魔王様のアウトドア
金ってある所にあるんだな。
「これがスクールバスってマジかよ……」
オリエンテーションをやる山にはバスで行くと聞いていたから、どこかのバス会社が来ると思っていたのに。
駐車場に停まっているバスの車体には聖ピュリア学園の文字が書かれていた。それが全部で五台。しかも運転手はピュリアお抱えらしい。
「いつ見ても凄いよね。ロケバスでも、こんな豪華なバスないよ」
驚きながらバスを見ていたら優が声を掛けてきた。芸能人も驚くバスって……まさに別世界だ。
「バスはクラス別なんだよな。優、一緒に座ろうぜ」
優のファンに聞かれたら、激怒されそうな誘い方である……でも、クラスで誘えるのは、照か優だけなのだ。
「ごめん。僕は照と座るんだ」
どうやら照が先に予約していたらしい。言い訳させてもらうと、トレーニングダンジョンに夢中になって誘うのを忘れていたのだ……このままだと、先生の隣になるのでは。
「マジ?一人で座れるかな」
俺は猿人が苦手だ。あまり話した事のない担任の隣より、一人で座っていたい。
「茂、愛野さんが呼んでるぞ……本当に世話が焼けるダチだよな」
俺の背中を見ながら、照が溜め息を漏らす。そう言うのはラブコメの主人公に言え。
「絶対にそんなじゃねえって!」
俺は異世界の魔王様なんだぞ。ブーロは、二度も女に裏切られた魔王だ。ラブコメとは無縁である。
◇
二人の視線が痛い……魔王ブーロ、幼馴染みの隣に座っています。
「桜ちゃんは今から行く山に行った事あるの?」
なんでもオリエンテーションは、ピュリアの理事長が所有している山でやるそうだ。
学校ではなく、理事長個人の山らしい。なんでも数年前に寄付でもらったとの事。
「あるよ。部活の合宿でも使った事あるし。着いたら絶対に驚くよ」
甘いな、桜ちゃん。今はヒョロガリ少年だけど、前世は戦場往来の魔王だ。滅多な事じゃ驚かないぞ。
「それは楽しみだな……検問?何か事件でもあったのかな?」
バスが停まったかと思うと、ガードマンらしき人が近付いてきた。
でも、周囲から気の乱れは感じないし、何より先生が平然としている。
「あれはピュリアの専属ガードマンさんだよ。この道路もピュリアも物なんだって……あそこに見えるのは、私達の目的地だよ」
まじか……桜ちゃんの視線の先にあるのは、とても個人所有とは思えない巨大な山。そしてきちんと整備された道路が伸びている。
(隙の無い身のこなし……あれはプロだな)
多分、傭兵の経験でもあるんだと思う……良く考えたら当たり前で、ピュリアには政治家や大企業の社長の子供が大勢通っている。身代金目当てで襲われる危険性が十分あるのだ。
「山に行くともっと驚くよ。ホテルみたいな合宿場もあるし、下手なキャンプ場より設備が整っているんだよ。それでいて手付かずの自然が残っているんだって」
一見すると矛盾する言葉だけど、桜ちゃんの言っている事は本当だと思う。
山に近付くにつれて、妖精や精霊が増えてきたのだ。向こうならブーロが来たって、大さわぎになっていたと思う。
俺はこっちの世界の精霊と面識がないから、バレる事はない筈。
(妖精王のおっさんは元気にしているかな?今の僕を見たら、大笑いするだろうな)
◇
照、俺が言えた義理じゃないけど、それじゃモテないぞ。
「照、火がおきたぞ」
料理をしている照に声を掛ける。照は結城さんや富所さんと一切会話ぜず、黙々と料理をしているのだ。
火はみんな見ていない所で、着火魔法を使った。
「了解。茂、味をみてもらえるか?」
照はそう言って小皿を差し出してくる。会話のチャンス潰してどうするんだよ!ここは年長者たる俺がパスをあげてやろう。
「あー、今自分の料理の味見したばっかりなんだ……結城さん、代わりにお願い出来ますか?」
照が作った時点で、美味いのは確定している。ここは結城さんのポイントを稼がせてやろう。
「良いのか?……なに、これ!高いお店の味じゃん」
結城さん、大興奮。まあ、有名料亭で修行しているんだから、正解なんだけどね。
「茂、竹の棒なんて何に使うの?」
竹の棒を持ちながら、優が尋ねてきた。俺は照と違ってアウトドア料理だ。
「棒パンに使うんだよ。アヒージョも作るから合うぞ」
棒パンは父さんの実家に行った時に覚えたアウトドア料理だ。予めパン生地を作っておき、それを棒に巻き付けて直火で焼く。パンにフワフワ感はないけど、香ばしくて美味しい。
「……二人共料理ガチ勢だよね。なにか手伝う事ある?」
なんでも今度アウトドア関係のロケがあるらしく、予行練習にしたいそうだ。
「それじゃ棒パンを見ておいて。軽く焦げ目がついたら完成だから。俺は水を汲みにいってくる」
水汲み場までは、歩いて数分だ。真っ黒こげになる心配はないだろう。
水を汲もうとしたら、一匹の妖精が近付いて来た。
「私の姿が見えるの?助けて!見た事のない妖怪に森をとられたの」
見た事のない妖怪?自分の周囲に結界を張り、森の気配を探る……トロルとコボルトか。
魔王様のアウトドアを邪魔しようっていうのなら、死ぬ程後悔させてやる。




