ピッツァーの思惑
思った以上の成果だった。
ただの旅人とは思っていなかったが、まさかあの巣を見事に潰してくるとは。
――上出来だ。
なにより好ましかったのは、こちらに深く踏み込んでこなかったこと。
それでいい。
不用心に深入りする人間は、ビジネスには向かない。
お互いに、隠し事ができなければ。
そう考えていると、扉が開く。
「ねぇ――あなたと私の関係って、何だったかしら?」
闇に溶け込むような、漆黒のドレス。
女が一人、静かにこちらを見つめていた。
緩慢な動きで、手にしたキセルを持ち上げる。
舌で迎え入れるように、それを咥え込む仕草。
妙に淫靡で――
ピッツァーは思わず喉を鳴らした。
「ふむ……ビジネスの関係だろうな、レディ」
「じゃあ、どうして巣を? 大切に育てていたのよ。そうでしょう?」
「レディ。よく考えてみてくれ」
一拍置く。
「あの巣は確かに役に立った。だが、今となっては――ただのお荷物だ」
女が、ふう、と煙を吐く。
こちらの言葉を値踏みするように。
「ゴブリンどもは足がつかない。それでも、あれだけの人数を拉致させれば、さすがに怪しむ連中が出てくる」
言葉を選びながら、続ける。
「関わる人間も増えすぎた。……ここらで清算すべきだった」
女と目が合う。
「それで――私との約束はどうなるのかしら? ビジネスはウィンウィンじゃなくて?」
「もちろんだ」
わずかに口元を緩める。
「新しいビジネスを考えている。君の目的は、自分が稼ぐことじゃない……そうだろう?」
少しだけ身を乗り出す。
「ライバルを蹴落とせれば、それでいい。違うかい?」
「まどろっこしい会話は嫌いなの」
ぴたりと遮る。
「何が言いたいの?」
――食いついた。
「今回、いい手駒を手に入れた」
静かに言う。
「ある程度しぶとく、それでいてビジネスもできる駒だ。……せこせこと奴隷で稼ぐより、よほどいい」
女が、わずかに目を伏せる。
思案。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「いいわ。じゃあ――カイファの工場が欲しい」
「ほう。あまりいい噂は聞かんが……何がある?」
「あなたは、そこまで知らなくていい」
きっぱりと言い切る。
「とにかく、私はあそこが欲しいの」
もう一度、なまめかしくキセルを咥え直す。
その視線が、じっとこちらを射抜く。
「……ふん。いいだろう」
短く笑う。
「なんとかしよう」




