贈り物は心を込めて
秋の手仕事祭が終わって少し経った頃、新店舗の建築が始まった。建築業界にも魔法の波が押し寄せており、造形魔法を使えば一か月で完成すると聞いた時は驚きの余り物をのどに詰まらせそうになってしまった。
新店舗の方は宝石商に任せるとして、リッカは夜市の新作と宝石商へのプレゼント作りに取り掛からねばならない。夜市の新作は久しぶりにアクアマリンを使った装飾品を作る予定だ。
ネクタイピンはコハルから届いた石が思いのほか多かったのでカフスとセットで作ることにした。仕事でも使えるようにデザインはシンプルに石を二つ並べた物にする予定だ。
コハルが用意してくれたのはエメラルドカットのサファイアとスモーキークォーツだ。サファイアは一般的には青色が有名だが、実はピンクや黄色、オレンジなどバリエーション豊かな色彩を持っている。今回コハルはリッカからの「藍色の石」というリクエストを受け、タンザナイトやアイオライトではなく少し紫がかった青色をしたサファイアを用意した。
ネクタイピンはカフスとセットで用意されることが多いのでリッカもカフスを作るかもしれないと考えたからだ。カフスは袖口につけるものなので衝撃が加わりやすい。少しでも傷がつきにくい石の方が良いと判断したのだ。
(新作の前にネクタイピンとカフスを作ってしまおう)
その方が気持ちに余裕をもって取り組める気がする。
まずは石座作りだ。エメラルドカットの石座を作る場合は通常の丸い石座を作るよりも少し手間がかかる。宝石のパビリオンの深さに合わせて石座の高さを決め、その高さに合わせて銀の角棒を引き延ばして銀の板を作る。板を折る際に切り込みを入れるので厚さは少し集めに取らなければいけない。
次に石の大きさに合わせて四角に折っていくのだが、幅を測り印をつけ、折り目の部分に糸鋸で溝をつけるとスムーズに折れるので便利だ。石を乗っけて大きすぎないことを確認したらロウ付けし、石に合わせて四隅の角を落とした後に内側に傾斜をつけて石の座りをよくする。
次は爪の製作だ。石を石座に乗せた状態で爪を倒した時に石を覆い過ぎない程度の長さに角線を加工し、それを四隅にロウ付けする。ロウ付けした後に細かい長さを調整し、紙やすりやリューターで磨けば石座の完成だ。これをネクタイピン用に二つ、カフス用に二つ用意した。
「よし、あとはパーツにロウ付けだ」
ネクタイピンとカフスのパーツは市販の物を使用する。ばねの部分などを自分で作るのは難しいので彫金の資材店でパーツを購入することが出来るのだ。
パーツは分解した状態で販売されており、作った石座をパーツにロウ付けし、磨いてから組み立てる形式になっている。ばねは火に弱いので組み立て済みの物は使えないからだ。
まずはネクタイピンのパーツに石座を二つロウ付けする。この作業の難しいところはロウ付けして作った石座をさらにロウ付けしなければならないところだ。
ロウ付けはパーツ同士を銀ロウと呼ばれる融点が低い銀素材で溶接する技法である。再加熱すれば当然再び溶けてバラバラになってしまうので、更にロウ付けを重ねる場合は石座を付けた銀ロウよりも低い融点の銀ロウでロウ付けしなければならない。
銀ロウにはいくつか種類がありそれぞれ融点が異なるので基本的には融点が高い物から使っていくのだが、融点の差は僅かなので温度調整を間違えると石座をダメにしてしまう可能性がある。
火の当て方や当てる時間を慎重に見極めなければならないので集中力を求められる作業なのだ。
(やるぞ……)
石座をフラックスでパーツにくっつけてバーナーで火を当てていく。ムラが出ないよう全体をゆっくりと温めていくとパーツと石座が赤く光り出した。銀ロウが解けるのは一瞬である。石座とパーツとの間の銀ロウが解けたらすぐにバーナーの火から外してそれ以上温まらないようにする。酸洗いをするために希硫酸の入った瓶に入れればロウ付け完了だ。
上手くロウ付け出来ていれば良いのだが、たまにくっついているように見えて失敗している時がある。酸洗いの瓶の中でバラバラになっているパーツを見るとなんとも悲しい気持ちになるのである。
同じ手順でカフスのロウ付けも行い、酸洗いを終えたら研磨機で被膜を剥がしてリューターで磨いた後に研磨剤を付けたバフをかけたら石留めをする。
(シンプルだけど良いな)
彫刻台に固定して石を嵌めると、それまでただのパーツにしか見えなかった物に命が吹き込まれたような不思議な感覚に陥る。石を傷つけないように慎重に爪を倒し、打痕を磨いて残りのパーツを組み立てたら完成だ。
「できたー!」
丸一日集中して作っただけありいつも以上に達成感がある。ネクタイピンとカフスは作るのが初めてだったので不安もあったが、無事に組み立てまで終えることが出来て良かった。
「明日メッキをかけて……メッキが上がるまでに良い外箱を探しに行かないと」
あとはメッキと梱包用品を揃えれば大丈夫そうだ。保護魔法をかけたいのでメッキは魔導メッキにしよう。長丁場で疲れた体を揉み解しながらも「喜んでもらえるだろうか」とドキドキするリッカだった。
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