなかったはずだ。
そう聞くと、
「んぁ? おう。前に必ず礼はするっつったじゃねぇか。それでよぉ、俺が親子盃を交わしてやるよ。だから今日から、おじきはおじきだ!」
謎の論理で、謎の主張をしてくる。
イサメは少し頭が痛くなった。
だが、とりあえず仲間になると言いたいらしいので、
「ああ、まあ、いいんだけど。私と一緒に来るなら約束してほしいことがある。その短気な性格と、怒鳴るのはやめてね。私は怒鳴り声が苦手だから」
そう告げた。
酒呑童子は懐から取り出した朱塗りの立派な盃に、安酒を注ぎながら、
「(おじきの前だけは)善処するよ」
と答える。
「え!? 血入れるの!? お酒に!? えぇ~……」
「文句言うなよ! 昔からそういうもんなんだよ!」
「ちょっと待ってください! ご主人様とこいつが親子になるんですか!? 僕はいったいどうなるんですか!?」
酒の飲み方でもめる二人に、レンが割って入ってきた。
どんどん酒を飲んで騒ぎ出す剥面ブラザーズ。
黙々とご飯を食べ続けるルイぴっぴ。
にぎやかな夜は更けていき――
気づけば朝が来ていた。
「じゃあ、みんなで帰ろうか」
次の日には、殿下はすでに姿を消していたらしく、挨拶をすることはできなかった。
ひとまずピエタへ戻り、ピッツァーからがっぽり礼金をせしめるべく、一行は帰路につく。
レンにおぶわれながら町を出ようとした時だった。
「イサメ様、お待ちくださいませ」
後ろから女性の声がした。
「その声は……エレナさん?」
「はい。この度は本当にありがとうございました」
「いや~、私は何も。それに私は――」
検察官ではない。
そう言おうとした時、
「憲兵隊の方からお聞きしました。私が勝手に勘違いしてしまっただけです。それに、工場を止めてくださったのはイサメ様だとも聞いております」
少し恥ずかしそうにしてから、
「それで、これ……せめてものお礼と思って」
エレナが何かを差し出してきた。
とりあえず受け取ったものの、イサメには何かわからない。
するとエレナが、おずおずと続ける。
「あの……その……下着です。その、お供の方の……」
そこで。
イサメは思い出した。
山を登った時も。
工場へ行った時も。
殿下と話した時も。
広場へ行った時も。
レン君が――
何も身につけていなかったという事実を。
「ああ……どうも。本当にありがとうございます」
イサメは深々と頭を下げた。
そして考える。
どうやってこの下着を、レン君に素直にはいてもらうかを。




