身分証(仮)
「お約束の品です」
あっさりと手渡されたそれは、なんというか――年賀はがきより少し小さいくらいの、硬い板だった。
当然、読めるわけもない。
とりあえず、膝上のルイぴっぴに渡す。
ルイぴっぴはじっくりと眺め、ぺろぺろと舐め、匂いを嗅ぎ――
食べ物ではないと判断したのか、隣にいたレンに放り投げた。
ぱしっと受け取ったレンが、読み上げる。
氏名。そのあとに街名。推薦者の名。
そして最後に――
『この証書は、登録者の身分を証するものである。(仮)』」
「……かっこ仮?」
思わず聞き返す。
「なんだ、それ。かっこ仮って……あの“仮”?」
何度か繰り返していると、レンの視線がすっとピッツァーに向く。
その圧に押されるように、ピッツァーが口を開いた。
「正式なものまでは、私の名だけでは発行できませんのでな。しかし、仮とはいえ――お約束通り、身分証はご用意いたしました」
……分かっていて言っている。
なんとも軽薄な物言いだった。
この出来レースのようなやり取りに、少しうんざりする。
だが、ここで投げるわけにもいかない。
「それで? 次は何をすればいいんでしょうかね」
わざとらしく、少し面倒そうに言ってみる。
すると――
「おおっ、話が早くて助かりますな。あなたとは今後も良い関係を築いていきたいものです」
にこやかに続ける。
「実はですね、ピエタから少し東へ行ったところに、カイファーという町がありまして。最近、その町からの荷が届きづらくなっておりましてな」
――嫌な予感しかしない。
「原因を調べてきてほしいのですよ~」
語尾が、やけに軽い。
「……原因を見つけて、どうすればいい?できることならやりますけどね。できないことのほうが多いんですよ、世の中」
ビジネスで一番大事なのは、“成果”をはっきりさせることだ。
原因の特定なのか。
排除なのか。
それで話はまるで違ってくる。
すると、ピッツァーは――
「まあ、そのあたりはあなたにお任せしますよ」
――こいつ。
イサメは心の中で毒づく。
(ダメな経営者みたいなこと言いやがって……こういうやつが一番苦手なんだよ)




