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目覚めのフニフニ

 フニ、フニ、フニ。

 小さな手が、ぐいぐいと腕を押してくる。

(……なんか前にも、こんなことあったな)

 ぼんやりと思いながら、ゆっくりと目を開ける。

 ――何も見えないけれど。

「ルイぴっぴ……?」

 小さく囁き、その手を握って撫でる。

「ご主人様、起きましたか?」

 後ろから、それはもう嬉しそうなレン君の声が聞こえた。

(……なんで後ろ?)

 疑問に思いつつ、とりあえず起き上がろうと体を起こす。

 瞬間。

 ぐらり、と感覚そのものが揺れた。

「うわっ……」

 強烈なめまい。

 そのまま再び倒れ込む。

 どすっ、と頭が何かにぶつかった。

 硬い。

 だが、不思議と弾力のある感触。

「……いい枕だね、ルイぴっぴ」

 気を紛らわせるようにそう言うと、ルイぴっぴがぶーぶー鼻を鳴らしながら、

「ルイぴっぴだって、まくらになれるもん!」

 と抗議してくる。

 すると、また後ろから、やたら嬉しそうな声。

「僕のおなか、そんなに気持ちいいですか? 毎日使っても大丈夫ですよ!」

 ――えっ。

 イサメはそっと“枕”に触れてみる。

 手に伝わるのは、妙な温かみ。

 そして、綺麗に割れた腹筋の感触。

(……見えなくてよかった)

 心の底からそう思った。

「……もう少しだけ、休ませて」

 力なく呟く。

「せっかく珍しい魔法が使えんのに、魔力切れとかもったいねぇなぁ」

 近くから酒呑童子の声。

「やかましい!!」

 即座にイサメが返す。

 直後。

 ドガンッ!!

 ルイぴっぴの飛び蹴りが炸裂したらしい。

「ぐぉっ!?」

 鈍い悲鳴が響いた。


 しばらくして、ようやくめまいが収まる。

 体を起こすと、腹を押さえながら不満げにうめいている酒呑童子の声が聞こえてきた。

「……なんだかんだ言って、助かった。ありがとよ」

「無事でなにより」

 そこで一度言葉を切る。

「それで? あなたの悩みは?」

 酒呑童子は、一瞬言い淀んだ。

 だが、やがて観念したように口を開く。

「……俺の連れが、工場にいるはずなんだ」

 低い声。

「そいつらを助けたけりゃ、毎日あのまずい飯を食えって言われてな」

 妙な話だ、とイサメは思った。

 だが、話を聞くうちに察しがつく。

 おそらく子爵令息は、最初こそ酒呑童子を駒として利用しようとしていたのだろう。

 だが、あまりにも制御が難しかった。

 だから始末したくなった。

 しかし、人質を盾にしても、一か八かで暴れられては困る。

 そこで、時間はかかるが確実な“毒殺”を選んだ。

(……あの子息らしいな)

 イサメは何となく納得してしまった。


「ちょうどいい」

 イサメが立ち上がる。

「今から工場へ行って、人質助けて、――そのあと一旦帰るか」

「帰る?」

 酒呑童子が眉をひそめる。

「なんでぇ。子息のところにカチコミに行くんじゃねぇのかよ」

 すると、レン君が呆れたように口を開いた。

「馬鹿か貴様。子息のところへ行って暴れたりしたら、捕まるのはこっちだろうに」

「そうですよね~ご主人様!」

 イサメは大きく頷いた。

「あくまで今、“賊”なのはこっちだからね」

 静かに言う。

「状況をピッツァーに話して、次の動きを決めるべきだと思う。

 正義を味方につけなきゃ、できることも少ない。だからまずは、こっそり人質を助ける」

 酒呑童子は露骨に面倒くさそうな顔をした。

 だが、一応は納得したらしい。

 こうして一行は、工場へ向かうのだった。


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