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第二十二話

四月十日。


目を覚ますと、胸の上に昴がいた。


小さな頭が、蒼真の顎のすぐ下にある。頬を寝間着へ押しつけ、口を少し開けたまま眠っていた。片方の腕は蒼真の首へ回され、もう片方の手は服をしっかりと掴んでいる。


二歳の身体は小さい。


けれど、眠っている子供は不思議なほど重かった。


蒼真は首だけを動かし、隣を見る。


美咲はすでに目を覚ましていた。


横向きになり、枕へ頬をつけたまま、蒼真と昴を見ている。


「いつから?」


声を落として聞く。


「夜中」


美咲も小さな声で答えた。


「知ってたの?」


「知ってた」


「戻してくれなかった?」


「戻したよ。一回は」


「戻ってきた?」


「うん。自分で這ってきた」


昴を見る。


そこまでして父親の上で眠りたかったのか。


それとも、ただ寝ぼけて移動しただけなのか。


本人に聞いても、たぶん分からない。


「重い」


蒼真が言うと、美咲は少し笑った。


「昨日、帰ってくるって約束したからじゃない?」


「関係あるかな」


「逃げないようにしてるのかも」


「二歳で?」


「あなたより賢いかもしれない」


「それは困る」


「もう困ってるでしょ」


美咲の指が伸び、昴の髪へ触れる。寝癖で跳ねた部分を撫でるが、すぐに元へ戻った。


窓の外はまだ薄暗い。


昨日までと同じ朝だった。


けれど、蒼真の身体には、昨日初めて座った支援機の感触が残っていた。


硬い座席。


胸部装甲の内側に響く補助機関の振動。


中央表示へ浮かんだ白い文字。


《NOSTOS》


ノストス。


故郷への帰還。


名前を思い出すだけで、胸の奥が少し重くなる。


「昨日の機体」


美咲が言った。


蒼真の考えていることを見ていたようなタイミングだった。


「うん」


「どんなだった?」


「昨日、話したよ」


「大きくて、重くて、不格好」


「そう」


「それしか聞いてない」


美咲は身体を少し起こした。


昴を起こさないよう、布団の端へ肘をつく。


「あなたがどう思ったかは聞いてない」


蒼真は天井を見る。


機体についてなら説明できる。


全高。


重量。


装備。


役割。


牽引能力。


装甲強度。


けれど、どう思ったかと聞かれると難しい。


「頼りになりそうだった」


「それは機械として?」


「多分」


「好きになれそう?」


「まだ分からない」


「乗りたくない?」


「乗りたくない」


答えはすぐに出た。


美咲は頷く。


安心したようにも見えた。


「でも、今日は乗るんでしょう」


「起動試験がある」


「動かすの?」


「歩かせるくらいだと思う」


「撃つ?」


「その予定はない」


「予定は」


美咲は、その言い方を覚えている。


蒼真自身も分かっていた。


予定がない。


可能性がない、とは違う。


「訓練内容は、まだ全部聞いてない」


「どうして前日に教えないの」


「現場では予定通りにならないから、らしい」


「そうやって何でも現場のせいにする」


「自分もそう思う」


「あなたまで言わないで」


少しだけ声が強くなり、昴が動いた。


二人とも黙る。


昴は眉を寄せただけで、目を覚まさなかった。


美咲は息を吐き、蒼真の胸に乗っている小さな手を見た。


「怖い?」


「うん」


「昨日より?」


蒼真は考える。


昨日は、まだ動かしていなかった。


ただ座っただけ。


今日からは違う。


機体が自分の手で動く。


動けば、いつか現場へ出る。


現場へ出れば、誰かを助ける。


あるいは。


助けられない。


「昨日とは違う怖さ」


「どう違うの?」


「昨日は、機体が大きいことが怖かった」


「今日は?」


「自分が動かすことが怖い」


美咲はしばらく黙った。


それから、蒼真の顔を見た。


「怖いって言えるなら、まだ大丈夫なのかな」


「神代さんも似たことを言ってた」


「神代さん?」


「中隊長」


「怖くなくなったら外すって」


「外してくれるの?」


「多分」


「じゃあ、ずっと怖がってて」


「それはそれで辛い」


「でも乗れる」


「うん」


「帰ってこられる」


「その保証はない」


美咲の顔が少し曇った。


蒼真はすぐに続ける。


「でも、怖い方が帰ることを考える」


「……そう」


美咲は、蒼真の胸へ手を伸ばした。


昴を起こさないよう、その下へ指先だけを入れる。


「昨日、好きだって言ったよね」


「言った」


「急に」


「言った方がいいと思ったから」


「片瀬さんが綺麗だったから?」


「まだ言うの」


「答えてないから」


「顔は見た」


「それで?」


「人の顔だった」


美咲が呆れたように目を細める。


「あなた、その答えで何年も結婚生活を続けられると思ってる?」


「今まで続いてる」


「私が頑張ってるから」


「知ってる」


「そこは否定して」


「でも本当だから」


美咲は少しだけ笑った。


「片瀬さんは、話しやすい人だった」


蒼真は言う。


「そう」


「安西さんは感じが悪い」


「男の人?」


「うん」


「じゃあ、そっちはどうでもいい」


「ひどくない?」


「何が」


「安西さんに」


「知らない人だから」


「牧野さんは?」


「整備主任」


