遠征道中②
本日の投稿
――カカカッ!――
「――〝魔弾〟」
始まりは、〝イヴァンズ・ウーゴール〟が放った〝魔弾〟からだった。
――シュンッ!――
ピンボール程の小ささで形成された魔弾は、眼前の魔物の額を直撃し…その分厚く硬い頭骨を容易く貫通する。
「ブモォッ!?!?」
悲鳴を上げて倒れる〝草原野牛〟、その亡骸を踏みつけて突進する後続が、イヴァンズ准教授へ迫る…しかし。
「〝防郭〟」
――ギィィンッ!――
その雄々しい牛角は、イヴァンズ准教授の足元から形成された半透明の魔力の障壁に防がれ、野牛達は固まる。
「ブモッ!?」
「〝魔力剣〟」
衝突に脳を揺らし、野牛の動きが鈍る…その一瞬にイヴァンズ准教授は野牛の側面に移動し…その素っ首に一太刀振り抜く。
「ブォッ…!」
その一撃に野牛は口内に残った微かな吐息を漏らし、野牛は沈黙する。
僅か一分で繰り広げられた〝熟練の早業〟…ソレは、後続から放たれた多種多様な魔術の影に覆い隠されてしまうが…しかし。
「……凄い」
生徒達の中の一握り、或いは〝彼の技量〟を知る者達からしてみれば…そんな魔術は、ただの虚飾が如き〝過剰な殺意〟でしか無かった。
「〝長年の経験〟から来る淀みのない動き、基礎魔術の持つ誰にでも行使できて、かつ展開性、魔力効率に優れると言う利点を活用した、継戦能力、ほんの少し見ただけで〝イヴァンズ准教授〟がどれ程の傑物か分かるだろう?」
そんな彼等の内の一人…レイン・マナルガは同伴する助手にそう言い、だがと、言葉を付け加え戦地の〝彼〟へ視線を向けたまま告げる。
「だが、彼が真の意味で〝強い〟のは…〝限られた手札〟で、最大限のパフォーマンスを発揮する〝柔軟性〟にある」
その言葉にマナリアがイヴァンズ准教授へ視線を向けると…程なくして彼の体から魔力の脈動が発生し…マナリアは彼の行使した〝魔術〟…その名を紡ぐ。
「〝防郭〟…でも…何であんなに小さく?」
「〝展開範囲を絞る事で魔力消費〟を抑えているのさ…加えて、基礎魔術は簡易性と展開性に優れている…他の属性魔術の様な高度な魔術基盤を必要としない分…〝複数の魔術行使〟は容易だ」
レインの言葉を裏付ける様に、イヴァンズ准教授は自身の周囲に極小さな魔力の盾を展開し、その手に〝魔弾〟を生み出す。
「――フンッ!」
放たれた魔弾が、野牛の頭蓋を撃ち抜く…単純な魔弾ならば、それで終わるだけの〝一撃〟だが…どう言う訳か野牛を穿った魔弾はその肉を貫き抜け空を駆ける。
「〝貫通〟の〝術式付与〟だ…魔術開発の基本だ…〝無属性〟は特にこう言った拡張性に優れているんだよ…そして――」
空を突き進む魔弾は、地平を突き進み獲物の見えない虚空を征く…かに思われた、しかし次の瞬間。
――ビュンッ!――
「ッ――〝行け〟」
「――此処で〝展開した防郭魔術〟が活きてくる」
「ッ――まさか」
イヴァンズ准教授の言霊を切っ掛けに小さな魔力の障壁が弾丸の目の前に現れる…虚空を突き進む弾丸に、立ちはだかる〝障壁〟…互いに退かず退けず、己の役割を全うする二つの距離は縮まり、遂に〝衝突〟する…すると。
――ジュィンッ!――
〝魔弾〟は障壁から跳ね返ったエネルギーに撃ち負け、高速で己が来た道を逸れて跳ね返り…背を向けた野牛の頭を撃ち抜く。
「…魔弾を…〝跳弾〟させた…」
「うん…防郭に軽い〝反発〟の術式を付与している…流石だ」
撃ち抜かれた弾丸は、またも虚空をゆき…その度に障壁が差し込まれ、また跳弾する。
