従者と助手の害虫駆除①
本日の投稿です。
――ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…――
「――此処が〝豊穣の森林〟…何と言うか…普通の森ですね」
ロザリアの外壁からそう遠くない森を見渡しながら、私はそう言う。
青々と茂る草、湿気と腐敗から香る芳醇な土の匂い…森の内を巡る魔力の流れ…其れ等は凡そ、その他の土地にも存在する同じ様な森林とそう違いは無いように見受けられた。
「――その通り、此処は〝豊穣の森林〟ではありませんので」
「へ?」
「此処は〝精霊達とマスター達〟…そして学園長様が結託して作り出した〝偽装の土地〟です…〝精霊〟は高度な魔力生命体…彼等の力を求める悍ましい簒奪者達から、彼等を守る為に彼等はこの大森林を作り上げました」
そんな森に対して私がそう感想を零すと、アリエルさんがそう言い私にこの森が出来た経緯を説明してくれる。
「えっと…それじゃあ〝豊穣の森林〟は、何処に?」
「――〝この先〟です」
そして、アリエルさんは私の手に触れながら…森の中を迷いなく進んで行くと…不意に森の中が暗くなり、アリエルさんの手首と、声が暗い森の中に広がっていく。
「此処は精霊達が作り出した〝豊穣の森林〟へと通じるただ一つの〝道〟です…今の貴女ではまだ一人ではこの道には入れませんので、手は離さないよう」
その言葉に、私は返答代わりにアリエルさんの手を強く握る…それから、一分ほど先も見えない暗闇の森を歩いていた時…不意に現れた光に、私は終着を見…光の中へ吸い込まれていく…すると。
――パァッ――
其処には…〝楽園〟が有った。
「此処が〝豊穣の森林〟…或いは〝精霊郷〟と呼ばれる〝精霊の住まう異世界〟です」
そう言ったアリエルさんの先には、まるで絵物語の世界から飛び出てきたような白く、綺麗な花の大地に…何十、いや何百、いや何千と数えるのも難しい精霊達の自由気ままな営みが繰り広げられていた…その光景は、楽園と言うに相応しく…。
「……綺麗」
そうポツリと、無意識に言葉が漏れ出てしまう程…見惚れてしまうような美しさがあった。
『――そう言って頂けると、我々も嬉しいですわ、〝賢者の使者〟よ』
私が思わずそう言葉を発すると…不意に私の脳に直接響く様な綺麗な声が響き…風に舞って花弁が渦を巻き…其処から美しい緑髪の少女が私達の前に姿を現す。
「エル…フ?」
その姿は、エルフによく似ているけれど…その佇まいと仄かに輝く身体から発せられるオーラの様な者が、その確証を阻む。
「彼女は、此処が〝精霊郷〟と呼ばれるより遥か以前からこの地に根付いていた〝上位精霊〟で名を〝シャルリーリャ〟と言います…シャル様、此方の女性は新たにロザリアへ入学する事となったマナリア・ノーホープ…我が主、レイン・マナルガの助手です」
そんな彼女の正体を私へ教え、私の事をシャルリーリャ様へ伝えるアリエルに対し、紹介に預かった彼女はアリエルに抱き着きながら彼女に言う。
「――もう、アリエルったら、〝シャル〟だけで良いと言っているでしょう?」
「なりません、我々はあくまでも〝協力者〟…一定の敬意を払うべきです」
「むぅ…相変わらず固いわね……いつかシャルと呼ばせてみせるわッ――それはそうと、そう…あの御仁が新たな助手を雇ったとは…奇特な事もあるのですね」
そして、その視線を私へ向けると…彼女は私の手を握りながらニコリと微笑み、私へ語り掛ける。
「うん…流石、あの〝賢者の方々〟がお連れした御方ですね…とても良い魂をしています…何処か懐かしい様な、心が温かくなる魂です…コレからはお友達として、宜しくお願いしますねマナリア♪」
