閑話休題 直観はあてにならない。
えらくきれいなのを連れているやつがいる――と、仲間の一人が大騒ぎでやってきた。
こんな世界だ。足を踏み外すなんて簡単で、盗賊稼業もすっかり板についてきていた。
酒も尽きてきたし、そろそろやるか――と思っていたところだ。
久しぶりに大型の獲物が来たかもしれない。
そう企んで、すぐに仲間に案内をさせた。
「なんでぇ、きれいなんて言うから女かと思ったら、オスかよ」
と、一人が文句を言えば、
「男も遊び方はいろいろだ。それに、壊れにくくてむしろいいぞ」
と、もう一人が返す。
「ばかやろう。手なんて出したら価値が下がるだろうが」
拳骨をくらわせて、タイミングを見計らう。
――そのとき。
ピッツァーのやつが現れた。
このあたりじゃ奴隷商として名を馳せている男だ。さすがに、こいつを襲うわけにはいかない。
さっさと失せてほしいと思っていたが――
会話の端々から、やつが奴隷の買い取りをしようとしていること、そしてそれがうまくいっていないことが分かった。
――ぴんと来た。
これは、うまくいく。
俺の直感が、そう告げていた。
仲間に合図を送り、獲物の前に飛び出す。
一瞬、目が合う。
値踏みするような視線だった。
俺はわずかに顎をしゃくる。
ピッツァーは、ほんのわずかに口元を歪めた。
それだけだった。
馬車が通れるように道を開けると、やつは当然のように横を通り過ぎていく。
――後は好きにしろ、か。
金の匂いがした。
杖を持ったやつが、目を閉じているのが見えた。
一瞬で理解する。
こいつは盲人だ。
それで奴隷なんて連れているのか――と、わずかに良心が痛む。
だが。
上物だった。
遠目でも分かる。
黒い髪は光を吸うみてえに艶やかで、
首筋から肩にかけての線が、妙にやわらかそうに見えた。
その下には、何もない。
布一枚すらまとわず、素肌をそのままさらしてやがる。
隠そうとする様子もねえ。恥じらいも、警戒もない。
無防備にさらされた肌が、やけに白い。
逃げることも知らねえ顔してやがる。
――触れたら、どんな顔するんだろうな。
何が盲人だ。
一糸まとわぬ姿の奴隷を堂々と連れ歩くこいつは、変態貴族に違いねえ。
そう決めつける。
良心を抑える理由を探すのにも、もう慣れちまった。
いつからこんなことができるようになったのかも、思い出せねえ。
今はただ、目の前の獲物を手に入れたあとのことを考える。
これほどの上物なら――
一度、味見をしてもいいかもしれない。
舌なめずりをする。
――そのときだ。
盲人のやつが、何かを叫んだ。
次の瞬間。
全身が痛みに支配されていた。
目もまともに開けられない。顔面が腫れ上がっているのが分かる。
――ちくしょう。
こいつ、愛玩奴隷じゃねえ。
戦闘用の奴隷だ。
仲間を助けるよう頼んでみる。
こういうのが好きなやつがいることも、経験で知っている。
意外と、この手で逃がしてくれるやつもいる。
――甘かった。
奴隷のやつは、容赦なく顔面を殴りつけてきやがった。
ちくしょう。
だが。
盲人のやつが、街に連れて行って引き渡す、なんてことを言い出したのを聞いて、俺の直感がまた告げる。
――こいつ、何も知らねえ。
知らねえなら、まだ生き延びられるかもしれねえ。
だが俺は、忘れていた。
一度目の直感が、まったく当てにならなかったことを。