「怖い?」


「一番怖い」


「神代さんより?」


「ノストスについては、神代さんより偉いらしい」


美咲が笑う。


今度は、少し長く。


「良かった」


「何が?」


「あなたが、仕事の人の話をしてる」


「今までもしてたよ」


「藤堂さんたちの話はしてた。でも、新しい場所の人の話をするのは初めて」


蒼真は答えなかった。


第三中隊は、まだ自分の職場という感じがしない。


昨日一日いただけの場所。


知らない規則。


知らない人。


知らない機体。


それでも、美咲へ話せる名前が三つ増えた。


それは。


少しだけ。


大きなことなのかもしれない。


「蒼真」


「何」


「帰ってきたら、今日も話して」


「何を」


「誰が何を言ったとか。何を食べたとか。怖かったとか」


「全部?」


「全部じゃなくていい」


「どこまで」


「私が安心するまで」


「長そう」


「嫌?」


「嫌じゃない」


「じゃあ決まり」


美咲の指が、蒼真の手へ絡む。


昴が間にいるので、うまく握れない。


それでも、指先だけが触れた。


「それと」


「まだある?」


「帰ってきたら、ただいまって言って」


「いつも言ってる」


「最近、言わない日がある」


「そうだった?」


「疲れて、そのまま入ってくる」


「気をつける」


「絶対」


「努力する」


「約束」


約束。


その言葉が。


昨日から何度も出てくる。


蒼真は眠っている昴を見る。


小さな指が、まだ寝間着を掴んでいる。


「約束する」


美咲は満足そうに頷いた。


「それから、好きも」


「毎日?」


「時々」


「いつ?」


「自分で考えて」


「難しい」


「仕事より?」


「同じくらい」


「それは褒めてない」


昴が、ゆっくりと目を開けた。


最初に見たのは蒼真の顎だった。


次に美咲。


しばらく何も言わず、二人の顔を交互に見る。


「おはよう」


美咲が言う。


昴は答えず、蒼真の胸へもう一度顔を押しつけた。


「起きた?」


蒼真が聞く。


「まだ」


「目、開いてるよ」


「ねる」


「お父さん、仕事」


「だめ」


即答。


美咲が笑う。


「ほら、逃がさないつもりだった」


「昴」


「だめ」


「今日、ノストスを動かすんだ」


「のすとす?」


昨日、何度か教えた名前。


昴はまだ覚えていない。


「お父さんの機体」


「ろぼっと?」


「フレームワーカー」


「ふれーむわーかー」


眠そうな声で繰り返す。


「大きいよ」


「ばんばんする?」


「今日はしない」


「きょうは?」


美咲と同じところへ引っかかる。


子供は。


思っているより聞いている。


「できれば、ずっとしない」


「かえる?」


「帰る」


「いっしょ?」


「誰かと一緒に」


昴は少し考えた後、ようやく蒼真の胸から身体を起こした。


「じゃあ、いっていい」


許可が出た。


「ありがとう」


「でも」


二歳児が続ける。


「おもちゃ、もってく」


枕元。


腕の外れかけた作業機の玩具。


昨日、ノストスの操縦席へ持っていったもの。


「また?」


「まもるから」


「誰を?」


昴は玩具を持ち上げる。


「ぱぱと、のすとす」


美咲が目を伏せた。


蒼真は。


昴から玩具を受け取った。


「借りるね」


「なくさないで」


「気をつける」


「こわさないで」


「努力する」


「やくそく」


また。


約束。


「約束する」


今度は。


簡単に言えた。



朝食の席で、結衣はずっと端末を見ていた。


制服姿のまま。


片手でパンを持ち、もう片方の指で画面を送っている。


「食事中」


美咲が言う。


「あと少し」


「昨日も言った」


「今、大事なところ」


「ニュースに大事なところなんてない」


「あるよ」


「食べ終わってから見なさい」


結衣は不満そうに端末を伏せた。


十秒も経たず、また開く。


美咲が何も言わず見つめる。


結衣は視線に気づき、ゆっくり端末を伏せた。


「何を見てるの」


蒼真が聞く。


「お父さん」


「ここにいるよ」


「ネットのお父さん」


嫌な言葉だった。


「昨日の記事?」


「新しいの」


結衣は美咲を見た。


許可を求める。


美咲がため息をつく。


「見せたら置いて」


「分かった」


端末を蒼真へ向ける。


画面には、第三中隊への異動を報じる記事が表示されていた。


管理局の制服ではない。


昨日、第三中隊へ向かう前に管理局を出たところらしい。


濃紺の制服。


私物の箱。


その中の、小さな鉢植えまで写っている。


顔も。


はっきり。


「いつ撮られたんだろ」


結衣が言う。


「知らない」


「全然気づいてない顔」


「気づいてなかったから」


「コメント、すごいよ」


画面を送る。


『現場の判断を無視した結果があの事故』


『第六中隊だけを責めるのは違う』


『管理局の英雄作り』


『異例の現場編入』


『適性値が高いらしい』


『戦闘経験なしで大丈夫か』


『新しいエース候補』


エース。


また。


その言葉。


「お父さん、エース候補だって」


結衣の声は少し明るい。


「違う」


「まだでしょ」


「これからも」


「分かんないじゃん」


「分かるよ」


「適性高いんでしょ」


