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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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反省会は煙と共に

 秋の手仕事祭が終了し、三人は打ち上げの為焼き肉屋を訪れていた。


「お疲れ様でした!」


 まずはビールと酎ハイで乾杯だ。お通しのキャベツを食べながら頼んだ肉が来るのを待つ。


「今回は大収穫でしたねー」

「ああ。実を言うと愛好家に再生石が受け入れられるか不安だったが、思いのほか好評で安心したぜ。もしもダメだったらどうアプローチしていこうか悩んでいたからな」


 企業の人間は興味を持たなかったようだが、手仕事祭に訪れていた愛好家達は再生石の物語性と石と装飾品の修理に興味を示す物が多かった。


 再生石は市販品の魔工宝石と違い天然石由来の一点物であるということ、修理は自分が集めている作品が破損した際に利用したいということが愛好家達にウケたようだ。コハルの目論見通り一定の需要は見込めそうな予感がした。


「リッカの作品も売れて良かったな」

「はい!過去最高記録でした!」


 今回の秋の手仕事祭の売上は過去最高を記録し、蜃気楼通信(ミラージュ)の拡散力には改めて驚かされた。今までの手紙とポスターの張り出しとは比べ物にならない集客力だ。事前に「買う」と決めて来ているのでブースに立ち寄った人の中で実際に購入に繋がる割合がぐっと増したのが大きい。


 便利さゆえの弊害もあるが、やはりイベントに参加していく中で蜃気楼通信(ミラージュ)は無くてはならない存在なのだ。


「お待たせしました、牛カルビ・ロース・ハラミの盛合わせ、牛タン塩、ホルモン盛合わせです」


 最初の注文が運ばれて来た。まずは牛で攻める。


「焼きますよ」


 机の真ん中に置かれた七輪に宝石商が肉を綺麗に並べていく。ジュッと音がして肉が縮れ、やがてジュージューという蒸気と共に香ばしい匂いが漂い始めた。


「あー、焼肉って言えばこれだよなぁ」


 その素晴らしい光景をコハルがビール片手にうっとりとした目で眺めている。焼け始めた物からひっくり返し、焦げそうなものは位置を入れ替えながら均等に火が入るよう調節していく。


「牛タン焼けましたよ」

「わーい」


 焼けた肉から各自皿に取って食べ、空いた所に次の肉を配置するのだ。少し集めに切られた牛タンは塩と胡椒を塗したシンプルな味付けだ。タレをつけずにそのまま食べても味がしっかりしていて美味しい。


 カルビとロースが焼けたので取り分ける。醤油をベースにしているであろう甘辛い特製のタレにすりおろしたニンニクを多めに入れてアレンジする。疲れた時はニンニクが食べたくなるのはなぜだろう。


 肉をタレにつけて食べると口の中にじわりと旨味が広がる。これはご飯と良く合う味だ。追加で白米を注文して一緒に食べると幸せな気持ちになった。


「もうすぐお肉が無くなるので追加注文しましょうか」

「焼肉奉行に任せるぜ」


 いつの間にか七輪の上は宝石商の独壇場と化している。宝石商が注文をしている間に焼けた肉をひっくり返しているとふと昼間トウジから聞いた話を思い出した。


「そういえば昼間知り合いの職人さんに聞いたんですけど、実際に作品を購入してそれをコピーして海賊版を作っている業者がいるみたいですね」

蜃気楼通信(ミラージュ)での計測に留まらずそんなことをしている輩が居るのか?迷惑極まりないな」

「こちらからしたら普通のお客様と見分けられないし、作品に複製魔法を使えない保護魔法があったら良いのにって仰っていました」

「……なるほど」

「所謂コピーガードですね」


 注文を終えた宝石商が話に入って来た。


「確かにあっても良いかもしれませんね。複製魔法は複製元と同じ原材料が無ければ複製が出来ないので外部の人間は悪用しにくいのではと思っていましたが……」

「そこまで準備して複製するくらいだ。売れるんだろうな」

「自分は手間をかけずに人様の努力で出来た物を掻っ攫って行くなんてとんでもない輩ですねぇ」


 汗水垂らして作った努力の結晶が知らない所でコピーされ無断販売されるなんて考えただけでも腹が立つ。


「分かった。今度防犯魔道具を作った会社に話してみる」


 大手だけが使えるのでは意味が無い。個人でも使えるような防犯魔道具にしなければ小さな工房の職人は自分の作品を守れないからだ。魔法技術の発展によってより簡単に海賊版を作れるようになってしまったのは悲しいが、悪いのは魔法ではなくモラルに欠ける使い手だ。魔法が世の中に広く普及したからこそ、魔法の使い方を今一度見直さなければならないのかもしれない。


「お待たせしました。鶏軟骨と鶏皮、トントロ、豚カルビ、豚バラ、ハツとセンマイになります」


 追加注文していた肉が運ばれて来た。宝石商は暗い話題を煙で吹き飛ばすかの如くどんどん肉を焼いていく。


「〆をどうするか悩むぜ」

「私はご飯を頼んじゃったのでデザートにします」

「私は冷麺にします」


 コハルは締めをビビンバと冷麺どちらにするかで悩んだ結果、さっぱりとした冷麺に決めたようだ。脂っこい物を食べた後に丁度良い。リッカはデザートで柑橘系のシャーベットを注文した。


 リッカは久しぶりに焼き肉屋に来てある事に気づいた。悲しい事に若い時と比べて脂っこい肉を食べられなくなってしまったのだ。美味しい肉と言えばサシの入った高級肉というイメージだったが、今や赤身の方に魅力を感じるほどである。昔はトントロをお代わりしていたが今や一皿で十分だと感じた自分にショックを受けつつ、赤身の良さが分かるようになったのでそれはそれで悪くないと思ったのだった。


 帰り際、会計を済ませて店を出る際にコハルがすっとリッカに近づいて来た。


「例の石、明日発送するぞ。念の為転移便で送るけど良いよな?」

「はい!助かります」


 コハルに頼んでいた例の物が完成したらしい。原石の確認までは済ませていたが完成した物を見ていないので楽しみだ。


「じゃあ、二日間お疲れ様!」


 コハルと別れ、宝石商とオカチマチへ帰る。


「無事終わって良かったですね!なんか肩の荷が下りた気分です」


 正直リッカは自分の作品が売れるかよりも再生石課題が評価されるかということの方が気になっていた。客の反応も上々で今後の展望も見えたので文句なしに一仕事を終えることが出来てほっとしているのだ。


「リッカさん、本当にお疲れ様でした」

「ありがとうございます。年内のイベントは夜市だけですし、もうちょっと頑張ります」


 今年のイベントも残すは年末の夜市のみとなった。夜市が終われば引っ越しだ。新たな年を迎えるにあたって大忙しのリッカだった。

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