虹貧のレイン②
本日の投稿。
――ズドンッ!――
放たれた弾丸は、魔力を爆ぜさせて空を引き裂き…魔術の陣に触れていく。
――キュィンッ!――
1つの陣を潜れば、1が10に分かたれる。
――キュィンッ!――
2つの陣潜れば、10が100に変化する。
――キュィンッ!――
3の陣を潜れば、100は致死の弾丸となり…来る災禍を打ち倒す牙となる。
――ドドドドドドドドッ!――
それは正しく虹の軌跡…虚空を踊り狂う虹の礫が獣の心臓を穿ち、貫き…その生命の温もりを奪っていく。
無常で、圧倒的で…あまりにも機械的な作業…その全てには感情の一つも籠もっておらず…繰り広げられた虹による殺戮に…少女はただ目を見開き絶句に固まる…そして―――。
――ドサッ!――
程なくして、最後の屍が…胸に血を流し…地面に倒れ伏す…ソレを見届けた男は、銃から色褪せた魔石を取り出し砕くと…少女に向き直り…軽く告げる。
「――さて、死体の回収と調査を始めようか…行くよマナリア君…マナリア君?」
しかし、その言葉に返答は来ず…男は疑問を浮かべながら己の背後に視線を送る。
「……」
その視線の先には…己の眼前で繰り広げられた虐殺に目を見開き絶句する助手の姿が有った。
○●○●○●
虹の軌跡が…獣の災いを打ち砕いた…何百と群れた魔物達を、たった一度の引き金で尽くに鏖殺した。
「……」
それは確かに、驚き、絶句し…恐れるべき所業だった…それにも確かに…私は恐怖と驚愕を覚えた…けれど。
「何…今の〝魔術式〟」
何よりも己の眼の前に広がった、あの〝魔術式〟に比べれば、獣の災いを虐殺せしめた事への驚きは些事に等しかった…。
私だって、見習いとは言え魔術師だ…勉学に励む傍らで先人の構築した魔術式を目にする機会は幾度もあった。
――『カラカラカラカラッ』――
――その過程で見た魔術式はどれも、円と線に余白があり、図解にしてその構成を理解するのは難しくない…けれど、今の魔術式はどうだ。
「――〝基礎魔術〟…〝魔力弾〟をベースにしたのは分かる」
〝基礎魔術を組み込んだ魔術式〟である…それ以外には何一つ分からなかった…膨大な線と円で組み上げられた魔術陣は、常人が扱える物とは到底思えなかった。
「――レインさん…本当に〝教師〟の教位の魔術師なんですか?」
「ん?…そうだよ?……教位の詐称は重罪だからね、君に見せたのは紛れも無い本物の〝教位〟だとも」
ザクザクと、魔術で魔物の死体を解体するレインさんが此方をチラリと見てそう告げる…その言葉に、私は彼がそれ以上を話す気は無いのだと理解し、話を変える。
「レインさん、さっきのあの魔石は何ですか?…アレ……〝虹〟ですよね」
私がそう言い、彼の剥いだ毛皮を馬車の木箱に詰め込んでいると…レインさんが、青く澄んだ霊薬を飲みながら腰を下ろし…私の言葉に肯定する。
「あぁ…〝アレ〟は私が創り出し加工した〝特別な魔術石〟だよ」
「レインさんは〝色彩者〟だったんですか?…でも、目の色が…」
「そう、僕の目は〝属性を持たない〟事を意味する〝黒〟だ…だが、確かに僕は〝色彩者〟だよ…全ての属性を行使する事が出来る――だが」
彼はそう言うと、自身の魔力を私へ見せる。
――フワッ――
ソレは確かに〝虹に輝く魔力〟…魔術師が羨み、求める〝天性の才能〟だった…その美しさに目を奪われた私がおぉと声を漏らす…しかし、そんな私へ彼は言う。
「僕は生まれながらに〝魔力量〟が極端に少なくてねぇ、与えられた魔術回路を自前では完全に発揮出来ない…自身の魔力を1属性に変換してやっと並の魔術師と同レベルの魔術出力を発揮出来る…ある意味で僕は、この学園でもっとも〝魔術師としての適性〟が低いと言える」
