第七十三話 映っていない道
《優先警告。敵性個体十二。後方医療拠点へ進行中》
戦術画面の下端で、五十一人分の青い光が点滅している。
その北側を、十二の赤い印が真っ直ぐに南下していた。
橘蒼真は操縦桿を握ったまま、最も近い味方を探した。第一中隊は大型個体の正面にあり、第三中隊は東へ抜けようとする群れを押さえている。西部方面隊は、支援車両へ向かった中型個体を追って南西へ広がっていた。
誰も遊んでいるわけではない。
十二機すべてが、放置すれば別の被害を生む敵と戦っていた。
「医療拠点までの到達時間」
《敵性群、二分四十一秒。第一中隊は最短四分十二秒、第三中隊は四分三十八秒、西部方面隊は三分五十四秒を要します》
「リポルは?」
《道路を使用する場合、三分二十六秒です》
間に合わない。
蒼真は機体を南へ向けた。リポルの背中で、対大型個体用高出力穿杭槍の固定具が重い音を立てる。
『橘、待て』
八神隊長の声が共有回線へ入った。
『通常経路では届かない。第三の二機を戻す』
『無理です』
片瀬の短い返答に、発砲音が重なった。
『東側を外せば、九体が市街地外へ出ます』
『西部から一機出す』
『こっちも抜けられない!』
相馬の声は荒い。画面上で相馬機が中型個体へ体当たりし、支援車両との間へ割り込むのが見えた。
『一体だけじゃない。今、背中を向けたら車両まで行かれる』
八神隊長は答えなかった。
命令を出せないのではない。誰かを戻せば、戻した場所に別の穴が開く。訓練によって互いの動きが見えるようになったからこそ、そのことまで全員に見えていた。
中央では、大型個体の前肢が三浦機へ振り下ろされた。
三浦は戦斧の柄で爪を逸らし、路面を滑りながら大型の左側へ回る。傷を負った後脚へ二度目の一撃を入れようとしたが、小型個体が建物の陰から飛び出し、斧の軌道へ身体を投げた。
刃が小型個体を弾き飛ばす。
その一瞬に大型が身体を捻り、太い尾を横へ薙いだ。
『三浦!』
第一中隊の声が飛ぶ。
三浦機は戦斧を縦にして受けた。金属が潰れる音とともに巨体が浮き、中央分離帯を越えて店舗の外壁へ肩から叩きつけられる。崩れた壁が機体を覆い、青い識別表示が激しく揺れた。
『動けます』
三浦の声は短かった。
大型個体は追撃しようと前へ出たが、第一中隊の二番機と三番機が射撃を集中させ、その顔を正面へ戻した。
大型を止める部隊も外せない。
蒼真は、南へ走る十二体へ視線を戻した。
「なぜ、地下へ隠れていたんですか?」
《意図は確定できません》
「推測でいいです」
《地上戦力が三方向へ展開し、中央南進経路から離れるまで待機していた可能性が最も高いと判断します》
「自分たちが動くのを、待っていた?」
《はい。大型個体の発声と、各群の行動開始時刻には相関があります。また、地上へ出た十二体は最短経路を選択し、戦闘中の機体を避けています》
AIの声は、警告音の中でも変わらなかった。
《敵性個体群は、人間側の対応を予測した可能性があります》
「予測したというより、動かしたんじゃないですか?」
《その表現が適切である確率は七十一パーセントです》
第三中隊を東へ走らせた群れも、西部方面隊の支援車両へ向かった中型個体も、第一中隊へ回り込んだ小型個体も、すべて放置できない動きだった。
人間側が正しく判断することまで、大型個体は分かっていた。
ならば、最初の撤退戦も同じだったのかもしれない。
数が分かっているのに攻め込めず、どこへ動いても別の場所から敵が現れた。即席の大隊だから連携できなかっただけではない。連携できないことを見抜かれ、その弱さを使われていた。
「遊ばれていたんでしょうか」
《感情に基づく行動かは判断できません》
蒼真は、医療拠点へ伸びる赤い線を見た。
「では、人を狩るつもりですか?」
《後方医療拠点は、戦闘能力を持たない人員が密集しています。襲撃対象として選定した可能性は高いと判断します》
胸の奥が冷えた。