野牛は倒れ、跳ね返り、倒れ、跳ね返り…ソレは絶え間なく、魔弾に内蔵された魔力が尽きるまで繰り返され…魔弾が尽きればまた、新たな魔弾が生成されてゆく。
一つが二つに、二つが三つに…野牛の脳髄を貫く凶弾は数を増し…遂に五つとなったその時――。
――グモォォォッ!?!?!?――
〝最後の一匹〟が…絶命の報せを天へ響かせた…。
――パキッ!――
「――フゥッ…まぁ、ざっとこんなもんですな」
静まり返った戦場に、老兵の一息が響く…振り返ればイヴァンズの背後には、己の事を呆然と見詰める教師等と、感嘆に押し黙る生徒達の姿がある……その奇妙な〝沈黙〟を打ち破ったのは…。
――パチッ…パチッ…パチッ…――
沈黙の中にあっては良く響く、〝観客〟からの拍手…その拍手を皮切りに他の教師等、生徒等もイヴァンズ准教授へ賞賛を送り…その賞賛にイヴァンズ殿は恥ずかしそうに目を細めて苦笑いを浮かべていた。
○●○●○●
――ゴポッゴポゴポゴポッ!!!――
「「「ケッヒャッヒャッヒヤッ!!!、いやぁ見事見事!」―まさか〝序章も序章〟にこうも愉快な〝見世物〟を披露されるとはッ」―良い意味で予想外だった!」
馬車の暗がりから紫の瞳を歪ませて、イヴァンズを見る〝ソレ〟が…その〝悍ましい姿〟を半ば表出させて、悦に揺れる。
「ッおい…抑えろ【混沌】…〝奴〟にバレたらどうする」
そんな【混沌の道化】に、フロイドがそう嗜めると、そんな言葉などどうでも良いと言う様に道化師は白いスーツから〝黒い影の泥〟を漏らし…蠢く〝醜悪な屍肉の塊〟を体内に押し戻す。
「ケヒッヒヒヒッ――そうピーチクパーチクと喚くなフロイド、言われずとも〝認識〟は弄ってる…奴さん等にゃ、俺の〝姿〟は映っちゃいねぇよ…ほんの少し〝違和感〟は働くだろうがな…♪」
そして、元の〝ピエロの仮面を身に着けた姿〟に戻ると…それでも歪な口端を耳元まで引き裂いて…〝イヴァンズ〟とその〝同伴者等〟に熱い視線を送る。
「しっかし〝良い〟…良い〝研鑽の味〟だ…生まれ、育ち、学び、老いて尚輝く〝赤輝星〟…〝絶えず変化する人の輝き〟、その〝形の一つ〟…〝知性の積み重ね〟だ、眩しい…眩しくて目が焼け消えそうだ♪」
羨むように、讃える様に、愛する様に、妬む様に…その視線に宿る熱を明るく、昏く燃やし…静止した
様に止まる。
「?……おい?」
その姿に、フロイドがそう問い掛け…その声に反応して道化がチラリとフロイドを見る…。
――ゾッ――
「ッ…!?」
その瞬間…フロイドの身体が凍り付く…いや、凍り付いた様に動かなくなる。
「……?――どうしたんだシャーリー?」
ほんの一瞬…ほんの一瞬の間だけ〝己を見た〟…いや、〝己が見てしまった〟…〝道化の深淵〟…その乾き血の抜けた皮の奥、腐り蠢く屍肉と、白々しく人の方を象る乳白の骨の掻き分けた先、人を象る臓腑…その更に先にある〝見えない臓腑〟のその中…。
〝何もない空洞の瞳〟の…冷たい〝悪意〟を…フロイドの肉体は知覚した。
「ッ…いや……何もない」
「……そうか?―なら良いが…しかし――」
その一瞬の後、フロイドの身体から〝恐怖〟が抜け落ちる…まるで〝何事もなかった〟かの様に…フロイド自身、その恐怖の正体が既に消えつつある中で…道化は何事も無いかの様におちゃらけた雰囲気でフロイドへ言う。
「〝今回の演目〟は…それはもう見応えがありそうで〝楽しみ〟だなぁ、シャーリー?」
「…あぁ………そうだな」
その言葉にフロイドは、ただ生返事を返す以外に選択肢は無かった。




