遠征道中④
――ガラガラガラッ――
丸一日の移動を経て、時に魔物を討ち…時に生徒等との訓練で暇を潰す旅路を終え、僕達の目の前には山の側面に露出した遺跡が聳え立つ。
「やーっと着いたー!」
「元気だねぇ、マナリア君」
続々と居りていく生徒達、それに習い僕達も馬車を降りて…改めて資料に有った遺跡を確認し、イヴァンズ准教授に問う。
「ふむ…想定される年代の遺跡にしては…随分と大規模ですね…」
「あぁ…この規模だからこそ、今回の遠征を企画したと言える」
「確かに、この規模なら100人規模の調査隊も問題無く入れそうですね…ん、〝内部魔力数値〟も〝Eランク帯〟…特別目立った反応は無い…実習にはうってつけだ」
生徒等が引率の教師等に連れられて、馬車から資材を運び出す…此方も〝調査拠点〟を組み立ててしまおう。
――スッ――
「おや?…そのキューブは見たことが無いな…新しく作ったのかい?」
「昔から使っていた物をアップデートしたんですよ…〝展開〟」
イヴァンズ准教授にそう言いながら、僕はアリエルの〝バッグ〟から取り出したキューブを地面に投げ置く…すると、キューブの魔力が地面に波及し…周囲の土や木を取り込んで簡単な〝テント〟を作り出す。
「ほぉ…即席で調査拠点が…」
「〝簡易工房キット〟…市販品を改良して調査用に仕上げたんですよ…もしよければ一つ譲りますが」
「本当か?…いやはや、昨今の魔道具は便利な物が増えたね…」
そんな雑談混じりに他の連中が調査拠点を作っているのを眺めていると…不意に、彼等の方角から数人の男女が此方へと足を運ぶのが見えた。
「――こんにちはMr.レイン…相変わらず〝面白い物〟を使っているわね♪」
「コレはコレは…セレス・バッドラム殿にアレックス・バンビーナ殿、相変わらずの気品ある佇まいで」
「……」
その中でも目を引くのは、白いドレスに緑の長髪をした、如何にも御令嬢らしい装いをした淑女…セレスと、重い黒の外套を身に着け…血色の悪い肌に目に隈を染み付かせ、沈黙と共に僕へ視線を送るアレックス・バンビーナ殿…二人共に〝教師〟の地位に就いており、形式上は僕の同僚と言える人物だ…最も、僕も彼等も、互いに互いを〝仲間〟とは露ほども思っちゃいないが。
「そちらの調査拠点はもう完成したので?」
「御心配なく…私達は魔道具に〝頼らず〟とも、簡易拠点を作るのは造作も無いので♪」
「……」
その〝挑発〟に、僕は内心で溜め息を吐く…コレだから面倒なのだ、〝カリスト派〟は。
リンドル派が〝魔術至高主義〟であるならば、カリスト派は言うなれば〝貴族主義〟だ…その性質はリンドル派以上に〝権威〟と〝序列〟を重視した派閥であり、こうした〝挑発〟も、彼等にとっては軽い挨拶の様な物なのだ。
「そうですか、では本格的に調査が始まる前に備える事をお勧めしますよ…特に調査は埃や汚れが付き物なので…〝お綺麗な御召し物〟が汚れるのは困るでしょうしね…宜しければ〝調査用の装い〟をお貸ししましょうか?」
「…いえ、御心配なく…必要な物資は全て用意しておりますので♪」
「ふむ…では、申し訳ないが此処でお引き取りを、我々も自分の準備に忙しいので」
こうした手合いは、マトモに取り合う必要は無い…適当に相手して切り上げると、彼女は目だけが笑っていない薄笑いを此方へ向けた後…踵を返して立ち去る。
「はぁ…いよいよ連中と本格的に関わらないとかぁ」
遠征道中はずっと指導をダシに避けていたが、遺跡内部に入ればそうもいかない…。
「脳のリソースを下らん権力闘争への対応に割かねばならないとは…極めて不愉快だ」
「――〝マスター〟」
そうこう言っていると、不意に僕の背後からアリエルの声が聞こえ…僕は振り向く。
「おや、お帰りアリエル……それで、どうだった?…周囲に何か異常は?」
そして、僕の最も信頼している部下にそう問うと、彼女は相変わらずの鉄面皮を保ったまま、報告を述べる。
「先ず、マスターの推察の通り〝コロニー〟を幾つか発見致しました…規模にして〝村落〟…形成した魔物はゴブリン、一般的なコロニーでした…道中度々現れたゴブリンの大群は、恐らく此処からの流出と思われます」
「ふむ…概ね予想通りか」
「しかし――」
その報告に、僕がそう言葉を零すと…アリエルは、僕へ〝奇妙な報告〟を寄越してくる…ソレは…。
「どうやら、コロニーは壊滅しており…何者かの襲撃が有った様なのですが…〝襲撃〟と断定出来る証拠は、何一つ残っていませんでした…物的、魔術的痕跡が一切検出されなかったのです…ゴブリン達の〝魔力の残滓〟…その一つもです」
「……何だって?」
成る程、確かに段階を踏んで僕へ告げるべき〝異常〟だった。
〜〜〜〜〜〜〜
「いやぁ…フッフッフッ…いよいよ〝本番〟だな…漸く俺も〝オーディエンス〟から鞍替え出来そうだ♪」
ニヤニヤと口端を歪めながら道化は宣う…その視線は、黒髪黒目と金目の青年等へ向けられ…男の体は徐々に崩れ始めていた。
「それじゃあシャーリー…〝手はず通り〟宜しく♪…俺は最下層で待ってるよ」
「あぁ、任せておけ……それはそうと、【混沌】よ」
「?…何だ相棒」
そんな男を尻目に、老齢の魔術師フロイドは道化へそう問い掛け、見下ろす様に告げる。
「貴様の〝戯れ〟…ちゃんと後始末をしたんだろうな?」
その、何処か威圧感のある言葉に道化はクスクスと笑いながら肩をすくませてフロイドを見る。
「おいおい、耄碌したかシャーリー?……〝俺との契約〟を忘れた訳ではあるまいに…〝証拠は残さない〟…お前が俺へ仕事を頼む時は何時だって〝そうだった〟ろう?…今回だって契約は履行している…罷り間違っても契約を違えてはいないさ♪」
その嘲笑混じりの弁明に、フロイドは一瞬訝しむ…しかし、その言葉に偽りがないと悟ると…男への興味を失った様に視線をイヴァンズ等へ向ける。
「ならば良い……次の役を熟すまで、下で待っていろ」
「言われずともそうするさ…ソレじゃ〝計画の成功〟を祈っておくよ〝フロイド・シャーデンス〟」
そんな彼へ、道化はそう言うと…その身体から伸びた真っ黒な影の腕で、首に掛けていた赤い宝石の黒い首飾りを取り出すと…ソレと共に〝暗闇の中〟へ飲み込まれていった。
「……」
ソレをフロイドは視界の端に捉えると…深く一息を吐いた後。準備を終えた他の馬車の人員と同じ頃合いに馬車から出て、イヴァンズが統括する〝調査隊〟に合流するのだった。