「ッ!――は、はい!…よろしくお願いします、シャルリーリャ様!」
「フフフッ、〝シャル〟と呼んで頂戴な♪」
「ッ…で、ではシャルさんで」
「ん〜……まぁ良いでしょう♪」
そんな彼女の眩しい穏やかさに私も緊張が解れていくと…アリエルさんがシャルさんに問い掛ける。
「――それで、シャル様…〝御依頼〟と言うのは〝何時もの仕事〟でしょうか?」
すると、シャルさんがアリエルさんを見て頷き、言葉を続ける。
「えぇ…頼めるかしらアリエル?」
「お任せを…それでは、〝畑〟に入らせて頂きますね…マナリア女史、此方へ」
その言葉を聞くとアリエルさんが私を連れて花園の奥へと進んで行く。
「さて、では仕事前に軽く説明を…この〝精霊郷〟を構築するに辺り、〝精霊〟、〝我々〟、〝学園長〟は〝取引〟が成されました…精霊には〝人間に脅かされない住処〟を、学園長には定期的な〝精霊魔石〟の供給…」
そして、花園を進めば…その少し奥に、この神秘的な空間には少し異質な、〝茶色の大地〟が現れる…その見慣れた光景と、其処に茂る〝無数の草花〟に私は此処が何なのかを理解する。
「そして…我々には、〝精霊郷の一部に薬草の栽培地〟を設ける事です……さて、マナリア女史、コレを」
――カチャンッ――
それは見紛う事なき〝畑〟だった…その畑の土を踏んで…アリエルさんはメイド服から〝武器〟を取り出し…私へ投げ渡す。
「うわっと!…コレは?」
投げ渡されたのは、如何にもな紋様が刻み込まれた〝短剣〟であり…私はソレを片手に持つと、隣に立つアリエルさんに問う。
「〝試作魔導武装〟〝仕事〟の一つです…主様が作り出した〝試作魔道具〟…その試験運用をお願い致します…もう一つの仕事は、ソレを用いての〝害虫駆除〟です」
そんな私へアリエルさんはそう簡素に答えると…畑の最奥にある〝ソレ〟を見据える。
「〝悪性魔蟲〟…精霊郷に生じた微弱な〝穢れ〟が溜まり、周期的に〝こうした害虫〟を排出するのです…コレを駆除し、最奥の〝瘴気溜まり〟を処分すれば此処の仕事は終わりです」
「了解ッ――要は〝冒険者ギルドの仕事と変わらない〟って訳ですね!」
「理解が早くて助かります」
その言葉に私は短剣を構え…〝自己強化〟の魔術を掛ける。
「――〝身体強化〟」
「(カチッ)――〝試作魔導武装〟―〝執行者〟運用実験を開始します…それでは〝害虫駆除〟を始めます」
ソレを合図にアリエルさんは懐から球場の何かをその場に放り投げ…両手に二振りのサーベルを握り…駆け出した。
●○●○●○
「――だから、あの子を〝教師補佐〟に?」
僕の言葉に思考を巡らせていた学園長が、不意にそう問い掛ける…その問いに僕は首を横に振る。
「まさか…僕は結局の所〝魔術師〟だ…自身の利益にならない、ただの慈善事業で人助け何かしないよ…君にも〝試験の監視データ〟を送っていた筈だが…まさか目を通していなかったのか?」
そして、彼女へ視線をやると…彼女はどう言う事かと頭を働かせるように視線を彷徨わせ…そして遂に、僕の言葉の意味が分からないのか、小さく僕へ返す。
「…どう言う事?」
「――フッ♪」
その言葉に僕は言う…。
「彼女はね…〝特別〟なんだ♪……尤も、彼女自身、その性質を知らなかっただろうし、此処に来なければその力を使う機会も無かっただろうがね」
【試作武装:執行者シリーズ】
レイン・マナルガが独自開発した〝魔導武装シリーズ〟の一つ、柄と剣身、刃の三つの機構で構成されており、剣身には魔術式、柄には魔石の挿入口が付けられている。
〈情報未解放〉