敵は逃げているのではない。偶然、南へ向かっているわけでもない。
河野を含む五十一人が、そこにいると分かって進んでいる。
蒼真は操縦席の右側へ表示されている避難状況を確認した。医療拠点の車両は八台。そのうち三台には既に資材と医療機器が積まれ、二台は負傷者の受け入れ準備中だった。今から全員を乗せて移動させても、十二体が着く方が早い。
「医療拠点へ連絡。北側から十二体。全員を建物の南側へ集めてください」
《送信します》
『こちら河野。聞こえた』
すぐに返事が来た。背後では、誰かが担架を動かす声と、車両のエンジンが始動する音が重なっている。
『こっちは移動を始める。そっちは?』
蒼真は答える前に、一度だけ唇を結んだ。
「向かいます」
『間に合うのか』
「まだ、道が分かりません」
『そうか』
河野は無理に励まさなかった。
『見つけたら来い』
「はい」
通信が切れる。
蒼真は市街地図を最大まで広げた。通常道路は使えない。東へ回れば第三中隊の戦闘区域へ入り、西へ回れば相馬たちの射線を横切る。中央を戻ろうとしても、倒壊した商業施設が道路を塞いでいた。
地図上では、そこに道がない。
「上から見た映像はありますか?」
《作戦本部の観測映像を表示します》
画面が四つに分かれた。
固定観測機の映像には中央広場が映り、別の一画面は第三中隊を追っている。残る二つも戦闘区域を映していたが、南側の商業施設は建物の陰に隠れていた。
「もっと南側は?」
《軍用観測機は配備されていません》
視界の端を、報道用ドローンが横切った。
大型個体を見下ろす位置へ移動し、三浦機が瓦礫から立ち上がる姿を追っている。
「報道用の映像は使えますか?」
《報道用撮影機は軍の指揮下にありません》
「映像だけでいいです」
《報道各社から作戦本部へ、安全確認用の無遅延映像が共有されています。ただし撮影対象は報道側が選択しており、必要な地域が映る保証はありません》
「三機分、全部ください」
《推奨しません》
即答だった。
「理由は?」
《空撮映像と搭乗者視点では、方位、縮尺、移動速度が異なります。過去の試験運用では、視点切替による平衡感覚の喪失、自機位置の誤認、目標識別の遅延が発生しました》
話している間にも、赤い印は南へ進んでいる。
《また、AIによる自動統合では、瓦礫の落下、飛散物、動物、他部隊の攻撃を脅威候補として取得し、警告件数が増加しました。通常の敵性個体は組織的な戦術行動を行わず、搭乗者視界内の情報処理を優先する方が討伐効率は高いと判断され――》
「分かりました」
蒼真は説明を止めた。
管理局にいた頃にも、似たようなことが何度もあった。
現場映像を増やせば安全になると考え、監視装置を追加する。しかし、AIは動いたものをすべて異常候補として拾い、風に揺れる養生幕まで作業停止の理由にした。警告を減らすように頼めば、安全情報を削除することはできないと答える。
そのたびに、現場の責任者から言われた。
機械は、見せたものを全部仕事にしようとする。だから何を見るかを、人間が決めろ。
「映像を自分には表示しないでください」
《確認します。報道用撮影機三機の映像を取得し、搭乗者表示から除外します》
「はい。そこから南側商業施設と医療拠点の間にある、機体が通過できる面だけを抽出してください。敵、味方、動く物の警告は要りません。高さ、幅、傾斜、耐荷重だけでいいです」
《安全上、敵性反応を除外した経路選定は推奨されません》
「敵は別の画面にあります。今は道だけ見てください」
《処理範囲を限定します。映像内に対象地域が存在しない場合、経路は算出できません》
「映っているところだけで構いません。三機が別々の時間に通った映像も使ってください」
一拍遅れて、AIが応じた。
《了解。過去三分間の無遅延映像を含め、地表形状を再構成します》
蒼真の前から三つの空撮映像が消えた。
自分で見れば、目が回る。正面の映像と上空からの映像を同時に理解し、そこへ地図と敵の動きを重ねることなどできない。
