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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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技術発展の弊害

「あ、リッカさん!いらっしゃい」

「こんにちはー。先日は連絡ありがとうございました」


 トウジのブースは女性客で賑わっていた。新シリーズのバングルが好評で蜃気楼通信(ミラージュ)で拡散された為客足が爆発的に増えたらしい。繊細な透かし彫りで出来たバングルは銀製品にしては重量が軽く身に着けやすく、好きな魔法を付与して「お守り」代わりに身に着ける女性が多いとか。


「いえいえ。最近問題になってたけど実際にイベントで騒ぎが起こったのを見たのは初めてだったから、リッカさんにもお知らせしておこうと思ってさ」

蜃気楼通信(ミラージュ)って便利ですけど、そうやって悪用する人達も居るんですね……」

「そうなんだよ。なにせ一瞬で作品をそのまま立体画像にして保存できちゃうからね。蜃気楼通信(ミラージュ)の計測機能を悪用するだけじゃなくて中にはコピー品を作るための『原型』として作品を買って行く人も居るらしいから対策は難しいみたいだよ」

「え!」


 手口としては一般客と同じように作品を購入した後に自宅やアジトに帰ってから複製魔法で複製し、作者の名前を騙ってコピー品を売ったり自作だと偽って販売をしたりするらしい。


「そんなの、売り手側としては普通のお客様と見分けがつかないじゃないですか……!」

「うん。そこが困ったところでさ。現状としては対策の仕様が無いんだよね。極端な話、ブランドの公式コミュニティで掲載している『お品書き』の立体画像だって同じように悪用出来ちゃうんだから」

「あ……」


 コミュニティでの宣伝画像が悪用されるなんて考えたことも無かった。立体画像を載せた方が手仕事祭に来る前に欲しい物を吟味出来るだろうと軽い気持ちで載せていたが、確かに原寸大で本物そのままの立体画像を見る事が出来るのだから腕のある技師ならばそっくりコピー出来てしまうだろう。設計図をばら撒いているような物なのだから。


「いくら技術が進歩していても使う側のモラルが無いとねぇ……。いっそ会場内で蜃気楼通信(ミラージュ)の計測機能だけ使えなくするとか、作品に対して計測出来なくなるような保護魔法があればいいのになって思うんだよね」


(……もしかして、コハルさんが持ってきた防犯魔道具って凄く需要があるのでは?)


 トウジの話を聞いて、今まさにその魔道具を自分のブースで使っていることをリッカは思い出した。特に被害に合っていそうな一点物を作っている職人はあの魔道具があるだけで安心してイベントに参加出来るようになるだろう。「盗まれるかも」と思いながら二日間の長丁場を耐えるのは精神衛生上宜しくない。


「そうですね……」


 思った以上に深刻そうな盗作被害の話を聞いて暗澹たる気持ちになったリッカだった。


「もどりましたー」

「おかえりなさい」

「おかえりー」


 休憩を終えて自分のブースに戻ったリッカはコハルを休憩に送り出すと宝石商から売り上げの報告を受けた。


「リッカさんが休憩に行かれている間に男性のお客様が新作のブローチを一点購入されました。コハルさんのお話によると昨日もいらっしゃっていたようですが覚えていますか?」


 昨日も来ていた男性のお客様と言えば「彼女にプレゼントをしたい」と言っていたあの人だろうか。


「多分。ブローチを買われたんですね」

「ええ。リッカさんが休憩中だと知ると『お礼を伝えておいて欲しい』とおっしゃっていましたよ」


 男性はあのあと恋人に連絡を取ったらしい。自分の考えを伝えた上で改めてシンプルな装飾品しか身に着けない理由を問うと、恋人は言ったそうだ。


『派手な装飾品は仕事に着けて行けないし、重量があるのは肩が凝ったり痛くなるから苦手なの。家事をする時も邪魔になるから日常的に身に着けるのはシンプルな装飾品が良いな』


「男性は仕事や家事のことまで頭が回っていなかったと仰っていましたよ。あと装飾品を身に着けて耳が痛くなるとか肩が凝るとか、そういうのも知らなかったと」

「そこら辺は普段装飾品を使っていないとなかなか分からないですよね」

「ええ。見た目の良さと実用性は別物ですからねぇ」


 色々と話し合った結果、「似合う物を探してくれた男性の気持ちが嬉しい」とのことで「波間のブローチ」を買うことになったそうだ。


「今後は彼女さんと一緒に装飾品を買いに行って装飾品について勉強すると仰っていましたよ」

「そうですか。それは良かったです」


 慣れないイベントに入場料を払ってまで来たのだ。きっと男性は彼女の為に勇気を振り絞って買いに来たのだろうと見て取れた。そこに水を差してしまったかと不安だったが、丸く収まったようで安心した。


「装飾品の贈り物って難しいですね」

「人それぞれ好みがあるものですからね。比較的高価なので渡す相手との関係性によっては『重い』と受け取られてしまうこともありますし、貰ったからには身に着けなければというプレッシャーになったりもするようですね」

「頂いた方と会う時に身に着けなきゃ~……って思う方は多いみたいですね」

「『なんで身に着けてくれないの?』って言う人も居るらしいですしね」

「うーん……」


 贈る人と贈られる人。双方に一定の信頼関係が築かれていて意思の疎通が出来ていないと難しいのかもしれない。特に好意を持つ相手に送る場合はより一層だ。


「思いやりが大事ってことですね」

「どの装飾品を身に着けるのかは本人の自由なので強制は良くないですからね」


 装飾品を貰って喜ぶ人が居る一方、困っている人も居る。贈り物として選ばれることが多いからこそ、リッカは装飾品の「贈り物」としての難しさを実感していた。

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