遠征道中③
本日の投稿。
――パチパチバチッ――
「〝師事して欲しい〟…ですと?」
「「「はい!」」」
日暮れの宵口…枯れ木の爆ぜ音が耳に心地良い我々の野営地にて…マナリア君含む数名の学徒等が、先刻の戦闘にて武勲を上げたイヴァンズ殿へ、溢れんばかりの憧憬を胸に押し掛けていた。
「遠征中だけでも良いんです!」
「准教授の戦い方を見学させて下さい!」
「「「「お願いします!」」」」
「おぉぉ…ちょっと、圧が凄い…」
そんな熱心な学徒の気迫へ嬉しさ余って動揺百倍と言わんばかりに冷や汗を流すイヴァンズ殿の様相を、僕とアリエルは夕食を片手に見物する。
「全くモテモテだねイヴァンズ殿は…まぁ、彼ほど人当たり良く、分け隔てない教育者は、この学園都市に片手程も居ないだろうから、当然の帰結ではあるか」
「イヴァンズ・ウーゴール准教授からアイコンタクト、〝救援要請〟と判断しました、危険性は皆無です、無視しましょう」
「容赦ないねアリエル」
まぁ、ワタワタと学徒等へ応対する彼の姿は、何処となく愉快ではあるが…流石に食事を満足に摂れないのは憐れだ…此処は一つ助け舟を出してやろう。
「――諸君、今は食事中だ…人に師事を頼むならば時と場を弁える事だよ」
「うぐっ…それは…」
「イヴァンズ准教授は君達の要望を突っぱねるほど狭量な器では無い、焦らずとも君達へ知識を授けてくれるだろうさ」
僕がそう彼等を説き伏せ退散させると、イヴァンズ准教授がペコリと頭を下げ礼を言う。
「有難うレイン君…いや、まさか一度の実践を見せただけで此処まで効果が有るとは思わなかったよ」
「それだけ貴方の動きに学べる所が多いと感じていたのでしょう…良い事だと思いますよ」
そして、漸く静けさを取り戻した夕餉を囲いながら…僕と准教授は言葉を交わす。
「僕も、貴方の動きや術式の使い方には良く学ばせて貰っています、僕の魔力量では平常の魔術師の様には動けないので」
「そうだね…しかし、儂は君を並み居る魔術師以上の〝逸材〟だと確信しておるよ…君が今日に至るまで〝その地位〟を維持している事が、何よりもその証明でもある」
「えぇまぁ…僕自身、並の魔術師には負けない自負は有りますが…やはり人間、自身に足りない物を羨んでしまう物で」
「だから、〝彼女〟を?」
「えぇ…〝魔力の供給源〟として、彼女を雇いました」
僕達の視線が、夕餉を食べ終え、うつらうつらとし始めたマナリア君へ向く。
「…そう言えば、儂はずっと君に聞きたいと思っていたんだよ……君は、この学園きっての〝天才〟だ…いや、恐らくこの世界に存在する〝魔術師〟の中で見ても…君はあまりにも〝異才〟であり、その多くが〝謎〟に包まれている…それは、君の〝研究〟にも言えることだ…〝基礎魔術〟、〝属性魔術〟、〝失伝魔術〟、〝魔術工学〟から〝魔術薬学〟…汎ゆる魔術分野に手を伸ばし…そのどれもに、君は一定の功績を持つ……君は、〝魔術師〟として…〝何を求めている〟んだ?」
その言葉に、僕はイヴァンズ准教授を見て、マナリア君、アリエルへ視線を移し…籠もる息を吐く…僕の目的か。
「――其処まで不思議な話でも有りませんよ、僕の目的…〝願い〟は…きっとこの世界の魔術師の多くが持つ〝単純な願い〟ですよ…」
その問に答える様に、僕はイヴァンズ准教授へ再び視線戻し…彼へ告げる。
「〝魔術の最奥〟…〝全ての始まり〟…〝源流〟……所謂〝真理〟…僕は〝真理に逢う〟為に、魔術を研鑽しているのです」
「……」
その言葉に、イヴァンズ准教授は僕と視線を合わせ…ジッと僕の本心を探る様に眼力強く見詰める…そして、その言葉が僕の〝本心〟だと悟ると…そうか、と一言呟き…僕へ言う。
「……〝真理への到達〟…か……その〝理論〟は完成すと思うかね?」
「えぇ…勿論、その為に〝僕〟は居るのですから」
その言葉を最後に、僕達はその話を切り上げ…話題を変えて熱心な生徒達についてと言う雑談に興じるのだった。
そして……。
〜〜〜〜〜〜
「――〝火炎弾〟!」
――ビュンッ!――
「良い魔術だミファエル君…しかし、内在した魔力に対して距離が遠過ぎる…コレでは有効なダメージを与える前に出力が落ちるぞ?――それを踏まえて、その問題を解決する解法は?」
「ッ!――はい、〝術式に供給する魔力を増やす〟か、〝出力を維持できる範囲〟…〝射程〟を把握する事です」
「合格だ…次はソレを意識して動くと良い」
日は昇り、朝方…馬車群小さな森に差し掛かり…その音を聞き付けて集ってきたゴブリン達を練習台に、今度は〝生徒達〟を主軸に戦闘が始まる…イヴァンズ准教授を含めた引率等は、皆其々に牽引する生徒等の動きに適宜指導し、彼等の実践での戦い方をレクチャー、或いは矯正する…そしてソレは僕も同じく――。
「マナリア君、今の魔弾は〝過剰〟だ…今より70%魔力供給を絞り給え」
「ッ…はい!」
「マナリア女史、そちらに3匹程誘導します…その出力を維持し、指定する部位に魔弾を直撃させて下さい」
僕は、助手のマナリア君含めた数人の生徒等をイヴァンズ准教授と共に指導に当たり…周囲の異変を探る…。
(ヤケにゴブリン達が多い…この森にコロニーが出来ているのかな?)
「休憩に入れば、少し探っておこう」
「右から…〝頭〟、〝胴〟、〝左腕〟」
「ハァッ――クッ…二発外したッ」
「減点です、あと8回失敗すれば罰として〝魔力制御訓練〟を受けてもらいます…先んじて申し上げますが、この訓練の内容は〝3年生基準〟ですので、今のマナリア女史にはかなりハードな内容となっています…御注意下さい」
「スパルタッ!?――さらっとえげつない事言いましたねアリエルさん!?」
「〝魔力出力不足〟――あと7回です」
「ひえぇぇ…!?!?」
方々から時折派手な爆発音や諍いが起きはするものの…遠征は至って順調に進んでいた…。
――ゴポッ、グチャ、グチャッ――
「よしよし…コレで〝コロニー〟のゴブリン共は向こうに行ったかな?…いやはや、〝教育〟に熱心な彼等を手伝うとは、流石俺ちゃん気遣いの達人♪」
その影で…不穏な影が、ジッと己等を見つめている事を知る事も無く。




