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第六十六話 進めない十二機

 東部第七防衛区へ続く幹線道路は、規制線を越えたところから急に静かになった。


 進行方向を示す信号機は青へ変わっている。それでも交差点を渡る車はなく、歩道にも人影はない。昨日まで営業していたはずの店舗には照明が残り、無人の店内で案内表示だけが同じ映像を繰り返していた。


 道路脇に乗り捨てられた自動車の扉が開いている。買物袋から転がり出た缶詰や野菜が、歩道の縁へ散らばっていた。横断歩道の途中には片方だけの子ども靴が残り、風が吹くたび、外れかけた留め具が舗装を擦った。


 人がいなくなっただけで、街はまだ生活の途中に見えた。


 第一中隊の四機が南側幹線道路へ入り、その右後方を第三中隊が進む。相馬が所属する他地区中隊は、手前の分岐から西側へ離れ、地下鉄車両基地に近い三つの出入口を封鎖する経路を取った。


 三機の支援機は市街地外縁に残った。


 リポルの正面には、戦闘部隊十二機の位置と三本の進入経路が表示されている。二機の支援機も左右へ分かれ、それぞれ第一中隊と第三中隊の後方へついた。


 蒼真は中央支援線から、遠ざかっていく機体を見送った。


《微弱な救難信号を継続受信》


 白い点は市街地中央から動いていない。


「生体反応は?」


《確認できません》


「信号の発信間隔は?」


《十一・六秒から十四・二秒。不規則です》


 機体の自動発信なら、決められた間隔を保つはずだった。搭乗者が手動で送っている可能性もある。しかし、損傷した通信装置が不規則に作動しているだけかもしれない。


 どちらなのか、今は分からない。


『第一中隊、南側交差点へ到達』


 三浦の報告が入った。


『第三中隊、東側生活道路を確保』


 続いて神代の声が届く。


『西側封鎖隊、地下道出口一、二を視認。三は建物の陰だ』


 相馬が所属する中隊からも状況が上がった。


 予定どおりだった。


 臨時大隊は三方向から街へ入り、救難信号の発信地点を囲む。敵性個体の反応は、大型一、中型四、小型十二。大型は中央駅の南側から動いていない。数だけを比べれば、戦闘部隊十二機で対処できる範囲と判定されていた。


 それでも、蒼真は操縦桿から手を離さなかった。


 モンスターが使っている街へ、人間の側から入るのは初めてだった。


 *


 南側幹線道路は、片側三車線あった。


 先頭を進む三浦機は、長剣を右手へ下げ、左腕の重火器を建物の窓へ向けている。二番機と三番機が左右へ広がり、四番機は十数メートル後ろから背後を監視していた。


 交差点の中央には、路線バスが斜めに止まっている。前部は店舗の壁へ突っ込み、後部が道路の半分を塞いでいた。


『右から抜ける』


 三浦が短く告げた。


 二番機が先に動き、バスと中央分離帯の間へ入る。肩部装甲が標識の支柱へ触れ、細い金属音を立てた。


 その瞬間、バスの車体が横へ滑った。


『止まれ!』


 二番機が踏み止まる。


 横倒しになったバスの下から、黒い前肢が伸びていた。小型個体が車体を押し、機体の脚へぶつけようとしている。別の一体が店舗の二階から窓枠を破り、二番機の頭上へ飛び降りた。


