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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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秋色のガラス工房

 秋の手仕事祭二日目、午前中は前日より少なかったものの客足が途絶えることは無く上々の結果だった。午後に入り宝石商がやって来たので順番に一時間ほど休憩に行くことになり、リッカはお昼ご飯を手早く済ませ挨拶周りへと向かったのであった。


「こんにちは!」


 まず訪れたのは蚤の市で知り合ったカエデのブースである。同じくガラス職人であるモミジとの共同出店で、スペースを広めに取れるエリアに机を横に二つと前後に二つの計四本並べ、上にひな壇を作り作品を陳列していた。


「あっ!夜の装飾品店さん、来てくれたんですね!」


 カエデはリッカに気づくとぱあっと笑顔になり、隣にいたモミジに声をかける。


「モミジ、こちらこの前話した夜の装飾品店のリッカさん」

「初めまして。カエデがお世話になっております。一緒にガラス工房をやっているモミジと申します」


 モミジはにこりとほほ笑んで頭を下げると懐から名刺を取り出した。紅葉の形をした可愛らしい名刺だ。


「初めまして。夜の装飾品店のリッカです。作品を拝見しても宜しいですか?」

「どうぞどうぞ」


 促されるまま二人の作品を見学する。カエデが作っているのはとんぼ玉だ。色とりどりのガラスを作って作られたとんぼ玉はどれも見事な出来で、マーブル模様のシンプルな物から動物を象った複雑な物まで多種多様だった。


 とんぼ玉単品でも販売しているがネックレスやストラップ、かんざしに加工をしてある物もあり展示も華やかだ。


 一方モミジの作品は吹きガラスで作った器やグラスが中心で、机に鮮やかな影を落としていて美しい。涼やかな見た目でお酒は勿論冷たいお茶を淹れても食卓に花を添えてくれそうなデザインだ。


 柄物もあるが無地の色ガラスで作られたグラスも人気らしく、お酒の種類に合わせて買い揃えている愛好家も居るらしい。


「細かいですね……。どうやって作るんですか?」


 リッカは大小様々な花が封入してあるとんぼ玉を手に取り美しさに驚嘆する。どうやって作っているのか想像も出来ない。


「まず先にお花のパーツを別に作っておいて、本体を作る途中でパーツを貼り付けるんです。貼り付けた上から更にガラスを巻いてカバーすれば完成って感じですね。大まかですけど」

「へー!」


 何度でもやり直しが出来るロウと違ってガラスは一発勝負なので作るのも大変そうだ。それにも関わらずこんなに細かい物が作れるなんて凄いなとリッカは感心した。


「興味があるなら今度うちに来ます?体験工房も兼ねているので教えますよ」

「本当ですか?」

「ふふ、ちょっと遠いですけど観光も兼ねて来ていただければ。小さい物で一つ銀貨1枚、凝った物で2枚前後で体験してもらえるのでお気軽にどうぞ」


 とんぼ玉の製作体験なんて楽しいに決まっている。彫金以外の手仕事はあまり経験したことが無いので是非体験してみたい。しかも一つ銀貨1枚から作れるなんて素晴らしい。


「銀貨1枚で作れるんですか!」

「簡単なデザインなら十分から十五分くらいで出来るので!デザインとかかる時間次第って感じですね」

「なるほど……」

「事前に蜃気楼通信(ミラージュ)か音声通話でご予約頂ければ嬉しいです!」


 そう言うとカエデは体験工房の小さなリーフレットを取り出しリッカに手渡した。リーフレットには体験の様子や料金などが画像付きで掲載されている。


「カエデは本当に商売上手ね」


 あまりに自然にリーフレットを手渡したので横で見ていたモミジが笑う。


「だってー、リッカさんに来てもらいたいんだもん!」

「年明けまでは忙しくて無理かもしれませんが、落ち着いたら予約入れますね」

「やった!お待ちしてますね!」


(体験工房、引っ越しが終わったらトウカさんととんぼ玉を作りに行こう)


 二人で製作体験をするのも楽しそうだ。それに、宝石商が何かを作っているのも見てみたいとリッカは思ったのだった。


「じゃあ次はこっちの吹きガラスも見て行って下さいな」


 話がひと段落した所でモミジに手招きされる。


「こちらのガラスも綺麗ですね。以前カエデさんに頂いたメープルシロップの瓶もモミジさんが作られたんですよね?」

「そうなんです。名産のメープルシロップを使って町おこしをしたいと言うことになって、私のガラスを使ってお土産物に仕立てて販売したら思いのほか好評で」


 今やチチブの名物土産である。カエデ達の工房でも販売しており、体験工房に来た客にも評判らしい。


「ガラスで何かお探しですか?」

「そうですね……。お酒を飲むのに良いグラスってありますか?」

「お酒は何を飲まれるんでしょう」

「ワインとかカクテルとかですかね」

「……でしたらこちらの酒器は如何でしょう」


 モミジは数あるガラス作品の中からいくつかタンブラーを選ぶとリッカの前に並べた。淡い水色のタンブラーは分厚くてところどころ気泡が入ってる素朴な風合いだ。


「素朴なタンブラーですが白ワインや炭酸系の爽やかなカクテルを入れると映えると思いますよ。あとこちらは赤ワイン用にや色の濃いカクテル用に」


 そう言って差し出された青いガラスで作られたまん丸いタンブラーは水面に散る花びらのように金箔が散っていて高級感がある。どちらも素敵なタンブラーだが、リッカが気になったのは……


「このタンブラー、ラムネの瓶みたいで可愛いですね」


 最初に紹介された淡い水色のタンブラーだ。どこか懐かしいラムネ瓶のような青色をしたガラスが気に入ったのだ。


「透明なガラスなのですが厚みがあるので青く見えるんです。昔ながらの雰囲気が好きな方にはおすすめですよ」


 確かにグラスにしては厚みがあってずっしりとしている。分厚いガラスの中にぷくぷくと浮かぶ気泡が水中の景色をそのまま固めて切り取ったようだ。


(モミジさんが言うようにサイダー系のお酒とか白ワインに良さそう。今うちにあるグラスは味気ないものばかりだからペアで買おうかな)


 毎日の夕飯時に良くお酒を飲むので酒器は幾らあっても良い。お酒にあったお洒落なグラスがあるとより美味しく感じるからだ。宝石商の家には色々と酒器が揃っているがリッカの家には市販品のシンプルな物ばかりなので丁度良いとリッカは思った。


「このタンブラー、ペアで頂けますか?」

「ありがとうございます」


 割れないように梱包材でしっかりと包んでもらい立派な紙袋に入れて貰った。


「じゃあまた連絡しますね!」

「はい!お待ちしてます!」


 良いタンブラーを購入することが出来て満足したリッカはカエデ達のブースを後にし、その足でトウジのブースへ向かった。

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