遠征道中①
本日の投稿、出来れば2本目も投稿したい所。
――ゴーンッ…ゴーンッ…ゴーンッ…――
「――こんにちはイヴァンズ准教授、僕が一番最後ですか?」
大時計の音が頭に重く伸し掛かる…そんな中、僕は目の前に揃った〝馬車群〟と、ゾロゾロと其処に乗り込む学徒、教師等を見ながら僕の横に立つイヴァンズ准教授に話し掛ける。
「やぁおはようレイン君…皆同じ様なものだよ」
その言葉にイヴァンズ准教授はそう返しながら続々準備を終える馬車群を一瞥し言葉を続ける。
「事前に予定を共有しているが…」
「――えぇ勿論拝見していますよ…目的地は南東を少し進んだ先にある中規模の遺跡です…と言っても100年、200年程前の遺跡なので、大したものは無いでしょうが…」
「我々の目的は〝発掘調査〟では無く〝体験学習〟なので、其処まで大した成果は必要無いでしょう」
そして、少しの談笑を挟んでいると…イヴァンズ准教授が僕とアリエルの間に居る彼女に気付き、僕へ言う。
「おや?…レイン殿、この子は確か〝一年〟の…」
「あぁ、彼女も僕に同行させようかと思いまして」
その言葉に僕が軽く返し、マナリア君へ目配せすると…彼女は少しの緊張を顔に貼り付け、イヴァンズ准教授の前に出る。
「れ、レインさんの助手をしています、マナリア・ノーホープと言いますッ、宜しくお願い致しますイヴァンズ准教授!」
そして、緊張状態から繰り出される硬い自己紹介にイヴァンズ准教授は穏やかに笑いながらマナリア君へ言う。
「ハッハッハッ、宜しくマナリアさん…元気な子だね」
「えぇ、お陰で僕の仕事も手早く終わらせられるので良い助手ですよ」
「恥ずかしいですね…」
その言葉にマナリア君が照れたように頬を搔き、そう呟く…そうこうとしている内に、ほぼ全ての馬車が準備を終え、イヴァンズ准教授へ合図する。
「ッ…どうやら皆の準備は終わったらしい…我々も馬車に乗ろう…道中の魔物退治は…」
「G〜Fランク辺りの魔物なら、生徒達に任せても良いでしょう、それ以上は僕達の仕事と言う事で」
「そうしようか」
ソレを受けて僕たちも馬車に乗り…無数の視線に軽く牽制して、〝遠征〟の開始を宣言した。
○●○●○●
「……」
先頭を行く馬車…その中で寛ぐ黒髪の青年を、フロイドの視線が貫く。
――……――
異様な程静かな馬車の中には、幾人もの生徒達が学園支給のローブを身に着け、ただ沈黙を享受する…その様は、良く整列した人形の様であり気味が悪かった。
――ゾッゾッゾッゾッ――
そんな時…不意に生徒の一人の足元から黒い〝影〟が伸び…それは生徒の身体を這い上がり…彼、ないし彼女を覆う…。
「――ん〜♪…あーあーあああー…良し、良い感じ♪」
そして、その生徒の首に赤黒く輝く宝石の付いた首飾りを掛けると…その生徒の口から微かな愉悦を帯びた中性的な声が響き…フロイドの肩に手を置き…視線の先を見据える。
「……〝仕込み〟は済ませたのか…【混沌】」
「いやぁもう〝バッチリ〟…プロローグからエンディングまで中身たっぷりに仕上げたさ♪…〝演出〟は俺の十八番だからな♪」
フロイドの問いにソレはおちゃらけた様に答えると…その紫の瞳を歪ませて〝ソレ〟を視る。
「しっかし…フフフッ、急に仕事を依頼されたもんで、行き付けの食事処から泣く泣く退散したが…〝役者〟に都合が良い〝人間〟がひーふーみー…フフハッ、中々面白い〝物語〟に成りそうだ♪」
「…〝物語〟か……下らんな」
「ハッハッ、〝悲劇愛好家〟にゃ、夢と希望に満ちた物語は下らんだろうよ」
「……」
そして、フロイドへそう皮肉交じりに言葉を吐くと…ソレは影から趣向品を取り出して…ソレに口を付ける。
