どうせ才能なんでしょう?
殿下のおみ足からぱっと手を放すと、おずおずと離れた場所で待機していた憲兵隊が近づいてきた。
一応事情を聞くということで、イサメたち一行も、それぞれ事情聴取を受けていた。
ルイぴっぴも一生懸命、自分が空を飛んだことを伝えていたが、それは誰にも伝わらなかった。
容疑も晴れ、酒呑童子は恩赦という形で器物損壊罪については不問となった。
「ああ~、空は高くて、澄み渡っていて、なんて心地がいいんだ! 見えないけど……」
イサメが大きく体を伸ばしながら声を上げる。
「無事でよかったです~」
レンに抱きつかれ、不満たらたらのルイぴっぴの鳴き声を聞いていると、
「マーカス殿下がいらしているらしいわ!」
という女性たちの黄色い声が聞こえてきた。
工場の爆発もあり、ほどなく霧が薄くなり、若干ながら青空が見えてきたらしい。
そのおかげで、カイファーの町でも、やっと人の声が聞こえてくるようになった。
殿下に改めて礼を言わねばと、急いで女性たちが向かったほうへ歩を進める。
すると、町の中心にはマーカス殿下と護衛たちが立っており、何やら準備をしているようだった。
集まった町人たちは皆、殿下の美しさにやられて、中には気を失うものまでいた。
しばらくすると、殿下は王家の剣を天へ掲げる。
そして――振り下ろした。
次の瞬間。
あたたかな光が町全体を包み込んだ。
まだぼんやりとしていた視界は鮮明になり、霧が完全に姿を消す。
そして何より、町人たちの肌の色がみるみるうちに元へ戻っていった。
「おお……これが噂に聞く、王家の光……太陽の光!」
誰かのつぶやきが聞こえる。
すると口々に、
「王家万歳!」
「殿下万歳!」
という歓声が上がり始めた。
イサメはというと、そっとその場を離れ、殿下が用意してくれた宿屋へ戻るのだった。
酒呑童子は酒とつまみを買い込み、宿へ戻ってきた。すると、なぜか部屋の前にレンが立っている。
まるで番兵のようだった。
「何やってんだぁ、おめぇ。中に“おじき”いんのか?」
酒呑童子が尋ねる。
「ご主人様はいま、部屋の中で落ち込んでいらっしゃる。気持ちが落ち着くまで、何人たりとも入れてはいけないと言われているんだ」
レンが若干不満そうに答えた。
「落ち込んでるだぁ? なんでまた?」
「どうせ才能なんだろう!」
と枕に顔を押し当てて叫んぶイサメ。声はくぐもって、そばにいるルイぴっぴ以外に聞こえないよう配慮されていた。
「どうせ二、三人しか治せないよ、わたしは、才能のあるやつはいっつもそうだ。才能でぶん殴ってくるんだ~!」
ぶつぶつと文句を言うイサメの頭を、ルイぴっぴがぽんぽんと叩く。
「ごしゅ、元気出して。ルイぴっぴがいるよ」
励まされると、イサメは枕とルイぴっぴを同時に抱きしめた。
「うわーん!」
ひとしきり不満を吐き出したあと、
「あー、すっきりした。レンくーん、おなか減ったからなんか食べに行こう!」
と言った瞬間。
扉が勢いよく開いた。
真っ先にレンが飛び込んできて抱きついてくる。
さらにその後ろから、
「おお、元気になったか、おじき! 酒盛りしようぜ~!」
酒呑童子と剥面ブラザーズがぞろぞろと入ってきた。
ルイぴっぴは思う。
ごしゅは、落ち込む。
ごしゅは、すぐ逃げたがる。
でも、ごしゅはすぐ前を向く。
ごしゅのいいところは、切り替えが早いところ。昔から、ずっとそうなのだ。




