緑色の霧
ガタンゴトン、ガタンゴトン――
ものすごく揺れる馬車が、ようやく止まった。
「もうしわけねえんだけどよ、ここから先は歩いて行ってくれ。カイファーに行ったやつらは廃人になるって、もっぱらの噂だでよ」
腰の痛みに顔をしかめながら、馬車から降り立つ。
この世界、道も微妙だわ、乗り物も微妙だわで、旅行しづらくてたまらん。
心の中で悪態をつきつつ、馬車主への礼金をレン君に頼む。
支払いが終わった直後。
「ルイぴっぴのお金、少なくなってきた」
肩の上で、ルイぴっぴがぶーぶー文句を言う。
「しょうがないよ、ルイぴっぴ。これも全部ピッツァーがケチなのがいけないんだ!」
遠くにいるであろうピッツァーに、しっかり文句を飛ばす。
何せ、路銀を交渉したときに「もうたんまりお持ちでしょう?」なんて意味深なことを言ってきやがったのだ。
追加で要求できる空気ではなかった。
そのうえルイぴっぴが、これでもかと食料を買い込んでぽっけに溜め込んだせいで、安い馬車しか頼めなかった。
道なりに、とことこ進む。
休憩をはさみつつ、とことこ、とことこ。
「ご主人様、関所がありますよ。でも……誰もいませんねえ」
レン君が、せっかく身分証の使いどころだったのにと、少し残念そうに言う。
関所――領地の入り口や、領都の付近に設けられる検問所だ。
大きな領地なら石造りの立派なもの、小さなところなら木造の見張り台程度の簡素なものになる。
それでも、建っている以上は役目があるはずだが――
誰もいない。
わずかな不信を覚えつつも、足を止める理由もない。
そのまま先へ進む。
しばらくして、さすがに疲れてきて、イサメはレンにおぶられて進んでいた。
「ご主人様、霧ですよ。それも、少し緑にくすんでいます。仮面は外さないようにしてください」
実はイサメは、あのゴブリンの一件から、ルイぴっぴにもらった被り物をずっと装着している。
何があるか分からない世界だ。
突然、毒やら何やらを投げつけられる可能性だってある。
安全第一である。
「緑の霧? もう嫌な予感しかしないけど……ルイぴっぴ? さっきからふんふん聞こえるけど、何やってるの?」
横で、ぶんぶんと一心不乱にルイぴっぴが棒を振り回している。
「このこながね! とれないの!」
一人(一匹?)、虫取り網で霧を捕まえようとしていた。
「ご主人様、この匂い……どこかで嗅いだことがあります。……あれ? だいぶ濃くなってきました。もう視界がききません」
「大丈夫なのそれ!? 絶対体に悪いやつじゃない!? ルイぴっぴも平気なの? それとさっきから、仮面に何か当たってるんだけど、やめて!」
霧が濃くなったせいか、ルイぴっぴはますます勢いよく網を振っている。
そんな調子で進んでいくと――
やがて、看板が現れた。
「ようこそ、カイファーへ」
緑色に薄汚れたその看板が、三人を迎えていた。