だから、見なかった。
AIには道だけを探させ、自分は目の前を見る。
リポルを走らせると、倒壊した商業施設が正面へ迫った。六階建ての建物は中央から折れ、上層階が線路跡へ倒れ込んでいる。道路を塞ぐ瓦礫はリポルの肩より高く、窓枠や鉄骨が不規則に突き出していた。
《経路候補を一件抽出しました》
画面上に細い紫の線が現れた。
道路ではない。
商業施設に隣接する立体駐車場の斜路を上がり、三階部分から崩れた連絡通路へ移る。そこから倒れた建物の外壁を足場にして鉄道跡を越え、反対側の配送倉庫の屋根へ降りる経路だった。
「耐えますか?」
《すべての足場について安全を保証できません。映像から算出した推定耐荷重は、リポルの静止荷重を下回ります》
「止まらなければ?」
《動荷重は増加します》
「滞在時間は減ります」
《倒壊前に通過できる可能性は上昇しますが、安全な経路とは評価できません》
「到着時間は?」
《一分五十二秒。敵性群より二十一秒先行します》
選べる道は一つしかなかった。
「行きます」
『橘、経路を確認した』
八神隊長の声が低くなる。
『それは道じゃない』
「映像上は、つながっています」
『途中で崩れたら終わりだ』
「道路を使えば、医療班が先に襲われます」
返答はすぐには来なかった。
中央の戦闘音が、回線の向こうから続いている。大型個体が三浦を止め、十二体が医療拠点へ走っている。蒼真を止めても、代わりに行ける機体はいない。
『三十秒ごとに位置を送れ』
「分かりました」
『帰る道も探させろ』
「はい」
リポルが立体駐車場へ入った。
薄暗い内部には放置車両が並び、傾いた床へ油と雨水が細い筋を作っている。リポルは車両の間を抜けられない。蒼真は左腕で二台を押し、壁際へ寄せた。潰れた車体が互いに重なり、その間を右肩が擦り抜ける。
《右側面、接触》
「装甲だけです」
《背部穿杭槍との間隔、十四センチ》
背中の武器が壁へ当たれば、固定具ごと損傷する。蒼真は機体を僅かに左へ傾け、天井の梁を避けながら斜路を上がった。
三階の壁は半分崩れ、外から朝の光が差し込んでいる。その先に、隣の建物へ伸びていた連絡通路があった。
床板は途中で割れ、幅はリポルの足一つ分ほどしか残っていない。
《推奨速度、時速六キロ以下》
「それでは間に合いません」
《高速通過時、崩落確率は六十八パーセントです》
「通過後なら崩れても構いません」
《帰還経路が失われます》
「別の道を探してください」
蒼真は速度を落とさなかった。
リポルの右足が連絡通路へ乗った瞬間、床が大きく沈む。左足を置く前に右足を蹴り出し、身体を前へ投げる。足元でコンクリートが裂け、落下する音が下階から響いた。
残った床板が傾く。
リポルは倒れた建物の外壁へ両手をつき、そのまま四つ這いに近い姿勢で駆け上がった。窓枠が掌の下で潰れ、外壁に亀裂が走る。背後で連絡通路が完全に崩れたが、振り返る余裕はなかった。
鉄道跡を越える場所には、十二メートルほどの空間がある。
向こう側の配送倉庫は一段低い。屋根の一部が抜けており、着地できる場所は報道用ドローンが斜めから捉えた僅かな範囲だけだった。
《着地点を表示します》
紫の枠が一つ浮かぶ。
蒼真は外壁の端で右足を沈めた。踏み切る直前、家の階段を跳び下りようとして美咲に止められた昴の姿が、なぜか頭をよぎった。
自分が今からやることを見たら、間違いなく真似をする。
「家では、できませんね」
《発言意図を確認できません》
「そのままでいいです」
リポルが跳んだ。
朝日が操縦席の正面を白く染め、足元から建物が消える。身体が一瞬だけ軽くなったあと、背部の穿杭槍に引かれるように機首が傾いた。
蒼真は右腕を前へ出し、左脚を畳んで姿勢を直す。
配送倉庫の屋根が近づく。
着地と同時に鋼板が大きく凹み、左足が屋根を突き抜けた。機体が前へ倒れかける。蒼真は右手を屋根へ叩きつけ、沈んだ左脚を引き抜きながら身体を転がした。