「誰が言ってるの」


「みんな」


「みんなって誰」


「コメントの人」


知らない人たち。


名前も。


顔も。


仕事も。


何も知らない。


それでも。


自分の未来を決める。


「エースは、敵を多く倒した人のことだよ」


蒼真が言う。


「最近は違うんだって」


「何が」


「救助数とか、生還率とかでも呼ばれるって」


「誰が決めたの」


「SNS」


「信頼できない」


「お父さん、SNS嫌いだよね」


「嫌いというか」


「使えないだけ?」


「使う必要がない」


「それを使えないって言うんだよ」


美咲が少し笑った。


蒼真は結衣へ端末を返す。


「学校で話してるの?」


「少し」


「何を」


「お父さんが第三中隊へ行ったって」


「やめてほしい」


「何で?」


「恥ずかしい」


「別にいいじゃん。みんな、すごいって言ってたよ」


「何もしてない」


「昨日、機体に乗ったんでしょ」


「座っただけ」


「それでも」


「動かしてない」


「今日は動かすんでしょ」


「多分」


「じゃあ、今日から」


「何が」


「エースへの一歩」


「違う」


「頑固」


結衣はパンを口へ入れた。


嬉しそうだった。


父親の名前がニュースに出る。


友達が知っている。


特別な部隊へ入る。


中学生になったばかりの結衣にとって、それは誇らしいことなのだろう。


蒼真は。


その気持ちを否定したくなかった。


けれど。


自分がテレビや端末の向こうで、格好いい人間として形を変えられていくことには、強い違和感があった。


昨日。


自分はただ、機体へ座っただけだ。


怖かった。


手も震えた。


整備士に何度も注意された。


それでも画面の中では。


異例の支援隊員。


次代のエース候補。


知らない人間にされている。


「結衣」


蒼真は言った。


「格好いいと思ってくれるのは、嫌じゃないよ」


結衣は少し驚いた顔をした。


「本当?」


「うん」


「じゃあ、自慢していい?」


「そこまでは言ってない」


「何で」


「ただ」


蒼真は言葉を選ぶ。


「画面に出てる人と、家にいるお父さんは、同じじゃない」


「同じでしょ」


「同じ人間だけど」


「じゃあ何が違うの」


難しい質問だった。


美咲は黙って聞いている。


昴は、パンを小さくちぎり、机の上へ並べていた。


「画面は」


蒼真は言う。


「怖いところを映さない」


「事故の映像は怖かったよ」


「そうじゃなくて」


蒼真は自分の手を見る。


昨日。


操縦席の縁へ置いた時。


少し震えていた手。


「その人が、怖がっていること」


「お父さんが?」


「うん」


「でも、テレビの人だって怖いって言ってたよ」


「言っても、全部は映らない」


「家なら分かる?」


「美咲は分かる」


美咲が蒼真を見る。


「結衣も、そのうち分かると思う」


結衣は、少し不満そうだった。


「今は分かってない?」


「全部は」


「子供だから?」


「そういう意味じゃない」


「じゃあ何」


美咲が口を開く。


「お父さんも、自分のこと全部分かってないから」


結衣が美咲を見る。


蒼真も。


「そうなの?」


「そうだと思うよ」


美咲は蒼真の湯飲みへ茶を足す。


「この人、自分では普通だと思ってるから」


「普通じゃないの?」


結衣が聞く。


美咲は、少し考える。


「変なところで普通」


「何それ」


「怖い時に怖いって言うところは普通。でも、怖いまま行くところは、ちょっと変」


蒼真は反論しようとした。


結衣が先に言う。


「やっぱり変なんだ」


「変じゃない」


「お母さんが言った」


「少しって」


「同じ」


「違う」


結衣は笑った。


さっきまでの少し尖った空気が、緩む。


昴が並べていたパンを指差した。


「これ、のすとす」


一番大きな欠片。


「こっち、ぱぱ」


小さな欠片。


「お父さんの方が小さいの?」


結衣が聞く。


「のすとす、おおきい」


「じゃあ、お父さんは?」


「なか」


昴は小さなパンを、大きなパンの横へ置いた。


「中にいるんじゃないの?」


美咲が言う。


昴は首を横へ振る。


「いっしょ」


その言葉。


蒼真は。


少しだけ胸が温かくなるのを感じた。


機体の中ではなく。


隣。


一緒。


「お父さん」


結衣が言う。


「今日、帰ってきたらノストスの話して」


「どんな?」


「全部」


「長いよ」


「いいじゃん」


「訓練だけだよ」


「歩くところとか」


「面白くない」


「お父さんが転ぶかもしれない」


「転ばない」


「絶対?」


結衣の目が笑っている。


「転ばないようにする」


「約束じゃない」


家族全員。


同じことを言う。


「努力する」


「そればっかり」


「現場では大事なんだよ」


「ここ家だけど」


その通り。


「じゃあ」


蒼真は少し考える。


「転ばずに帰る」


結衣は満足そうに頷いた。


「約束」


「約束」


美咲が。


黙ったまま、蒼真を見る。


その目に。


少しだけ。


不安がある。


蒼真は食卓の下で、美咲の手へ触れた。


美咲も。


指を絡める。


結衣には見えない。


昴にも。


家族の中には。


言葉にしない会話もある。



午前八時五十一分。