その言葉の通り、彼の身から解き放たれた魔力は数秒とせぬ内に霧散し…彼は〝魔力切れ〟で脂汗を流しなから青い霊薬の残りを飲み干す。
「――そんな物だから、学園の上位魔術師達からは〝才能だけの魔力無し〟、普段上位魔術師から下に見られる一般魔術師からは〝魔力無しの癖に天賦の才を持った貧者〟の扱いを受け…どの派閥からも毛嫌いされている…早い話が孤独者で……〝虹貧〟…〝虹の貧者〟なんて二つ名を付けられているのさ…全く酷い話だろう?」
彼はそう言うと、ハァと溜め息を吐いて肩を竦ませる…その言葉に私が反応に困っていると…彼は特に気にした様な素振りも無く私を見て笑う。
「――だから、僕には君が必要なのさ〝マナリア助手〟」
「ッ…!」
その笑みは何処か憂いを帯びた様に儚く、瞳には鋭い意思が籠る…その姿に私の心臓が思わず跳ねるが…次の瞬間には、彼の視線は他所を向き…アリエルさんに指示を出す。
「さてと、小遣い稼ぎのタネは回収した…後は〝獣災〟が起きた原因を調べて帰ろう…大方土地の主が他所から来た魔物と争ったか其処らだろうが…御上は原因を調査しろとの御達しだからね」
そう言うと、程なくして私達を乗せた馬車は動き出す…その行く先は――。
「〝ソミュール山〟に〝火の魔力〟…ねぇ?」
(全く面倒臭い……だからこの手の仕事は嫌なんだ)
雪降りしきる寒冷山…その麓だった。
●○●○●○
「――良し、良しッ、良ォッし!!!…フフハッ、ノコノコと来たな、〝魔力無し〟…!」
山肌から、遠視の魔術を用いて此方へ迫る〝馬車〟を見据えながら…アルベルト・バルバインは醜い笑みを浮かべる。
「――で、ですがバルバインさん…幾ら貴方が強力な魔術師でも…今の魔術は…!」
「えぇ…小規模とはいえ〝獣災〟を一手に屠る程の魔術師です…本当に我々だけで仕留められるのですか?」
そんな彼へ、彼の部下として集められた幾人もの魔術師達…その中から数人がバルバインへ忠言を紡ぐ…しかしその刹那。
「〝黙れ〟」
――ジュウッ!――
その一言が紡がれた瞬間、指輪が黒く輝き…彼等の頭部が激しい炎に包まれる。
「「ッ※※※※!?!?!?」」
「――当然、〝アレ〟の事等把握しているに決まってるだろう…愚図共が」
ドサリと倒れた〝同胞〟に、彼等はどよめき…固唾を呑む。
「――良いか…貴様等は〝魔力無しの取り巻き〟共を殺すのが役目だ、〝アレ〟を殺すのは私の仕事だ…クフフッ♪」
そんな彼等へ、アルベルトがそう言うと…頭部が燃え尽きて死んだ筈の同胞が、ゆっくりと起き上がる…。
〝焼屍人〟
「アレは私の手駒で処理する……フフッ、しかしまさか…〝あんな死体〟まで用意してくれるとは…フロイド卿の慈悲深さは天井知らずだな…!」
アルベルトはそう言い、ニヤリと笑みを浮かべると…レブナント達を連れて、薄暗がりの中に消えて行く。
『グルルルルルッ』
その暗闇の奥からは…真っ青に燃えた相貌と…低くくぐもった怪物の唸り声が木霊していた。
【ゼクス・クリミナル】
〝六番目の罪〟の名を冠する魔術武装…レイン・マナルガとその共による合作であり〝六番目〟の傑作。
しかし、その強大さ故に彼等はその武装に【罪】の名を与え、その行使に重大な制約を課している。
その最たるは〝善良に仇なす事なかれ〟…彼等は知っていたのだ、自らが時に人道を踏み外しかねない狂人である事を。
〈本機能解放〉『――〝我等は智慧の求道者〟――〝しかして人の道踏み外す事なかれ〟』
〈術式指定1:追尾の魔弾〉『―〝我が求むるは狂える獣を穿つ処刑の弾丸〟――〝遍く獲物の臓腑を穿つ致死の魔弾である〟』
〈未解放〉




