裸エプロンと全裸の違い
「止まれ、何者だ?」
門番を務めて十数年。いろいろな輩がやってきたが、今回のは特別おかしな連中だった。
やせこけた馬にまたがっていた男は、従僕だろうか、青年の手を借りて馬を降りると、そのまま手を青年の肩に置きながら、こちらへ歩いてくる。
おそらく盲人なのだろう。
そして何より特徴的だったのは、その盲人の肩にウサギが乗っていることだった。
乗っているというより、またがっているのか。前足を肩にかけたまま、のほほんとした顔でこちらを見ている。
そもそもウサギは無表情なものだと思っていたが――こいつは違う。
無表情というより、感情が“ない”。
「失礼。私は旅の者でイサメと申します。こちらはピエタの街で間違いありませんでしょうか? ピッツァーさんという方にお会いしたく、取り次ぎをお願いできますでしょうか?」
話しかけられて、はっとする。
今、なんと言った?
この街一番の有力者、ピッツァー様に会いたいと言ったのか?
半信半疑ではあったが、取り次がないわけにもいかない。新人に命じて走らせる。
しばらくして、その新人が血相を変えて戻ってきた。
――すぐにお通ししろ、とのことです!
……あのピッツァー様が?
いったい、こいつらは何者なんだ。
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驚くほど速く街に入ることが出来て、思わず拍子抜けした。
賠償金代わりに盗賊から取り上げた馬のおかげで、ここまで楽に来られたのは確かだが――それにしてもだ。
こんなにも簡単に街に入れるとは。
よかったよかった、と安堵していると、門番が遠慮がちに声をかけてきた。
「入っていただいて構いませんが、その……なんというか……街の中には女子供もおりますので……さすがに、下半身は隠していただかないと……」
――は?
何を言っているのだろう。
私は服を着ているし、ルイぴっぴはウサギだ。
反論しようとして――ふと、一人だけ思い当たる人物がいた。
「レン君、もしかしてあなた、服を着ていないの?」
と問えば、
「奴隷は全裸が正装です!」
と、自信満々に返してくる。
そんなわけあるか。
思わず声を荒げてしまった。
門番が慌てて補足する。
「奴隷に服を着せないとする地域もありますが、ピエタでは特に規制はございません。ですので、何か着ていただきたく……」
レン君は嫌だ嫌だと駄々をこねる。
それをなんとか説き伏せて、ようやっと服を着せることに成功した。
――が。
何を着たのかは、見えないイサメには、分からない。
ただ、周囲の反応が妙だ。
「まあ……」
「あら……」
「ちょっと……」
ひそひそと、遠慮のない声が耳に入ってくる。
門番が渡してきたのは、たまたま手元にあったエプロン一枚。
結果――
全裸から、裸エプロンという、より変態的な格好になってしまっていることを、イサメは知らない。
そして周囲からは、
――あの盲人が、あんな格好をさせているのか。
などと、好き勝手に邪推されていることも。
もちろん、知る由もなかった。