第三中隊基地。


門の前に立つと、家の空気が遠くなった。


濃紺の制服。


防壁。


警備端末。


搬送車両。


構内から聞こえる機関音。


言葉が短くなる。


必要のないことを話す場所ではない。


認証。


《入構許可》


門が開く。


片瀬がいた。


「おはようございます」


「おはようございます」


「早いですね」


「昨日も言われました」


「今日も早いので」


片瀬の顔に疲れがある。


「当直ですか」


「明けです」


「出動は」


「なし」


「良かった」


片瀬は少し笑った。


「もう管理局の顔じゃないですね」


「何が違いますか」


「部隊章」


肩を見る。


まだ馴染まない。


「今日は?」


「起動試験」


「歩行だけ?」


「神代隊長次第です」


嫌な答え。


「武器は」


「予定なし」


また。


予定。


「着替えてください」


それで会話は終わる。


家では。


言葉を足した。


ここでは。


足さない。


それで通じる。



搭乗服は、管理局の防護服より薄かった。


関節部には伸縮素材が使われ、身体へ密着する。胸部と背面には生命維持装置。腕には感覚補助帯。首元には機体接続用の端子が並んでいる。


着方が分からない。


肩の固定帯を左右逆へ通したところで、片瀬が止めた。


「逆です」


「どこが」


「全部」


短い。


片瀬が手を伸ばす。


「自分で」


「時間がありません」


「次は覚えます」


「今日覚えてください」


固定帯が締まる。


少し苦しい。


「きついです」


「正常です」


「AIみたいですね」


「慣れてください」


「慣れたくない言葉が増える」


片瀬が笑った。


扉の外。


安西が立っている。


聞いていたらしい。


「愛されてるんだって?」


昨日の話まで。


「忘れてください」


「無理」


「なぜ」


「面白いから」


「仕事場ですよ」


「だからだよ」


片瀬が安西を見る。


「行きます」


「了解」


会話は。


それで終わる。



第三格納庫。


ノストス。


昨日と違い、塗装が完成していた。


灰白色の装甲。


濃い青の識別線。


胸部には第三中隊の部隊章。


その下に、小さな文字。


《NOSTOS》


重い。


厚い。


戦闘型のような鋭さはない。


脚部は太く、足首には地面へ固定するアンカー。背部には二基の牽引装置。腰には折り畳み式の補助アーム。


速く進むためではない。


残るため。


支えるため。


連れ帰るため。


牧野が端末を見ている。


「遅い」


「着任時刻前です」


「機体は起きてる」


「人間の時間とは」


「合わせろ」


昨日も聞いた。


「説明します」


牧野が透過図を出す。


主機関。


脚部。


牽引装置。


補助アーム。


装甲。


救助ポッド。


一つずつ。


言葉は短い。


「主機関。最高速は低い」


「牽引は」


「瞬間出力で補う」


「長距離は」


「向かない」


「脚部」


「瓦礫。泥。傾斜」


「昨日の処理場では」


「戦闘型より動けた」


胸が少し痛む。


牧野が画面を閉じる。


「過去へは持っていけない」


「考えていません」


「嘘が下手だな」


「……少しだけ」


「今日使え」


「はい」


次。


武装。


短距離防御砲。


迎撃装置。


煙幕弾。


「使うな」


「はい」


「必要なら使え」


「どちらですか」


「使わないように動け」


「難しいです」


「だから乗る」


説明は。


それだけ。


神代が格納庫へ入る。


「準備」


「完了」


牧野。


「橘」


「はい」


「今日の目的」


「歩行。障害物除去。救助。損傷機回収」


「追加」


表示が変わる。


片瀬機。


安西機。


「味方停止」


「何を止めるんですか」


「無理を」


結衣の言葉。


朝。


同じ。


神代は続ける。


「戦闘員は止まらない」


「命令でも?」


「状況次第」


「権限は」


「使え」


「通らなければ」


「機体で止めろ」


安西が少し笑う。


「本当に?」


蒼真が聞く。


神代は安西を見る。


「こいつは止まらない」


「聞こえてます」


「聞かせてる」


安西は何も返さない。


神代が蒼真へ視線を戻す。


「止める権限を持ったな」


「はい」


「権限があれば、人は止まると思うか」


昨日。


第六中隊。


要請。


拒否。


権限がなく。


止められなかった。


今日は。


権限がある。


それでも。


「思いません」


「ならいい」


神代はノストスを見る。


「止めてみろ」



搭乗。


ハッチ。


閉鎖。


暗闇。


起動。


《FW-S09》


《NOSTOS》


《搭乗者認証》


《橘蒼真》


《仮登録》


仮。


それだけで。


少し安心する。


不合格なら。


乗らずに済む。


《恐怖反応》


《正常》


また。


正常。


牧野の通信。


『AIと話すな』


「聞こえているんですか」


『全部』


「独り言です」


『機体内では全部記録』


嫌な仕様。


『起動』


「了解」


主機関。


低い振動。


座席。


背骨。


胸。


身体の内側へ響く。


ノストスが。


起きる。


