子爵の最後
「おらおらおらぁ! 雑魚が! どけってんだよ!」
本気の酒呑童子にかなう者はおらず、向かってくる領兵たちを次々となぎ払っていく。
そのまま力任せに、子爵邸の扉へ鉄棍棒を叩きつけた。
無残に砕け散った扉の残骸を飛び越え、一直線に子爵令息の部屋へたどり着く。
ちなみにイサメは、ずっと背中の上で、
「やりすぎ! やりすぎだから!」
と必死に叫んでいたが、酒呑童子はまったく止まる気配を見せなかった。
「おう、こんなところに隠れてたか。どうなるかわかってんだろうなぁ? あぁ?」
部屋にたった一人で佇んでいた子爵令息が、酒呑童子の声を聞き、ゆっくりと振り向く。
「あは……あははははははは! 終わり、もう終わり! ぜぇ~んぶ終わりだぁ!」
目は完全にイっており、あり得ない量の鼻血を垂らしながら、ただ高笑いを続けていた。
「やっぱこいつも子飼いかよ。どうすっかな」
もとより、こいつに工場作りなどできるとは思っていなかった。
どうせ誰かが裏にいるのだろう――そう考えていた、その時だった。
突然、床がなくなった。
まるで最初から何もなかったかのように。
「うおっ!?」
酒呑童子が叫ぶ。
突然の落下感に、イサメも叫ぶ。
「なにごとーーーーー!?」
ルイぴっぴも一緒に叫ぶ。
「たのしーーーー!!」
ドガン!!
酒呑童子が落下をものともせず着地する。
狭い、四角い部屋だった。
上から差し込んでいた光が、突然暗闇へ変わる。
思わず酒呑童子が上を見上げる。
そこには――
まるで肉塊のように肥大化した子爵の顔があった。
顔面だけがどんどん膨れ上がり、天井を埋め尽くしながら、ゆっくりと降りて――いや、落ちてくる。
「おいおいおい! どうなってんだぁ!?」
思わず叫ぶ。
とりあえず、ぶっ飛ばすか。
そう思って棍棒を振り上げた瞬間――
バチン!!
酒呑童子の顔面に、強烈なびんたが炸裂した。
酒呑童子の体が吹き飛び、壁へ直撃する。
だが、一見石造りに見えるその壁は、一切傷つかなかった。
いつの間にか地面へ降りていたイサメと、びんたの犯人であるルイぴっぴが、二人でわちゃわちゃしている。
「ルイぴっぴ! なんで酒呑童子叩いたの!?」
「ルイぴっぴ悪くないもん! 爆発するの防いだんだもん!」
「ああ、そうだったの。えらいね~、ルイぴっぴ!」
なんとも緊張感のない会話だった。
「おい! のんきにしてんじゃねぇよ!」
壁から体を引き剥がしながら、酒呑童子が怒鳴る。
「やべぇぞ! ここ、結界のせいで壁ぶっ壊して出ていくのも無理だ!」
おそらく、確実に仕留めるためなのだろう。
四角い部屋には結界が幾重にも重ねられていた。
上で起こる爆発を、この部屋の中へ余すことなく叩き込むための構造。
相当手の込んだことをしやがる。
どうする――。
酒呑童子は、「助けてうさぎ!!!」とルイぴっぴを激しく揺さぶっているイサメのほうを眺めた。