 三浦機が一歩で距離を詰める。


 長剣は下から上へ振られた。


 刃が小型個体の胸部を捉え、跳躍の勢いごと軌道を変える。黒い身体は二番機の肩を越え、道路反対側の外壁へ叩きつけられた。砕けた窓ガラスが舗装へ降り注ぐ。


 二番機はバスを蹴り返し、下にいた個体へ銃口を向けた。


『撃つ』


 短い発砲音が二度重なる。


 弾丸は前肢の付け根を貫き、路面へ黒い体液を散らした。小型個体は車体から手を離し、横道へ逃げ込む。


『追うな』


 三浦は長剣を戻し、外壁へ飛ばした一体へ近づいた。敵はまだ動いている。折れた窓枠へ前肢をかけ、身体を起こしかけていた。


 その頭部へ長剣を突き入れる。


 抵抗が止まった。


『一体停止』


 三浦が剣を引き抜いた直後、道路の奥から低い音が響いた。


 吠声とは違う。


 巨大な空洞の中で、太い金属をゆっくり擦ったような音だった。店舗のガラスが震え、信号機の支柱から細かな錆が落ちる。


 三浦機が頭部を上げた。


 三百メートル先。


 中央駅へ続く高架道路の陰で、大型個体が立ち上がっていた。


 四本の脚はフレイムワーカーより太く、背中が高架の側壁を越えている。頭部の左右から伸びた角は途中で枝分かれし、その間に白い膜のような器官が張っていた。大型が頭を動かすたび、膜が午後の光を鈍く反射する。