そう感じる。


操作桿を握る。


力が入る。


《握力過剰》


「分かっています」


『力を抜け』


牧野。


「抜いたら不安です」


『機体は逃げない』


力を緩める。


変わらない。


ノストスは。


自分より。


落ち着いている。


立ち上がる。


視点が高くなる。


整備員。


床。


格納庫。


すべてが遠い。


一歩。


重い。


床へ。


振動。


もう一歩。


少し傾く。


《姿勢偏差》


左脚。


補正。


遅い。


《転倒危険》


「分かってる」


『AIに怒るな』


牧野。


「怒っていません」


『声が怒ってる』


出口。


外光。


訓練場。


片瀬機。


安西機。


細い。


速い。


ノストスとは別の生き物に見える。


『ようこそ』


片瀬。


「歩いただけです」


『転ばなかった』


安西。


『まだな』


「転びません」


『約束?』


結衣と同じ。


「努力します」


『弱い』


会話は終わる。


訓練開始。



歩行。


旋回。


後退。


停止。


何度も。


人間なら考えずにできる動作が、五メートルの機体では一つずつ判断になる。


足を置く位置。


角度。


地面の硬さ。


機体の重心。


操作桿へ力を入れすぎれば、反応が荒れる。


抜けば。


不安になる。


「右旋回」


牧野。


動く。


機体が外へ傾く。


補正。


止まる。


『遅い』


「転びませんでした」


『転びそうになった』


「違いはあります」


『現場ではない』


繰り返す。


汗。


背中。


指。


操縦桿。


《握力過剰》


「分かってる」


『力を抜け』


「抜いてます」


『もっと』


「難しいです」


『お前が邪魔してる』


「何を」


『機体を』


ひどい。


けれど。


正しい。


ノストスは。


歩ける。


邪魔しているのは。


自分。


少しずつ。


力を抜く。


機体の反応へ。


身体を合わせる。


歩幅。


変わる。


重心。


安定。


ノストスが。


初めて。


自分の意思で歩いたように感じる。


「今のは」


『基準以下』


褒めない。


でも。


さっきより。


良い。



障害物除去。


模擬瓦礫。


コンクリート。


鉄骨。


下に。


救助人形。


補助アームを展開する。


本体の腕とは別に、腰部から細い二本のアームが伸びる。


「不気味ですね」


『便利と言え』


牧野。


瓦礫を掴む。


力が入りすぎる。


コンクリートが砕ける。


「壊れました」


『瓦礫だからいい』


「下に人がいたら」


『死ぬ』


即答。


怖い。


感覚補助を上げる。


機体の指先へ触れた振動が、操縦桿を通して自分の手へ戻る。


硬さ。


重さ。


ざらつき。


気持ちが悪い。


でも。


分かる。


二度目。


ゆっくり。


鉄骨を持ち上げる。


重さが。


手首へあるような錯覚。


下。


救助人形。


生命反応。


緑。


「生存」


返答はない。


瓦礫を除ける。


一つ。


二つ。


安西の通信。


『遅い』


無視。


『敵が来る』


無視。


『片瀬機損傷』


無視。


嫌な言葉。


でも。


妨害役。


今。


目の前。


人形。


補助アーム。


最後の瓦礫。


除去。


救助ポッド。


収容。


固定。


《搬送準備完了》


時間。


六分四十二秒。


『基準五分』


牧野。


「不合格」


『今は』


悔しい。


少し。


意外。


乗りたくない。


戦いたくない。


でも。


助ける動作は。


上手くなりたい。


その気持ちが。


はっきりある。



損傷機回収。


片瀬機。


右脚停止。


安西機。


護衛。


ノストス。


牽引。


開始。


片瀬機が片膝をつく。


「状態」


『右脚停止。主機関正常』


「牽引します」


背部装置。


ワイヤー。


射出。


接続。


「固定」


『確認』


後退。


ノストスの脚へ負荷。


警告。


それでも。


動く。


一歩。


二歩。


片瀬機が地面を滑る。


『速度』


片瀬。


「落とします」


敵役ドローン。


北。


安西機。


前。


射撃。


「状況」


『三。止める』


片瀬機。


『右腕低下』


「いつから」


『今』


訓練設定。


次々。


来る。


牽引角度。


変更。


右腕を保護。


敵。


一体。


安西を抜く。


『抜けた』


距離。


三百。


武器。


触るな。


煙幕。


発射。


白煙。


敵役。


速度低下。


熱源追尾へ移行。


意味は薄い。


「片瀬さん、主機関」


『正常』


「跳躍は」


『可能。着地不能』


「ノストスの後ろへ」


短い沈黙。


『了解』


牽引解除。


片瀬機。


左脚で跳ぶ。


ノストスの背後へ。


着地。


倒れる。


敵。


距離。


近い。


ノストス。


前へ。


左腕。


防御。


模擬弾。


衝撃。


《左腕被弾》


もう一発。


《損傷軽微》


安西機。


戻る。


敵役排除。


『何してる』


安西。


「守っています」


