ランチタイムは騒動の始まり
最近、ドア恐怖症にかかっている。なにしろここ数日ドアを開けると、そこはトーレニングダンジョン。毎回強制的に転移さられているのだ。
教室のドアを開ければダンジョン、トイレのドアを開ければダンジョン……時間は戻るし体力も回復しているけど、精神的疲労が蓄積しまくりっている。
皮肉な事に精神的疲労に反比例して体力だけはついていた。
対処方法はただ一つ。移動回数を減らす事。昼休みになったけど、俺は教室から出る気はない。魔物が現れても梃子でも動かないと心に決めている。
「茂、飯にしようぜ」
まあ、飯を食べる相手が照しかいないってのもあるけど。桜ちゃんは授業終了と同時に教室を出て行ったし。
「だな……ちょっと待って。ライソが来た」
鞄から弁当を取り出そうとしたら、スマホが鳴った。俺の姉妹や月牙、桜ちゃんで作ったグループライソである。
メッセージを投稿したのは姉ちゃん“みんなで、外でご飯食べよー”との事。どうするか悩んでいたら、桜ちゃんも参加するらしい。
俺もメッセージを入力“集合場所はどこ?照も誘っていい?”俺の中では、梃子より桜ちゃんの方が強いのです。
結果、集まったのは俺、姉ちゃん、向日葵、桜ちゃん、、月牙、結城さん、照。そして桜ちゃんが連れてきた富所さんの八人。メンバーがメンバーだけに、ギャラリーが凄い。
「どう見ても男子高校生が作る弁当に見えないよな」
結城さんが俺と照の弁当を見て引いている。いや、俺と照の弁当を比べたら駄目だ。あいつの弁当は親父さん監修だし。
「照は親父さんからオッケー貰わないと持ってこれませんから」
親父さんいわく弁当作りも修行の一環だそうだ。全てのおかずが飾り切りしてあって、デパ地下で買ったら恐ろしい値段になるだろう。
「お前の弁当だって楓先輩と向日葵ちゃんのおかずを、変えているじゃないか。それに俺は修行、自分の為なんだぜ」
いや、二人共好みが違うし、向日葵は人参が嫌いだから細かくしないと残してしまう。逆に姉ちゃんは人参が大好き。
それに俺だって、国政の為だ。美味しい料理を広めて支持率を上げるのだ。
「俺から言わせればどっちもどっちだよ。茂、卵巻きもらうぞ」
月牙が俺の弁当に箸を伸ばす。ギャラリー女子から漏れる嫉妬の声。
「幼馴染みの日常イチャイチャ……使えますわ」
そして不穏な事を呟く富所さん。なぜか背中に悪寒が走る。
「茂、私の唐揚げと白滝の明太炒め交換しない?」
返事をする前に、桜ちゃんが俺の弁当に唐揚げを乗せてきた。そして今度は男子からのブーイング。俺無事に帰れるかな。
「桜ちゃんの唐揚げ、凄く美味しいよ」
味も美味しいけど、桜ちゃんが作ったというのが大きい。
「ありがとう。茂の白滝はやっぱり美味しいね……やっぱり、結婚するなら料理が得意な人だな」
つまり料理を頑張れば、俺にもワンチャンないか。俺はある光景を見て、一気に自信を無くしたのだ……だって向日葵が、照の作った人参入りの煮つけを、美味しそうにパクつているだもん。
「……あの二人って、昔からああなのか?」
結城さんが呟く。うん、昔から俺が勝手に期待して自滅しています。
「ええ、相手にするだけ損ですよ。良かったら鮭の照り焼き食べますか?」
照、お前だけは俺の味方だと思っていたのに……確かに桜ちゃんとの仲が進展しない事を愚痴っていたけど、酷くないか?
「……お前も大変だな。あぶねっ……おい、大丈夫か?」
結城さんが鮭の照り焼きに箸を伸ばそうとした瞬間、誰かが倒れ込んできた。哀れ、鮭は地面にダイブ。
「こいつは確かレスリング部の……でも、こんなにガタイが良かったかな?」
倒れたのは、筋肉隆々の少年。結城さんの話によると俺達と同じ一年生との事。
(筋肉増強の魔法……随分質の悪い使い方をするな)
俺の国で使ったら有罪レベルだ。法的に裁けなくても、俺が個人的に裁く。
突然人が倒れた所為で、周囲は大騒ぎに。
「騒ぎを聞きつけて来てみれば、貴方達でしたか。その人は私と同じクラスなんですよ。私が保健室に連れて行きます……月牙、手を貸して下さい」
声を掛けて来たのは、月牙と同じ校外風紀委員の氷室龍貴。随分とタイミングの良い登場だ。
イケメンの追加登場で女性ギャラリーは、ヒートアップ。
「分かったよ。茂、照俺の弁当におかずを足しておいてくれ」
月牙はそう言うと、レスリング部の少年を保健室に連れて行った。
(保健室か……場所知らないんだよな。今行ったら面倒臭そうだし、放課後でも行ってみるか)
◇
放課後、姉ちゃんに連絡をとって合流。
「しー君、あのレスリング部の子と知り合いだったの?」
人見知り……正確に言うと猿人嫌いなんだけど、俺が他人の心配する事に驚いているようだ。
「同じ学校の奴を見殺しにしたら、寝覚めが悪いからね」
随分と勝手な言い方だと思う。俺は何千人もの猿人を殺した。とても同じ人間の台詞とは思えない。
「見殺しって、大袈裟なんだから」
確かに平和な日本だと見殺しは、比喩的な表現で使われている。でも、あの子の掛けられていた魔法は、そんな生温いものじゃない。
「あの子には筋力増強魔法が掛けられていたんだよ。普通は身体に悪影響が出ない様に調整しなきゃ駄目なんだけど、掛けられていた魔法は故意に調整されていなかった」
あのままだと、心臓や血管が筋肉に押し潰されてしまう。
「健康に悪いって事?」
長期的に見れば健康を害する事は確実だ。長期的に保てばの話だけど。
「日本にはマナがないから、魔法を使えない。俺みたいに自分で魔力を生成するか、魔法少女みたいに魔導書から魔力をもらえれば別だけどね……でも、あの子は違う。だから魔法を掛けた奴は、生命力を魔力に変換しているんだ」
あの時は生命力を吸われ過ぎて気絶したんだと思う。
(あの魔法は俺がいた世界と同じ物。なにより師匠自ら関わって来ている……やれやれ、俺がいない間になにがあったのやら)
犯人を見つけて、きちんとしばいてやる。
「大変じゃない!保健室はこっちだよ……凄い人だかり」
保健室の前に大勢の生徒が集まっていた。
「全員酷い怪我らしいぜ」
「レスリング部の奴等が、しごきをしようとして返り討ちにあったみたいだぞ」
「やったのは一年の別家分らしいぞ」
別家、トイレで俺に絡んできた奴か。あえて人混みの中に紛れ込み保健室の様子を探る。
(筋肉増強魔法が消されている……犯人はピュリアの中にいるのか?)
今は犯人探しより体力強化が先だ。俺は手頃なドアを見つけて、トレーニングダンジョンへ飛び込んだ。