背部の固定具が鳴り、穿杭槍の先端が屋根を掠める。
《左脚部への衝撃、許容値を十四パーセント超過》
「動きますか?」
《動作可能です》
「なら、行きます」
倉庫の端から地上へ降りると、医療拠点へ続く道路が見えた。
その向こうから、十二体の群れが来る。
小型九体。中型三体。
先頭の小型個体がリポルを見つけ、走る速度を落とした。後続も次々に足を止め、道路の幅いっぱいへ広がっていく。
大型個体は、この一機が間に合うとは考えていなかった。
間に合ったとしても、後方にいた支援機一機で十二体を止められるとは考えていない。
蒼真自身も、少し前までなら同じように考えたかもしれない。
《医療拠点まで、敵性群残り四百八十メートル》
「全員、止める必要があります」
《はい。一体でも通過した場合、医療拠点へ到達する可能性があります》
逃げながら守ることはできない。
足を壊しても、別の個体が横を抜ける。押し返して時間を稼いでも、大型個体が残っている限り、また同じように群れを送り込まれる。
目の前の十二体を倒し、そのあと大型個体も止めなければ、後方は守れない。
蒼真は一度だけ目を閉じた。
怖い。
逃げたいという感覚は、なくなっていない。
それでも、後ろには河野がいる。負傷者を待つ人たちがいる。その誰かにも、自宅で帰りを待つ家族がいる。
蒼真は目を開いた。
「戦闘判断をこちらへ。退路と医療拠点の状況だけ見てください」
《戦闘制御の主導権を移譲します》
「出力制限解除。オートバランサーも切ります」
《推奨しません。背部兵装の追加重量により、重心が通常時と異なります》
「分かっています」
《解除後の転倒危険度は――》
「解除してください」
《了解》
操縦桿から、機械が動きを整える僅かな抵抗が消えた。
リポルの紫色の肩が沈む。
見た目は何も変わらない。装甲が開くことも、光を放つこともなかった。
ただ、最初から持っていた速さを止めるものが、なくなった。
先頭の小型個体が跳ぶ。
蒼真は正面から一歩だけ踏み込み、伸びてきた前脚の内側へ左腕を差し入れた。肩を押し上げながら身体を回し、敵の勢いを殺さず道路へ叩きつける。頭部が舗装へめり込むより早く、右足が二体目の胸を蹴り抜いた。
リポルは着地を待たない。
跳ね返る力で身体を前へ送り、三体目の脇を擦り抜ける。左手がその後脚を掴み、走ったまま横へ振った。持ち上げられた一体が四体目と衝突し、二つの身体が道路脇の壁へ転がる。
中型個体が正面へ出た。
開いた顎がリポルの頭部を狙う。
蒼真は上体を沈め、顎の下へ潜り込んだ。右肩を胸部へ当て、両脚の出力を一気に上げる。中型の前脚が地面から浮き、その身体が後ろの小型二体へ覆い被さった。
リポルの左足が、中型個体の頭部を踏み抜く。
警告音が一度鳴った。
《敵性個体、右後方》
「戦闘警告は不要です」
言いながら、蒼真は右腕を後ろへ振った。
見てからでは間に合わない位置だった。それでも、統合画面に残った敵の配置と、直前に聞こえた爪の音から、来る場所は分かっていた。
裏拳が小型個体の側頭部へ入り、跳びかかった身体の向きが変わる。リポルの背中を越えた敵へ左手を伸ばし、尾を掴んで道路へ引き戻す。そのまま一回転し、起き上がろうとした別の一体へ叩きつけた。
道路を塞いでいた十二の身体が、リポルの周囲で次々に地面へ落ちる。
蒼真は数を数えていなかった。
倒した数ではなく、動いている数だけを見た。
右に二。左に一。正面の中型が一。
中型個体が倒れた仲間を踏み越え、低い姿勢で突進する。正面から受ければ、後ろへ押される。その間に左右の小型が抜ける。
蒼真はリポルを前へ出した。
衝突する直前、右足を中型個体の左前脚の外へ置き、胸部を爪の脇へ滑り込ませる。外殻が肩装甲を削り、火花が操縦席の外を流れた。蒼真は左腕で敵の首を抱え、右手を顎へ添える。
勢いを横へ逃がしながら腰を回す。
中型個体の巨体が宙へ浮き、横から来た二体を巻き込んで反対車線へ落ちた。