『支援機が前へ出るな』


「片瀬機が動けません」


『戻るまで待て』


「間に合わないと言いました」


『訓練だ』


「実戦想定です」


通信。


止まる。


牽引。


再接続。


片瀬機。


引く。


退避地点。


残り。


神代の通信。


『安西。損傷』


『なし』


『片瀬』


『右脚停止。右腕低下』


『橘』


「左腕軽微」


『誰を先に帰す』


安西。


『片瀬機』


蒼真は答える。


「ノストスです」


沈黙。


『理由』


「ノストスが止まれば、片瀬機を帰せません」


『安西が引けばいい』


「牽引装備がない」


『片瀬を置くか』


「一時的に」


片瀬は何も言わない。


安西。


『見捨てるのか』


「違います」


『先に帰るんだろ』


「補修して戻ります」


『敵が来たら』


「安西さんが守る」


『俺が損傷したら』


「全機撤退」


『敵を逃す』


「逃します」


即答。


「全員を帰すために、帰れる機体を先に守ります」


自分の声。


思ったより。


落ち着いている。


「ノストスを優先します」


神代。


『了解』


訓練続行。


片瀬機を退避地点へ運ぶ。


全機。


帰還。


ノストス。


左腕軽微損傷。


敵役。


残存一。


任務。


未達項目あり。


帰還率。


百。



格納庫。


降機。


地面へ足をつける。


膝へ力が入りにくい。


牧野が待っている。


「左腕」


「すみません」


「謝るな」


「損傷させました」


「訓練弾だ」


端末。


確認。


「受け方は悪くない」


褒められた。


多分。


「二発目は不要」


「片瀬機が」


「一発で位置を変えろ」


「間に合いません」


「だから訓練する」


「はい」


牧野がノストスの脚を叩く。


「先に帰ると言ったな」


「はい」


「正しい」


安西が近くにいる。


納得していない顔。


牧野は続ける。


「支援機は最後に残る」


神代の言葉。


「だが、最初に帰る判断を持て」


「はい」


「お前が止まれば、誰も帰せない」


「はい」


「忘れるな」


「はい」


片瀬が降機する。


近づく。


「置いていくって言いましたね」


「一時的に」


「少し傷つきました」


「すみません」


「でも、正解です」


「怒っていませんか」


「実戦なら怒ります」


「なぜ」


「怖いから」


「置いていかれることが?」


「はい」


短い。


でも。


十分。


片瀬は手を差し出す。


「戻ってきてください」


蒼真は握る。


「迎えに戻ります」


必ず。


とは言わない。


片瀬も求めない。


「待っています」


それで。


終わる。



昼。


食堂。


片瀬。


安西。


蒼真。


同じ机。


牧野は格納庫。


パンを三分で食べるらしい。


「身体、壊れませんか」


蒼真が聞く。


片瀬が答える。


「壊れています」


安西。


「本人は認めない」


「止める人は」


「いません」


「神代隊長は」


「諦めてる」


会話は短い。


安西が箸を置く。


「午前」


「はい」


「俺よりノストスを優先した」


「損傷していなかったので」


「片瀬よりも」


「帰還させるためです」


「正しい」


意外。


「不満では」


「不満だ」


どちら。


「でも正しい」


安西は食事を続ける。


「支援機が止まれば、俺たちは帰れない」


「はい」


「だから」


目だけを上げる。


「自分を捨てるな」


「捨てません」


「今は言える」


「実戦では」


「分からない」


安西。


「だから俺が言う」


短い。


でも。


それは。


心配だと。


多分。


そういう意味。


「分かりました」


「それから」


「何ですか」


「俺が無理してたら止めろ」


「止まりますか」


「止まらない」


「では」


「機体で止めろ」


神代と同じ。


「午後ですか」


「午後」


安西が少し笑う。


嫌な予感。



午後。


帰還拒否訓練。


安西機。


左脚出力低下。


作戦継続。


帰還要請。


拒否。


「安西さん。帰還してください」


『まだ動ける』


「左脚四十パーセント」


『四十あれば十分』


「支援隊員権限で帰還を要請します」


『要請だろ』


安西機。


前進。


敵役。


接近。


言葉では。


止まらない。


牽引ワイヤー。


射出。


安西機。


避ける。


速い。


「当たりません」


『当てるな』


「止まりません」


『考えろ』


敵役。


近づく。


安西機。


射撃。


左脚。


さらに低下。


二十。


姿勢。


崩れる。


「今です」


ノストス。


接近。


補助アーム。


安西機の腰部を掴む。


『離せ』


「帰還してください」


『敵がいる』


「片瀬さんが対応中」


片瀬機。


前へ。


敵役を引き受ける。


安西機が動こうとする。


ノストス。


脚部アンカー。


固定。


牽引。


『おい』


「帰ります」


『命令か』


「はい」


『誰に』


「安西さんに」


『初日だぞ』


「二日目です」


通信。


一瞬。


静か。


安西が笑った。


『それでいい』