『大型、視認』


 三浦は長剣を正面へ構えた。


 大型個体との間には、中型が一体いる。


 第一中隊二番機と三番機が左右へ開いた。四番機が重火器の支持脚を道路へ固定する。


『三番、右』


『了解』


『二番、左』


『了解』


 三浦機が中央を進む。


 最初の三歩は速くない。大型個体が逃げるか、配下を前へ出すかを見るための歩みだった。


 中型個体が頭部を低くし、三浦機へ正面を向ける。


 四番機の砲口が、その胸部を捉えた。


『射線、良好』


 三浦機が四歩目を踏み込む。


 大型個体が後退した。


 高架道路の太い橋脚が、その頭部を隠す。白い膜だけが一瞬残り、すぐに建物の陰へ消えた。


 同時に、中型個体が横へ跳んだ。


 三浦機へ向かっていた身体が、途中で二番機側へ変わる。四番機は照準を追わせたが、三浦機と二番機が射線へ重なったため撃てない。


『二番、下がれ!』


 二番機が左脚を引く。


 中型個体の角が、胸部装甲の前を掠めた。二番機は倒れず、左腕の防盾で敵の首を押し下げる。三番機が右側から射撃した。


 弾丸が中型個体の背へ当たり、表皮を弾く。浅い。敵は二番機を押す力を抜き、再び横道へ飛び込んだ。


 三浦が追おうとした瞬間、建物の屋上から瓦礫が落ちた。


 乗用車ほどの大きさがあるコンクリート塊だった。


『上!』


 三浦機が長剣を返す。


 剣の腹が瓦礫を受け、衝撃で右腕が沈んだ。砕けた破片が頭部と肩部へ当たり、外部映像が一瞬白く乱れる。


 大型個体は、隣の立体駐車場の陰へ移動していた。前肢で外壁を崩し、こちらへ投げている。


 三浦機が正面を向くと、大型はまた下がった。


 代わりに、先ほど逃げた小型個体が別の路地から姿を見せる。その後ろには二体いる。


『小型三、右側』


『中型、左へ移動』


『大型、見失った』


 第一中隊は交差点を越えられなかった。


 大型個体を追えば、中型と小型が側面へ入る。配下を倒そうとすれば、大型が離れた場所から瓦礫を投げる。


 三浦は目の前にいる敵なら倒せる。


 しかし敵は、三浦が倒せる場所に留まらなかった。


 *


 東側生活道路では、第三中隊が住宅街の入口を守っていた。


 道路幅は幹線道路の半分しかない。電柱と庭木が機体の肩近くまで迫り、二機が並べば、それだけで進路が塞がる。


 神代機は第一中隊側へ通じる交差点へ立ち、片瀬機と安西機が生活道路の奥を見ていた。御堂機は後方に残り、建物越しの熱源を探っている。


『南、戦闘開始』


 御堂の報告と同時に、遠くで砲声が鳴った。


 片瀬機が幹線道路側へ頭部を向ける。


『見るな。正面』


 神代の声が飛んだ。


『了解』


 片瀬が視線を戻した直後、道路脇の塀が内側から崩れた。


 小型個体が一体、住宅の庭から飛び出す。機体へ向かわず、道路を横切って東へ走った。その先には、防衛区の外へ続く生活道路がある。


『抜ける!』


 安西機が動く。


 右足で路面を踏み、逃げる個体の横へ出た。肩から投射索を放つ。先端の鉤が小型個体の後肢へ絡み、巻取装置が作動した。


 敵の身体が路面へ倒れる。


 安西機は索を張ったまま、左腕の短槍を構えた。


 その背後で、別の家屋の屋根が持ち上がった。


『安西、後ろ!』


 片瀬機が防盾を前へ出し、安西機との間へ割り込む。


 瓦と木材を押し分け、中型個体が庭から身体を起こした。狭い道路へ前肢を入れ、片瀬機の防盾へ頭部をぶつける。


 盾の表面を角が滑った。


 片瀬機は左足を後ろへ置き、腰を落として衝撃を受ける。踵が舗装を削り、道路に黒い線を残した。


『一体だけか』


『熱源、二!』


 御堂の答えより早く、中型個体の背後から小型が飛び出した。


 片瀬機の防盾を踏み台にし、安西機の頭部へ跳ぶ。


 安西は短槍を振れない。投射索が後方の個体へつながったままになっている。


 御堂機の中距離砲が一発だけ撃った。


 弾丸は小型個体の脇腹へ入り、跳躍軌道を横へずらす。敵は安西機の肩を掠め、二階建て住宅の壁へ突っ込んだ。


『安西、索を切れ』


『まだ捕まえてます』


『切れ』


 安西が接続を解除する。


 張っていた索が路面へ落ちた。拘束を失った小型個体は、倒れた姿勢からすぐに起き、来た道ではなく別の路地へ走り去った。


 片瀬機を押していた中型個体も、突然力を抜く。


 防盾から角を外し、壊した家屋の向こうへ下がっていく。


『追いますか』


『配置維持』


 神代は許可しなかった。


 第一中隊との間を空ければ、大型個体が東へ抜ける可能性がある。第三中隊の役割は、目の前の敵を追うことではなく、右側面と生活道路を同時に守ることだった。


 片瀬と安西は元の位置へ戻る。


 御堂が熱源を追った。


『中型、北へ移動。小型二、住宅の裏を東進』


