虹貧のレイン①
此処に来て初めての主人公の戦闘描写ですよ皆さん。
「マナリア女史、これにて本日の依頼用及び実験用魔石の採掘は終了です、納品して帰りますよ(ドサッ!)」
「ウグォッ……おっっっっっも!?!?」
ある時は、アリエルさんに連れられて魔石の採掘に。
「マナリア女史、本日は中央図書館へ指定写本の提出を(ドサッ!)」
「だから重い!!!」
またある時はアリエルさんに引っ張られて本の山を図書館へ持っていき。
「マナリア女史、さっさと部屋に引き篭もって出て来ない怠けマスターを引き摺り出しますよ」
「イエスマム!」
「待て待て待て待てッ、そのダンベルを下ろし給えッ!…アリエルッ、僕はそんな仕事を頼んだ覚えは無いぞ!?」
「〝健康維持〟を任せると言ったのはマスターですが?」
「運動は必要な――ギャアァァァッ!」
またまたある時には、過酷な労働を強いる圧政者を白日の下に晒したり…。
兎にも角にも、まだ入学式すら始まっていないこの1か月近く…試験生の身ながらにかなり濃密な…いや濃密過ぎる時間を過ごしていた私の生活はそれなりに充実していた。
「コヒューッ…コヒューッ…肉体労働…断固反対…(ゲソォォォッ)」
「いや…まさかジョギングでダウンするとは思わなかったんだけど…レインさん体力なさ過ぎない?」
「日頃の運動をサボるからですよマスター」
研究室に戻る道のりを、グッタリと白くなったレインさんを抱えたアリエルさんと進む。
「ゴフッ…僕は探究者であって探検家じゃないんだよ……それに僕も半分は止むに止まれない事情が……グフッ、駄目だ…もう身体が筋肉痛をォォォッ……!!!」
「……ソレよりも、入学生はあと1週間でしたか、アリエル女史」
「はいッ!…もう少しで私の煌めく学園生活がスタートですよアリエルさん!」
「…では、入学祝いに何か贈り物を御用意致しましょうか」
「本当ですか!」
あの出会いから始まった関係だけど、アリエルさんとはもう何年も過ごした友人の様に気安い関係になれた…相変わらず無表情だけれど、慣れてくれば硬く綺麗な顔の内には優しく穏やかな人の温かさがちゃんとある。
――コソコソコソッ――
「彼奴…試験生の色無しだろ?(コソコソ)」
「あの変人もよくあんな出来損ないを連れ歩くな…恥ずかしくないのかね?(コソコソ)」
――ジッ――
「ッ!――」
「――ウブッ!…悪いアリエルッ、久し振りの運動で気分がッ!…急いで水場…いや、私の研究室に…」
「――承知致しました我が主ッ、マナリア女史、急ぎますよ」
「へ?は、はい!」
なんだかんだ言って、この助手生活もそこそこ楽しんでいた…そして。
●○●○●○
「――さて、今日の仕事だが…マナリア君、今日は僕も同行する事になった」
「へ?」
目の前でポカーンと口を開ける彼女へ僕はそう言い、頭を抱えながら説明する。
「はぁぁ……本当なら君達に任せたかった依頼なんだが…〝学園長殿〟から直々に頼まれては仕方が無い…誠に業腹だが…今回の依頼を処理出来そうなのは僕しかいなさそうでねぇ…渋々引き受けざるを得ないのだよ」
「……えっと…その仕事って言うのは…?」
「――〝小規模な獣災〟だよ」
その言葉に、彼女の息を呑む声が聞こえる…あぁ、確かに彼女の様な経験の少ない魔術師なら、〝獣災〟の言葉には震え上がるだろうな。
「なに…〝獣災〟といっても小規模だ…精々3桁台の魔物達が迷宮か何かの魔力に充てられて正気を失ったのだろう…その鎮圧に僕が駆り出されたって訳だよ…はぁ…面倒臭い…せめてロクサス君が居れば丸投げ出来たのに…よりによって出張とはね」
「ッ――のんびりしてる場合ですかッ!…獣災なんて一大事でしょ!?近隣の村にも被害が出てるかも知れないんですよ!?」
僕の言葉に詰め寄る彼女が叱責の言葉を紡ぎ、僕を引っ張る…クソッ、先日の攻防で僕のもやし体力がバレたか…。
「――あぁいや、周囲の村なら心配いらない…北方のソミュール山の方で発生してる…彼処は人が住むには寒波が厳しい上、魔物もそれなりに強いから学園の自治領の様になってる…先ず先に狙われるのは此処だよ」
