はくめんブラザーズ
女が落としていった鍵を手に、暗闇へ消えた方向へ進んでいく。
すると確かに、そこには牢があった。
中には三人の男が倒れている。
「おめぇら、無事か!?」
酒呑童子が乱暴に鍵を開け、男たちのそばへ駆け寄る。
そのうちの一人を抱き起こし――そして、息を呑んだ。
肌は緑色に変色し、口から泡を吹いている。
かろうじて息をしている程度だった。
ぶわり。
酒呑童子から、怒気が噴き出す。
「こいつらには手ぇ出さねぇっていう、俺との約束を……あの野郎、破りやがったな」
低く、押し殺した声。
そして酒呑童子は、ばつが悪そうにイサメのほうへ振り向いた。
レンから男たちの様子を聞いたイサメは、例の本を取り出し、手をかざす。
するとすぐ横から、慌てた声が飛んできた。
「ご主人様、危険ですよ! さっき倒れたばかりじゃないですか。もう少し休んでからにするべきです!」
心配そうなレン君の声。
だが、イサメはそのまましゃがみ込み、静かに手をかざした。
「倒れたら、またみんなで介抱しておくれ」
そう言って、呪文を唱える。
案の定。
イサメの意識は、すとんと途切れた。
待ってましたと言わんばかりに、今度はルイぴっぴが地面と頭の間へ飛び込み――
飛び込み――
潰れた。
「むぎゅっ」
次に目を覚ましたときには、やたら騒がしい声が響いていた。
「アニキ~! 兄貴なら助けに来てくれるって信じてたっすよ~!」
「兄貴こそ漢の中の漢っす!」
「ア・ニ・キ! ア・ニ・キ!」
わーわー騒ぐ声。
そして。
「うるせぇんだよてめぇら! くっつくんじゃねぇ! におい嗅ぐんじゃねぇ!」
酒呑童子の怒号。
そのあまりのうるささに、イサメの意識は浮上した。
今回は無理に起き上がったりはしない。
頭を、ふわふわの毛玉枕へ預けたまま、ぼんやりと口を開く。
「……元気になったの?」
その瞬間。
その場の全員が、一斉にこちらを見たような気がした。
「おお、起きたか」
酒呑童子の声。
「すまねぇ。なにからなにまで、この恩はぜってぇ返す。約束だ」
見えないイサメへ向かって、酒呑童子が深々と頭を下げる。
それを見ていた男たちも、一緒になって頭を下げていた。
男たちの格好は、お世辞にも立派とは言えなかった。
薄汚れたふんどし。
丈の合っていない法被。
そして何より目を引くのは――顔を覆う包帯。
目と口だけが覗いている。
酒呑童子に蹴りを入れられ、自己紹介しろと急かされた三人は、
「あっしら、“はくめんブラザーズ”でーす!」
三人同時に、何やら変なポーズを決めながら名乗った。
残念ながら、イサメにはそのポーズは見えない。
だが、気になることはあった。
「……はくめん?」
言葉の意味が分からなかったからだ。
すると一人が、頭を掻きながら答える。
「ああ、“剥面”って書くんでさぁ。面ぁ剥がされたやつのことっす」
「要するに、疎まれもんってやつでさぁ」
「そんなあっしらを拾ってくれたのが、アニキなんすよ!」
なるほど、“剥面”か。
イサメは一人納得した。
「で、悪ぃが俺はそろそろ、あのくそ野郎んとこ行ってくるわ」
酒呑童子が立ち上がった気配。
「ここでちょっと待ってろ。すぐ終わらせてくらぁ」
それを聞いて、イサメは首を横に振る。
「私も行くよ。あなただけだと不安だし」
「そんな体でどうすんだよ。俺だけで行けるっつの」
「あなたが守ってくれればいいだけでしょ。それにルイぴっぴもいるし。ね?」
そう言って、枕代わりのルイぴっぴへ話しかける。
むーっ、と元気な返事。
さらに。
「もちろん僕も一緒ですよ! ご主人様!」
レン君が勢いよく名乗りを上げた。
だが。
「いや、今回はレン君はお留守番」
「えっ」
「剥面ブラザーズさんたちと一緒にいて。また誘拐されても困るし」
レン君が固まった。
イサメは何とか体を起こす。
少しだけぺちゃんこになったルイぴっぴを肩へ乗せ、酒呑童子へおぶさった。
剥面ブラザーズは、ひとまず工場から離れた森へ避難することになった。
ただ一人。
レン君だけは、この世の終わりみたいな顔で、地面にのの字を書いていた。