抵抗。


止まる。


牽引。


帰還。



講評。


神代。


「橘」


「はい」


「安西を止めた」


「はい」


「権限で」


「最初は」


「最後は」


「機体で」


「片瀬へ敵を渡した」


「はい」


「片瀬が損傷した場合」


「全機撤退」


「任務失敗」


「はい」


「それでも止めるか」


蒼真は考える。


「状況によります」


神代は頷く。


「変えるな」


「はい」


「止めることが正しいと思うな」


「はい」


「進ませる責任もある」


胸が重くなる。


止める権限。


欲しかったわけではない。


必要だった。


けれど。


持った瞬間。


止めないことも。


自分の判断になる。


「今日、安西を止めたことで、片瀬へ危険を渡した」


「はい」


「止めなければ、安西が損傷した」


「はい」


「どちらを選んでも責任がある」


「はい」


「嫌か」


「嫌です」


神代は少しだけ笑った。


「覚えておけ」


「何を」


「司令は、一番嫌な選択を、他人より先に選ぶ仕事だ」


司令。


自分には。


関係ない。


そう思う。


でも。


その言葉は。


残る。



午後七時十二分。


帰宅。


予定より少し遅い。


連絡はした。


玄関。


扉を開ける。


「ただいま」


言った。


約束通り。


居間から足音。


昴が走ってくる。


「ぱぱ!」


脚へ抱きつく。


訓練の疲れ。


少しよろける。


美咲が後ろから支える。


「危ない」


「大丈夫」


「怪我は?」


「ない」


「本当に?」


「本当に」


美咲の目が。


顔。


首。


肩。


腕。


順番に見る。


「機体は?」


「左腕を少し」


「あなたは?」


「大丈夫」


美咲は息を吐く。


それから。


蒼真の胸へ手を当てた。


搭乗服ではない。


濃紺の制服。


心臓。


「おかえり」


「ただいま」


朝。


言ってほしいと言われた。


帰ってきた。


言えた。


美咲の手を取る。


「好きだよ」


美咲が止まる。


「今?」


「自分から言えって」


「玄関で?」


「場所は聞いてない」


美咲は。


少し笑った。


「おかえり」


もう一度。


「ただいま」


昴が二人の間から顔を出す。


「ぼくもすき」


「ありがとう」


「ねえねも」


居間から結衣。


「勝手に決めないで」


「結衣は?」


蒼真が聞く。


「別に」


「嫌い?」


「そういう聞き方ずるい」


「じゃあ」


結衣は端末を持ったまま近づく。


「帰ってきたから、今日は好き」


「今日は?」


「明日は明日」


美咲が笑う。


家の会話は。


続く。


短く終わらない。


それが。


嬉しい。


「お父さん」


結衣が端末を見せる。


「ノストス、公式に出てる」


第三中隊の公式映像。


格納庫。


灰白色の機体。


濃い青の線。


《FW-S09 広域支援・回収型》


コメント。


『重そう』


『武装少ない』


『救助型?』


『橘の専用機か』


『新しいエース機』


また。


エース。


「格好いいじゃん」


結衣が言う。


「実物は不格好」


「悪口言わないで」


「自分の機体じゃない」


「でも乗るんでしょ」


「乗った」


「歩いた?」


「歩いた」


「転んだ?」


「転ばなかった」


「本当に?」


「約束したから」


結衣が笑う。


「どうだった?」


蒼真は。


家を出る前に。


全部話せと言われた。


ノストスの歩行。


握力過剰。


牧野の注意。


瓦礫を砕いたこと。


救助人形。


片瀬機。


安西機。


牽引。


最初に帰る機体。


一つずつ話す。


職場では短かった言葉が。


家では。


少しずつ長くなる。


美咲は途中で食事を温め直し。


結衣は何度も質問し。


昴は理解できない言葉を真似した。


「片瀬さんを置いていくって言ったの?」


美咲が聞く。


「一時的に」


「怖かったでしょうね」


「本人もそう言ってた」


「でも戻った?」


「訓練では」


「実戦でも戻る?」


結衣。


「戻るつもりで行く」


「またそれ」


「大事なんだよ」


「絶対って言ってくれない」


「言えない」


結衣は少し不満そうにした。


でも。


以前より。


その答えを受け入れている。


「安西さん、感じ悪いんでしょ」


美咲。


「今日、少し変わった」


「良い人?」


「分からない」


「何を言われたの」


「自分を捨てるなって」


美咲の手が止まる。


「それは良い人」


「そうかな」


「そうだよ」


結衣も頷く。


「お父さん、自分で気づかないから」


「何を」


「無理すること」


「してない」


「してる」


母と娘。


同時。


昴も。


「してる」


意味は分かっていない。


全員。


敵。


「ノストスを先に帰すって」


美咲が言う。


「うん」


「あなたも?」


「機体と一緒」


「そこ、分けないで」


「どういう意味?」


「機体を帰すために、あなたを置いてこないで」


「置いてこないよ」


「逆も」


「逆?」


「あなたを帰すために、機体を壊して」


牧野と同じ。


「牧野さんも言ってた」


「何て」