『片瀬、東へ』


『了解』


 片瀬機が小型を止めるため、生活道路の奥へ入る。


 その直後、南側から警告が入った。


『第一中隊右側面、中型接近』


 神代機が幹線道路側へ向きを変える。


『安西、残れ。御堂、片瀬を戻せ』


『片瀬、戻れ』


『小型が外へ抜けます』


『追うな。戻れ』


 片瀬機が足を止めた。


 東へ走る小型個体の背中が、住宅の隙間から見える。あと数歩進めば投射索が届く。それでも片瀬は向きを変えた。


 小型個体は、追われなくなったことを確かめるように一度だけ振り返った。


 そして、外へは向かわなかった。


 次の角で曲がり、今度は第三中隊の後方へ回り始めた。


『進路変更。戻ってきます』


 御堂の声が僅かに低くなった。


 神代は第一中隊側と、生活道路の奥を交互に見た。


 どちらにも敵がいる。


 どちらも無視できない。


 第三中隊は、四機の間隔を少しずつ広げられていた。


 *


 西側の地下鉄車両基地には、地上へ通じる出入口が三つあった。


 一つは正門脇の搬入口。


 一つは整備棟の裏にある非常用斜路。


 最後の一つは、半地下の留置線へ続くトンネルだった。


 相馬たちの中隊は、正門と斜路へ一機ずつ置き、相馬を含む二機で中央のトンネルを監視していた。


 トンネルの中は暗い。


 非常灯は点いているが、奥へ進むほど間隔が広がり、線路の先は黒く沈んでいる。相馬機の投光器が、レールと整備通路を白く照らしていた。


『反応、接近』


 隊長機の報告が入る。


 相馬は投射索の安全装置を外した。


 暗闇の奥で、何かがレールを踏んだ。


 硬い爪が金属へ当たり、短い音が一定の間隔で近づいてくる。やがて投光器の端に、小型個体の頭部が現れた。


 一体。


 その後ろに、もう一体いる。


『二』


『引きつけろ』


 相馬は動かなかった。


 先頭の個体が光を嫌うように頭部を振り、それでも一歩ずつ前へ出る。二体目は整備通路へ上がり、壁へ身体を寄せていた。


 距離、八十。


 六十。


 四十。


『撃て』


 相馬機と隣の機体が同時に投射索を放った。


 二本の鉤が先頭個体の胸部と前肢へ刺さる。巻取装置が唸り、黒い身体を左右から引いた。


 小型個体の脚がレールの間へ落ちる。


 相馬機が前へ出た。


 右腕の斧を振り上げ、頭部へ落とす。刃は首の付け根へ入り、硬い表皮の下まで沈んだ。


 敵の前肢が跳ねる。


 相馬は斧を引き抜かず、機体の重さをかけて刃を押し込んだ。


 動きが止まる。


『一体停止』


 二体目は来なかった。


 壁際の整備通路から床へ降り、暗闇へ引き返していく。


『追う』


 隣の機体が索を外した。


『待て』


 相馬は止めた。


 逃げる小型個体は遅い。後肢の一方を引きずり、何度も振り返っている。追えば届く距離だった。


 だからこそ、相馬は動かなかった。


『誘ってる』


 小型個体はトンネルの暗闇へ消えた。


 十秒後、正門側から通信が入る。


『小型三、搬入口へ接近』


『一番機、対応』


『斜路にも反応! 中型一!』


 隊長の指示が重なる。


『相馬、斜路へ回れ』


『了解』


 相馬機はトンネルを離れ、車両基地の構内を走った。


 整備棟の間を抜けると、非常用斜路の前で味方機が中型個体と組み合っていた。敵の角が防盾へ食い込み、機体は片膝をついている。


 相馬は速度を落とさない。


 斧を両手で持ち、すれ違いざまに中型個体の右前肢へ振り下ろした。


 刃が関節へ入る。


 中型個体の身体が傾いた。


『立て!』


 味方機が盾を押し上げ、片膝から立ち上がる。


 相馬は斧を引き抜き、二撃目を首へ向けた。


 中型個体は前へ出ず、斜路を転がるように下がった。傷ついた前肢を庇いながら地下へ逃げていく。


『追うな!』


 今度は相馬が味方を止める。


『正門は』


『小型三、後退中』


『トンネル反応!』


 置いてきた機体の声が響いた。


 相馬が振り返る。


 構内の反対側、暗いトンネルから小型個体が四体現れていた。監視に残した一機へ二方向から襲いかかっている。


『戻る!』


 相馬と斜路の担当機が走る。


 四体のうち二体は、相馬機が近づく前に地下へ戻った。残る二体は監視機を左右から挟み、脚部へ繰り返し体当たりしている。


『索を!』


 相馬が投射索を放つ。


 鉤は一体の背へ当たったが、浅く表皮を削っただけで外れた。敵は相馬機を見た直後、監視機から離れる。


 一体はトンネルへ。


 もう一体は整備棟の裏へ。


 追える。


 だが、どちらを追っても反対側が見えなくなる。


 相馬は中央へ戻り、斧を構えた。


『二番機、状態』


『左膝、駆動低下。歩けます』


