ゴブリンの巣攻略戦②
ゆっくりと洞窟の奥へ進んでいく。
ルイぴっぴに向かって、ふと口にする。
「ルイぴっぴもレン君も、よくこの匂いに耐えられるね。私は無理だよ」
「ルイぴっぴ、つおいから、だいじょぶ」
「いやー、牧場のほうがくさいとき、ありましたからね~」
二人とも、なんとも朗らかに返してくる。
――私だけがおかしいみたいじゃないか。
そんなことを思いながら、さらに奥へと進む。
ふと、レン君が足を止めた。
「ご主人様、少しだけここでお待ちください」
そう言うや否や、レン君はどこかへ歩いていく。
ひた、ひた、ひた。
ぴちゃん、ぴちゃん。
足音と、水滴の音だけが響く。
その静寂を――
ざしゅっ。
何かを切り裂くような音が、唐突に破った。
ざしゅっ。
ざしゅっ。
それが、何度か続く。
胸の奥が、ざわつく。
「……レン君」
小さく呼ぶ。
「お呼びでしたか、ご主人様。ちょうど終わりましたよ」
すぐ近くから、いつもどおりの声が返ってくる。
――何が終わったのか。
聞かなくても、分かってしまう気がした。
だから、聞かなかった。
代わりに、なんとなく別のことを口にする。
「明かりは……あるの? よく見えるね」
「僕、くらやみ得意なんですよ」
少しだけ誇らしげな声。
それに対して、私はまた、
「そう」
とだけ返した。
少しの沈黙。
そのまま、言葉を選ぶようにして、口を開く。
「……じゃあ、先に行こうか」
「はい」
レン君の手が、そっと私の手を握る。
その温もりを頼りに、再び歩き出した。
時折、ルイぴっぴが横から、
「こっちはだめ、あっち」
と、アドバイスをくれる。
どうやら、なかなか入り組んだ洞窟らしい。
――ちゃんと戻れるだろうか。
一抹の不安を覚えた、そのとき。
「ご主人様、明かりが見えます」
レン君がそう教えてくれる。
慎重に近づいてみると、どうやらそこには檻がいくつも並んでいるらしい。
レン君が、状況を淡々と説明してくれる。
人間のオスとメスが、それぞれ檻に入れられていること。
メスのうち、腹の大きい個体は檻の外に出され、倒れるようにして眠っていること。
そして、近くには料理をした形跡があること。
本で読んだ知識が、頭をよぎる。
――ゴブリンは、家畜を飼う程度の知恵はある。
拉致した人間を家畜として飼育し、やがては精神を折り、支配下に置く。
救いを諦めた者は、やがて――ゴブリンの側に堕ちる。
思わず、息を呑む。
「レン君。檻の外にいる人たちを、ひとまず檻の中に入れてくれる? 鍵はある?」
指示を出すと、レン君は即座に動いた。
一方、ルイぴっぴはというと、作られていた食事のほうへと向かい――
すぐに戻ってきた。
「まずそう」
とのことだった。
「ここから先はなさそうですよ。それにしても、ゴブリンがいませんね。道中で数匹見かけたくらいで……これだけの人数を捕らえられるものでしょうか?」
レン君が、小さくつぶやく。
「こいつ、おバカ。あっちに道あるよ、ごしゅ」
ルイぴっぴが杖の先をつかみ、ぐいっと引っ張る。
「レン君、ここに道があるらしいよ」
「……そこ、壁ですよ、ご主人様」
怪訝そうな声。
だが、隠し扉の可能性もある。
レン君が、壁を殴りつけた。
――スカッ。
手が、壁をすり抜けた。
「ご、ご主人様……幻影の壁です。道が隠されています」
レン君の声に、明らかな動揺が混じる。
――なるほど。
本には、そんな記述はなかった。
つまり――
ゴブリンが、ここまでのことをしている可能性がある、ということだ。
進むべきか、引くべきか。
一瞬だけ迷い、ルイぴっぴにも意見を求める。
「かねのにおいがするぜ。れっつらごー」
――即答だった。方針は決まった。進む。
だが、……金の匂いって、なんだ。




