鬼さんこちら
「なんだぁ、“いた”って!? 俺は幽霊かなんかか? あぁ?」
上の方から、大きな声。
よくしゃべる。
(……正直、うるさいな)
そう思ったが、こういう手合いは下手に口を挟まない方がいい。
黙っていると――
「なんでさっきから黙ってんだよ!? んあっ? なんだぁ……飯持ってくるやつかよ」
どさっ、と目の前に何かが落ちる音。
そのまま、すたすたと横を通り過ぎていく。
「おお、飯だ飯だ。相変わらず、まっずそうな色してやがる」
酒呑童子と名乗ったその男は、先ほどレンに倒された兵士が持っていた籠から、濃い緑色に変色したサンドイッチを取り出していく。
レン君が、そっと耳元で囁く。
「ご主人様。こいつも、ところどころ緑色に変色しています」
酒呑童子は、がつがつとそれを食べ始めた。
ときおり、うっ、と喉を詰まらせるようにうめきながら、それでも手は止まらない。
無理やり押し込んでいるような食べ方だった。
「あの……それ、食べると病気になるよ」
イサメは思わず声をかける。
もしかして、分かっていないのでは――そんな気がしたからだ。
「んなこたぁ、言われなくても分かってらぁ」
酒呑童子は吐き捨てるように言う。
「これはな、俺とあのクソ野郎との“約束”なんだよ。どんな約束でもな、俺は守る性分でな」
そう言って、用意されていた緑色の酒をぐいっとあおる。
次の瞬間。
「……ぐっ」
苦しげなうめき声。
体を折り、地面にのたうち回る。
「せっかくの忠告を無視するからこうなるんだ」
レンが、冷静に呟く。
だが、イサメは気になっていた。
「酒呑童子さん。その約束って、何?」
「てめぇには関係ねぇことだろ。引っ込んでろ」
低い、ドスのきいた声。
その瞬間、イサメの横でレンが殺気立つ。
イサメは一歩も引かない。
「いや、あるね。大いにある」
静かに、しかしはっきりと言う。
「その約束が原因で、あなたは町を壊したんじゃないのかい?
そして、そのせいで困っている人を、私は知っている」
一拍置く。
「それでも、関係ない?」
図星だったのだろう。
酒呑童子の息が、わずかに乱れる。
「あれは……悪かったよ」
ぽつり、とこぼす。
「すまねぇと思ってる。言い訳はしねぇ。煮るなり焼くなり、好きにしろや」
(……「粋」だ)
イサメは思わず、そう感じた。
間違いなく、何か事情がある。
それでも、言い訳をしない。
責任だけを引き受ける。
(「粋」だ。)
そう思わされた。
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「ごしゅー、ルイぴっぴもう出てい~い?」
服の中から、もぞもぞと声。
いいよ、と答える間もなく、ルイぴっぴがぴょんと飛び出してきた。
そのまま抱き上げる。
「かっこいいね、ルイぴっぴ」
思わずそう言うと――
状況をよく理解していないルイぴっぴが、目の前の男をじっと見つめて。
「ごしゅっ!!! いつからこんな“きんにくだるま”がタイプになったの!!」
ひとり、大きなショックを受けていた。