残った一体が、リポルの横を抜ける。
医療拠点へ向きを変えた背中へ、蒼真は右腕を伸ばした。指先は届かない。踏み込んだ左脚へ、着地の衝撃による痛みの表示が走る。
それでも止めなかった。
リポルの身体が前へ沈み、次の一歩で小型個体へ追いつく。左手が後脚を掴み、道路へ押し倒した。起き上がろうとする頭部を右手で押さえ、動かなくなるまで地面へ沈める。
蒼真の呼吸だけが、操縦席へ残った。
《敵性個体十二。すべて停止》
「医療拠点は?」
《生体反応、五十一。欠損なし》
それを聞いて、ようやく右手の力が緩んだ。
『橘、聞こえるか』
八神隊長の声が入る。
「聞こえます」
『十二体は』
「止めました」
回線の向こうが、一瞬だけ静かになった。
『全部か』
「はい」
『……分かった。医療拠点を守れ』
命令の後ろで、大型個体の咆哮が響いた。
蒼真は北側の映像を開いた。
三浦機が単機で大型個体の正面へ残っている。第一中隊の三機は、周囲から戻ろうとする小型と中型を押さえるために離れていた。第三中隊と西部方面隊も、それぞれの敵を処理しながら中央へ戻ろうとしている。
大型個体を守っていた群れは、もういない。
その代わり、三浦も一人だった。
戦斧の刃は欠け、左肩の装甲が大きく潰れている。それでも大型個体の前から退かず、傷を負わせた後脚側へ回り続けていた。
大型個体の意識は、完全に三浦へ向いている。
後方へ送った十二体は、すでに役目を果たしたと思っているのかもしれない。
紫色の支援機が、それらをすべて倒したとは考えていない。
《大型個体が新たな敵性群を後方へ送る可能性があります》
「そうですね」
《医療拠点を防衛する場合、現在位置の維持を推奨します》
ここで待てば、次に来る敵を迎えられる。
だが、大型個体が残っている限り、それは何度でも続く。
医療拠点を守るためには、送られてくる群れを止め続けるのではなく、送っているものを止めなければならない。
蒼真は報道用ドローンから再構成された地形図を開いた。
三機は今も大型個体と三浦の戦闘を追っている。蒼真が欲しい南北の全景は映していない。二機は三浦を別の角度から捉え、もう一機は大型個体の頭部へ寄っていた。
報道映像としては正しい。
視聴者が見たいのは、空いた道路や倒れかけた建物ではない。
蒼真は、その使いにくい三つの映像をAIへ渡した。
「大型個体までの経路を作ってください」
《医療拠点から離れることになります》
「大型を止めなければ、また来ます」
《第一中隊が交戦中です》
「三浦一尉が正面を見ています。自分は、見られていません」
映像の中で、大型個体が三浦機へ向けて前肢を振るう。後方から近づくリポルへ、顔を向ける様子はなかった。
《経路を算出します》
「条件を追加。大型個体の視界へ入らず、残存する小型と中型を避けない経路」
《残存個体との接触を許容しますか》
「大型を守れる位置へ戻される前に、処理します」
《了解》
紫の線が、戦術画面を北へ伸びた。
商店街の裏手を通り、倒れた高架の下を抜ける。途中には小型三、中型一。そこを越えれば、大型個体の左後方へ出る。
背中には、使う予定のなかった穿杭槍がある。
「到達時間」
《二分十七秒》
「三浦一尉」
『はい』
返事の直後に衝撃音が響いた。三浦機が大型の爪を避け、欠けた戦斧を傷口へ押し込んでいる。
「二分十七秒、そちらを見させてください」
三浦は理由を尋ねなかった。
『分かりました』
「一人で大丈夫ですか?」
『今さら聞きますか』
息を吐くような笑いが、僅かに混じった。
『こちらは前です。任せてください』
「お願いします」
蒼真は医療拠点の五十一人をもう一度確認した。
全員いる。
次も、そうでなければならない。
リポルは背中の穿杭槍を揺らしながら、北へ走り出した。
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