難しい立ち位置
秋の手仕事祭一日目が終了した。リッカとコハルは乗り継ぎ駅にあるリッカ行きつけのラーメン屋で今日の感想を語り合いつつ翌日の作戦会議をしている。
「今日は結構売れて良かったな」
「はい!新作も何点か売れて安心しました」
手紙に加え蜃気楼通信で宣伝したからか、リッカのブースにはいつもより多くの客が訪れた。新作だけでなく既存の作品を複数購入していく客もおり、初日の売上としては過去最高を記録したのだった。
「再生石も概ね好評でしたね」
「ああ。自分で言うのもあれだが意外だったぜ。正直魔工宝石だからもっと不評だと思っていたが……」
再生石に纏わる物語が手仕事を好む愛好家達に刺さったらしい。量産品の魔工宝石とは異なり、使った石や破片が全て異なる一点物というところも魔工宝石らしさを薄める一因だったのかもしれない。
特に興味を持ってくれた客には「修理」の話を振ってみたが、「確かにそういうサービスがあれば便利そう」「このレベルで綺麗になるなら十分」と好評だった。
「今は修理をしたい物は無いけど追々一点物の作品が壊れた時に使いたいっていう声が多かったですね」
「職人もいつまでも現役って訳じゃないからな。昔買って壊れた作品を修理に出そうとしたら職人が廃業していてどうにも出来なくなったっていう事態も起こりえる訳だし、誰が作った作品でも綺麗に修理してくれるサービスは需要があるんだよ」
「なるほど~……。特に石の修理までやってくれる所はそうそう無いですしね」
「ああ。あと、今日色々意見を聞いて思ったんだが石以外の素材も対応出来ると良いかもな」
「例えば?」
「そうだな。ぱっと思いつくのはガラスだな。あれは特に割ったらおしまいの世界だからな。思い入れのあるガラス製品の修理なんて需要がありそうだと思わないか?」
「確かに」
石と同じくガラスも一度破損してしまったら取り返しがつかない。金継ぎのような技術はあるが完全に元の状態に戻すサービスは現状存在していない。
「日用品は消耗品って考えもあるだろうが、思い入れのある物は修復しても良いと思うんだがな」
「まぁそこらへんは難しいですね。消耗品であるが故に長持ちしすぎてしまうと新しい製品が売れなくなってしまいますし」
ガラスの器のような日用品の場合、破損や消耗をして買い替えることによって産業が回っている。極端な話全てを修復してしまうと買い替えが起こらなくなり職人の食い扶持を奪ってしまいかねない。
「それを考えると修理の値段を高めに設定した方が良いだろうな」
「少なくとも新しい物を買った方が安く済む値段が良いでしょうね。かつどうしても修復したい物が出た時に納得して支払える値段で」
「そうだな。でもそうなると大手の宝飾企業が修理と再生石に興味が無いのも納得できるぜ」
造形魔法と複製魔法での量産により宝飾品を消耗品として普及させた宝飾業界にとって「修理」は自分たちの利益を減らす厄介な存在だ。普及すればするほど買い替える人が減るので好ましく思われないだろう。
勿論、買い替えではなく愛好家のように集めることを目的としている人間は別だ。しかし安価で直せるとなるとそちらに人が流れるのは必然である。
「面倒なことに巻き込まれないように、上手く立ち回る必要がありそうだな」
無暗に敵を作っても仕方がない。バランスを取りながら進めていく必要がありそうだとコハルは思った。
「明日も今日と同じ感じで大丈夫ですか?」
「ああ」
「分かりました。明日は午後からトウカさんが来れるみたいなので、休憩も長めに取れると思います」
今日はそれぞれ担当する作品が違ったのと来客対応とであまりゆっくり会場を回ったり休憩を取ることが出来なかった。明日は宝石商が助っ人としてやって来る予定なのでゆっくり挨拶周りが出来そうだ。
「お待たせしました、カレーラーメンの大盛と濃厚醤油鶏だしラーメンです」
運ばれて来たラーメンを啜って翌日への英気を養う。秋の手仕事祭も残すところあと一日だ。
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