「…まぁ、お前の〝要望通り〟には仕上げたさ――〝一切の希望無く〟、〝尽くの救済を踏み躙り〟、〝奇跡を握り潰す様な〟…そんな〝素敵な地獄〟に仕立てておいた……〝何事も無ければ〟…〝彼等〟の全滅は間違い無い」
「……〝何事も無ければ〟…だと?」
そして、白々しく紅茶を嗜むソレにフロイドがジッと濁った視線を向けると…ソレは戯けたような顔をフロイドへ向け、言う。
「そう〝何事も無ければ〟な♪…〝要望〟は叶えた、お前と言う〝主役〟が求める舞台は用意したんだ…ならば〝この場〟に於いてはお前も〝役者〟だ…精々〝俺〟が肩入れしたくなる様な、劇的で鮮烈で、眩く目を焼く様な〝演劇〟を魅せてくれよ?」
その言葉にフロイドは顔を顰め…しかし、それ以上ソレに何を言うこともなく…ただ、先の馬車に居る〝少年〟と…彼と楽しげに言葉を交わす〝親友〟を静観し続けていた。
●○●○●○
――ガラガラガラッ――
「ほう…!……コレが君の言っていた〝試作魔導兵装〟の完成形か…凄いなコレは!」
「そうでしょうそうでしょう!…〝魔力適正〟に依らない〝汎用性〟、魔石を挿入するだけで〝肉体強化〟を展開し、意識伝達による展開の遅延を限りなく排した〝高展開性〟…魔術式も量産性の為にシンプルな〝単節接続式〟で組み上げ、魔力無しでも扱える様に知り合いの鍛冶師に単純な武装としても調整してもらいました!」
「ほほう…コレさえ有れば、力を持たない一般市民も戦えるのか…しかし、軍事転用や悪人に渡る可能性はどうするんだね?」
「勿論そこも織り込み済みです、この装備を作る過程で魔術式を刻む際、メイン機能と同時に〝簡易識別術式〟が刻まれる様に調整してます…魔力を流し込むと簡易識別が起動し、識別術式が〝管理機器〟と接続されます…管理機器には、その土地毎に定められている〝法律〟に則って兵装の制限や解放を行うようプログラムしているので…万が一にも悪用される事は有りません」
一人の老人と、一人の青年…あまりに年の離れた二人が、一つの魔道具を手に取り合い、目を輝かせて話し合う…その様子にマナリア・ノーホープが隣に座るアリエルへ向けて言う。
「何か無茶苦茶盛り上がってる…」
「(ジジーピッ)……イヴァンズ准教授とマスターは時折こうした研究発表会を開いています…そして、殆ど例外無くこの様に熱心な研究をしていますよ」
「そうなんですかアリエルさん――って目怖ッ!?」
そんな二人の姦しい歓談も他所に、男共二人は己等の手元に駆動する〝キューブ〟を弄りながら外の気配に言葉を交わす。
「――御者君、後続に停止指示を」
「は、はい!」
「おっと、〝魔物の群れ〟か…数は〝20匹〟余り…種族は〝草原野牛〟…Dランク相当の魔物だ」
「む、いきなりそれなりのが出たね…レイン君、君はどうする?」
「ん〜…僕が出張る必要は無いでしょう…向こうの引率に任せましょう」
「そうか、なら儂は生徒達の〝実践指導〟も兼ねて参加しようかの」
程なくして、馬車が止まり…イヴァンズ准教授と共にレイン達は馬車を出る。
――ゾロゾロゾロゾロ…!――
それと同じく馬車からは数人の教師、引率等が現れ…皆其々に得物、触媒を構え…イヴァンズ准教授の背後から地平線の先を見る。
「イヴァンズさんって強いんですか?」
そんな彼の佇まいにマナリアがレインへそう問い掛け…その問いにレインは答える。
「〝単純な火力〟として考えれば君やアリエルよりは多少劣るかな」
「え?そうなんですか?」
「うん…でも〝今の君達〟と〝彼〟の総合力で評価したなら…恐らく君達と彼では相手にならないだろうね」
「???」
「まぁ、見れば分かるよ」
そう言い、レインの視線がイヴァンズ准教授へ向いたその時…地平線からやって来る〝野牛達〟の敵意を孕んだ地響きが、イヴァンズ准教授等の目前へと迫り…生存競争の戦端は開かれた。