「ッだったら皆で迎え撃てば!」
僕の説明に彼女の表情が晴れる…うん、僕も出来るならそうしたいんだけど…。
「学園長がさ……〝防壁の修繕費〟も馬鹿じゃないってさ」
どの時代も…上の無茶振りには参るよねぇ…。
〜〜〜〜〜
「――と、言う訳で早速来ましたソミュール山近辺…いや、相変わらず寒いね此処…もう春だと言うのにまだ山嶺に雪が見えるよ」
馬車に乗せられて僕は外の景色を覗き見る…背後には遥か先に聳えるロザリア学園都市の外壁…辺りは疎らに生えた小さな森と、高原…そして前方には寒々とした雰囲気を惜しげ無く発揮する雪山…その空は曇天と僕の心を表している様だった。
「……あぁ、だが特別何か新鮮な事はないな…良し、手早く仕事に戻ろう…〝来る〟よ、アレを見給え」
僕は一先ず周囲の景色を見渡した後、気を取り直して背後から恐る恐る付いてきたマナリア助手へそう言い、山と地平の境に指を向ける…其処にマナリア君が視線を向けた時…。
「――嘘…!?」
マナリア助手の引き攣った声がこの場に響く。
――ドドドドドドッ――
地響きの如き振動…それに伴い現れた地平からの影…に目を凝らす…其処には、やはりと言うべきか…体力の魔物が居た。
『ハァッハァッハァッ!』
『ゲァッ、グルァァァッ!!!』
『ガハァッ、ガハァッ…!』
「〝豪角鹿〟に、〝雪獣鬼〟…おまけに〝雪悪精〟か…見事に彼処で発見されてる魔物で、漏れなく全員D〜Cランク相応か、スタンピードにしては一丁前の雑兵だね」
光景はイイ迫力…そこそこの魔術師なら、焦りと緊張で反応を鈍らせるだろうが…僕は特に気にすること無く、自身の得物を抜く。
「――特にアレから欲しい素材は無いな…全部商人や職人に叩き売ろう」
そして、そう言うと…ホルダーから一つの〝魔石〟を取り出し…ソレを得物に〝嵌め込んだ〟
○●○●○●
――ドドドドドドッ!!!――
あぁ…怖い………目の前で音を立てて迫りくるその足音に、私の身体は凍り付いた様に動かなくなる。
散々、冒険者として魔物を狩ってきた…だから魔物との戦いには慣れているつもりだった……でも。
――ドドドドドドッ!!!――
迫りくる〝魔物の波〟に何の防波堤もなく真正面から相対すると…自分がどれ程無力なのかを思い知らされる…無理だ、私には到底アレを抑えられない。
怖い、怖い、怖い…逃げたい、隠れたい、死にたくない…止め処なく溢れてくる恐怖に頭が白く、意識が暗闇に落ちていく…到底抗えない様な〝死〟を前に…私の膝が決壊する…そして。
――ドドドドドドッ!―
あと、数百メートルと言う距離にまで…獣災の先触れが近づいて来た…その時。
――カシャンッ――
「〝装填〟――〝起動〟」
その声と共に…私の意識が現実に引き戻された時…其処には――。
「〝魔銃〟―〝ゼクス・クリミナル〟…〝術式展開〟」
眩く輝く虹色の魔力が…私達を包み込んだ。
●○●○●○
『〝超越兵装〟〈第六の罪銃〉の起動を確認…兵装行使の為、〝警句〟を』
構えた銃が僕へそう告げる…その言葉に僕は〝誓いの言葉〟を口にする。
「――〝我等は智慧の求道者〟――〝しかして人の道踏み外す事なかれ〟」
それは、僕達が〝僕達〟へ課した戒めの言葉…決して破らない、破ってはならないと決めた、〝縛り〟…。
『――〝本機能〟解放――術式指定を』
「――〝我が求むるは狂える獣を穿つ処刑の弾丸〟――〝遍く獲物の臓腑を穿つ致死の魔弾である〟」
『〝術式確定〟――〝追尾の魔弾〟――〝対象を選択〟』
僕の言葉に、銃に魔術式が刻まれ…魔力が吸い上げられて無数の魔術陣を形成する。
「――〝穿つは心臓、253の生命〟」
『〝ターゲット捕捉完了〟―――〝贖罪と共に引き金を〟』
煌々と輝き重なり連ねた魔術陣が美しく瞳を照らす…ソレを目に…僕は引き金を引き、小さく告げる。
「――〝罪なき獣に安息を〟」
そして…その弾丸は…〝放たれた〟…。
いや…コレを戦闘描写と言っていいのか…?




