天を拝めば、いいこともある
四方八方から向けられる殺気をその身に受けながら、
「私、何もしてません! 本当なんです! 悪いことなんて何もしてないんです!」
かくかくしかじかと(レディのことだけはうまく隠しながら)、律儀に手を挙げて事情を説明する。
「黙れ! 話は牢で聞いてやる。なに、すぐにでも“本当”のことを話したくなるだろうさ」
その言葉のニュアンスは、自分たちに都合のいい“本当”という意味だと、イサメにはすぐにわかった。
こういうのもなんだが、イサメは前の世界でも悪事に手を染めたことがなかった。
堅い仕事だったのもあるが、クライアントからの要求でグレーなことをするだけでも睡眠が浅くなってしまうほど、気が強くなかったのだ。そんなイサメさんだったので、「牢」という言葉だけで、もう戦意喪失していた。
手を挙げるよう言われていたにもかかわらず、土下座をする。
そして顔を上げると、拝むように手をすり合わせ、
「許して! お願い許して! 私たち本当に何も悪いことしてないんです! 本当なんです! 許して!……」
と、今にも泣き出しそうな声で懇願した。
すると横で見ていたルイぴっぴが面白がったのか、一緒になって天に向かって拝み始める。
「おいおい、いきなり罪人扱いかぁ~? 何の根拠があるっていうんだ、おいコラ」
酒呑童子がどすの利いた声で言う。
「やめなさい!」
イサメが慌てて止める。
「ほう。貴様だな。町の建物を壊した鬼というのは」
アンビシオンが酒呑童子を見る。
「それに子爵邸へ乱暴に押し入ったそうじゃないか。証言は取れている」
にやり、と笑みを浮かべた。
「だからそれは、工場に魔瘴石があったから問い詰めに行ったって、今説明しただろうが……」
酒呑童子の額に青筋が浮かぶ。
鉄棍棒を握る手にも力がこもった。
それに呼応するように、周囲の憲兵たちの殺気が一段と強くなる。
だがアンビシオンは片手を上げ、部下たちを制した。
「ふん。工場は爆発で木っ端微塵。炭鉱も吹き飛んでいる」
冷ややかな声だった。
「さて、貴様の言う魔瘴石が見つかる可能性はどれほどだろうな?」
一歩前へ出る。
「でまかせで騙せるほど、我々は甘くない」
(下手なこと言うから立場悪くなるじゃん!)
イサメは心の中で酒呑童子を小突いた。
もう頭を下げるしかない。
再び土下座をする。天を拝む。
ルイぴっぴも一緒に天を拝む。
レンは土下座するご主人様の横でしゃがみながら、静かに考えていた。
いざとなったら、ご主人様を抱えて逃げられるか。
相手は憲兵隊。軍人とまでは言わないまでも、手練れであることは間違いない。
それも集団だ。
さて、どうするか――。
その時だった。
イサメとルイぴっぴの必死の祈りが通じたのか。――いや、片方は遊んでいただけだが。
「その者たちの言っていることに偽りはない」
穏やかな、それでいて絶対的な声が響いた。