「機体は壊していい。中身を帰せ」


美咲は。


少しだけ安心した顔をした。


「その人、好き」


「会ってないよ」


「今のところ、一番信用できる」


「神代さんは」


「まだ」


「片瀬さんは」


「綺麗か分からないから」


「関係ある?」


「ある」


結衣が笑う。


「お母さん、嫉妬してる」


「してない」


「してる」


「してない」


「お父さん、嬉しそう」


「少し」


美咲が蒼真を見る。


「隠さないんだ」


「隠す必要ないから」


「変なところで正直」


家の会話は。


終わらない。


朝から抱えていた緊張が。


少しずつほどけていく。


昴が、玩具を持ってくる。


蒼真の前へ置く。


倒れた別の玩具。


腕の外れかけた作業機で。


引く。


「かえるよ」


昴が言う。


倒れた玩具へ。


「いっしょに、かえる」


結衣が。


端末を置く。


美咲も。


昴を見る。


蒼真は。


何も言えない。


ノストスの牽引装置。


片瀬機。


安西機。


帰還経路。


全部。


重なる。


「そうだね」


ようやく言う。


「一緒に帰る」


昴は頷く。


それだけで。


満足した。



夜。


日記。


---


四月十日。


第三中隊。


二日目。


ノストス。


初起動。


歩行。


遅い。


重い。


不格好。


安定。


自分より。


機体の方が落ち着いている。


力を入れすぎる。


牧野さん。


機体は逃げない。


と言った。


瓦礫除去。


救助人形。


一体。


基準時間。


超過。


上手くなりたい。


乗りたいわけではない。


助けるのは。


上手くなりたい。


午前。


片瀬機。


牽引。


ノストス。


左腕被弾。


軽微。


二発目。


不要。


正しい。


支援機は。


最後に残る。


でも。


最初に帰る判断を持つ。


ノストスが止まれば。


誰も帰せない。


自分も同じ。


午後。


安西さん。


帰還拒否。


権限。


通らない。


機体で止めた。


重かった。


怒られなかった。


片瀬さんへ。


危険を渡した。


選択。


責任。


神代隊長。


司令は。


一番嫌な選択を。


他人より先に選ぶ仕事。


自分には。


関係ない。


多分。


帰宅。


ただいま。


言った。


好き。


自分から言った。


美咲。


笑った。


結衣。


ノストス。


格好いいと言った。


昴。


玩具を引いた。


一緒に帰る。


と言った。


ノストスの仕事。


多分。


それ。


敵を倒せなくても。


任務が遅れても。


怒られても。


一緒に。


帰る。


以上。


---


日記を閉じる。


寝室。


美咲はまだ起きている。


「書いた?」


「うん」


「今日のこと?」


「うん」


「見せて」


「嫌」


「いつか見る」


「見せない」


「死んだら読む」


「嫌なこと言うね」


「死ななければ読まない」


理屈が変。


でも。


美咲らしい。


布団へ入る。


美咲の手が。


蒼真の手を探す。


握る。


「今日」


「うん」


「帰ってきたね」


「うん」


「明日も」


「帰るつもりで行く」


「それ嫌い」


「じゃあ」


蒼真は少し考える。


「明日も、帰ってくる」


美咲が頷く。


「うん」


「好きだよ」


「今日は二回目」


「多かった?」


「ちょうどいい」


目を閉じる。


手は。


離れない。


ノストス。


重い機体。


白い帰還線。


怖い。


明日も。


乗りたくない。


でも。


今日。


全員帰った。


訓練でも。


それだけは。


少し。


嬉しかった。



同時刻。


中央戦術支援統合網。


非公開解析領域。


対象。


橘蒼真。


配属。


二日目。


機体。


FW-S09。


名称。


ノストス。


初回起動。


歩行。


基準以下。


重機操作。


基準内。


救助動作。


基準以下。


牽引判断。


基準以上。


戦闘評価。


低。


保護行動。


高。


自己保全。


低。


修正。


確認。


帰還拒否者。


安西遼。


対象対応。


説得。


権限。


物理介入。


武力。


不使用。


結果。


帰還。


指揮適性。


戦闘。


中。


撤退。


高。


人員保全。


極高。


本人認識。


支援隊員。


維持。


司令適性。


自覚なし。


家族。


妻。


帰還確認。


上昇。


愛情表現。


増加。


長女。


社会的評価。


肯定。


誇示。


微増。


危険理解。


低。


長男。


職務理解。


なし。


帰還概念。


反応。


強。


新規項目。


帰還。


勝利。


同一化。


学習開始。


機体適合。


高。


心理適合。


高。


恐怖反応。


維持。


搭乗意欲。


低。


技能向上意欲。


救助限定。


高。


矛盾。


成立。


修正。


不要。


観察。


継続。


---


第二十二話 終

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