 損傷した機体が一歩動く。


 左脚が沈み、上半身が大きく傾いた。転倒は免れたが、通常速度では戻れない。


『正門、小型再接近!』


『斜路、中型が戻ります!』


 相馬は正門を見た。


 次に斜路を見る。


 最後に、左膝を引きずる二番機へ視線を戻した。


 敵は倒そうとしているのではない。


 正門へ行けば斜路に現れ、斜路へ行けばトンネルから出る。一体を追えば、別の個体が味方機の脚を狙う。


 四機を三つへ分けようとしている。


『全機、中央へ寄せる』


 相馬が言った。


『出口が開きます』


『分かってる。二番機を囲め』


 三機が損傷機へ近づく。


 それを待っていたように、三つの出入口すべてへ敵性反応が現れた。


 *


 市街地外縁で待機するリポルには、三方向の戦闘音が別々の回線から届いていた。


 第一中隊からは大型個体発見と、小型三、中型一の報告。


 第三中隊からは、生活道路を移動する小型二と、中型二の報告。


 西側封鎖隊からは、小型七、中型一。


 事前観測より数が増えている。


 地下や建物内部に隠れていた個体が加わったのなら、不思議ではない。街全体が巣になりかけている以上、観測できなかった敵がいてもおかしくなかった。


 それでも、十二機の戦闘部隊は一時間近く、進入地点からほとんど前へ進めていない。


 第一中隊は南側交差点。


 第三中隊は東側生活道路。


 相馬たちは西側車両基地。


 誰も退いてはいない。


 大きく損傷した機体もない。


 敵を止めたという報告も、最初の数体から増えていなかった。


 戦闘の音だけが続き、地図上の味方表示が少しずつ横へ広がっている。


「第一中隊の進行距離」


《作戦開始地点から、二百八十六メートル》


「第三中隊は?」


《二百十二メートル》


「西側は?」


《最大進行距離、百九十四メートル。現在は開始地点から百三十一メートルの位置まで後退しています》


 蒼真は数字を見た。


 敵の数は分かっている。


 三浦は、目の前にいる小型を一撃で止めていた。第三中隊も、生活道路から抜けようとした個体を何度も押し戻している。西側では相馬たちが出入口を三つとも守っている。


 負けているようには見えない。


 しかし、攻め込めてもいない。


 大型個体は中央駅の南にいる。


 救難信号は、さらに北側から出ている。


 そこへ近づくために三方向から入ったはずなのに、十二機すべてが街の入口付近へ留められていた。


「どうして進めない?」


《質問の対象を指定してください》


 AIは、いつもどおりの声で答えた。


「十二機いる。敵の数も分かってる。戦闘能力も足りてる。それなのに、どの中隊も進めていない」


《進行阻害要因を検索します》


 正面画面の地図へ、三中隊の軌跡が重ねられた。


 赤、青、黄色。


 どの線も前へ伸びかけ、そのたびに横へ曲がるか、元の位置へ戻っている。


 蒼真は、右側に表示された二機の支援機を見た。


 一機は第一中隊の後方へ移動している。もう一機は、第三中隊の退路付近で停止していた。


 位置は分かる。


 しかし、何をするために動いたのかは表示されていない。


「支援左の任務状況は?」


《共有されていません》


「支援右は?」


《共有されていません》


「通信は?」


《支援左は第一中隊補給回線、支援右は第三中隊回収回線を使用中です。リポルは両回線の参加対象に設定されていません》


 三機とも、支援機である。


 同じ臨時大隊に所属している。


 それなのに、互いが何をしているのか知らない。


 蒼真が問い直そうとした時、西側封鎖隊から通信要求が入った。


 相馬だった。


『支援中央、こちら西側封鎖隊』


「こちら支援中央」


『二番機が脚部を損傷。回収支援を頼む』


 蒼真は西側の地図を拡大した。


 四機あった光点は、一か所へ集まりかけている。その周囲を、五つの敵性反応が三方向から囲んでいた。


「西側担当の支援機は?」


『こちらでは把握していない』


 蒼真は支援機二機の位置をもう一度確認した。


 一機は第一中隊の後方。


 もう一機は第三中隊の退路。


 西側へ近い支援機は、中央にいるリポルだった。


「相馬、動けますか」


『俺は動ける。二番機も歩けるが、速度が落ちてる』


「相馬がつけば戻せる?」


『戻せる』


「地下道出口は?」


 短い沈黙のあと、衝撃音が通信へ入った。


『開く』


 警告音が重なる。


 誰かが敵の接近を叫んだが、音が割れて聞き取れなかった。


『橘』


 相馬の声だけが、はっきり届いた。


『支援を頼む』

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