友と語らい日は過ぎて
少々短いながら、投稿です。
――カチャンッ――
「――と、言うのが貴方を此処に呼んだ理由です、〝知恵の賢者レイン・マナルガ〟」
「ふぅん…〝高度な知性を有する未確認の死霊〟に…〝死霊と手を組んだ何者か〟…〝世界の終わり〟と言う発言…愉快なほど〝謎に満ちた邂逅〟だねぇ…」
僕は、目の前の彼女…精霊女王シャルリーリャの言葉を聞きながら、周囲の地質を探り回る。
「ふむ…面白いな…まるで〝魔力の名残〟が感じられない…シャル、確かに此処に〝件の死霊〟は居たんだよね?」
「はい、此処で〝拘束〟していました」
シャルの言葉に、僕は調査を中止して彼女のテーブルに着く。
「〝完璧な隠滅〟だ、〝一流〟の魔術師でも魔術の完全な隠匿は難しい…精々判別も、行方も分からない程度に〝薄める〟事は出来るけど…しかし、彼処には〝始めから誰も居なかった〟…そうとしか思えない程に〝何事も無い〟…その結果しか出てこなかった」
――コポコポコポッ――
そして、アリエルの紅茶を一杯飲み…喉を潤すと、僕はシャルに言う。
「〝未知の技術〟だ…或いは何らかの〝性質〟か?…しかし、しかしだ…此処最近は特に〝死霊〟がトラブルに関わってくる」
「…〝死霊〟…件の人間が身に着けていたと言う…〝呪詛の指輪〟の事ですか」
僕の言葉に、シャルは少し前に話した〝謎の指輪〟の話を上げる。
「うん――双方共に〝特異性〟を持ている…となれば〝その死霊〟を詳しく調べる必要が有りそうだ」
「……〝アレ〟は、暫くロザリアで過ごすと口にして居ました」
「〝大きな情報〟だね…事実か偽りかは兎も角〝出発点〟にはなるだろう…此処からは〝僕の仕事〟だ」
僕はそう言い、シャルリーリャのペット…フワフワとした毛並みの猫霊を撫で…立ち上がると、シャルリーリャは口惜しげに僕へ言う。
「もう行かれるのですか?…折角来たのですから、もう少し寛いでも…」
「いや、そう言う訳には行かないさ…研究の続きと遠征の準備に講義に使う資料も纏めておきたい…此処で療養するのはまた今度だ」
「…む〜(プクーッ)」
「……そうむくれないでくれよシャル、また今度数日の空きを作る、それで埋め合わせをするから」
「……仕方有りませんね…今回だけ、許して上げます」
そして、シャルリーリャを宥めたあと…僕とアリエルは精霊郷から出て行った…。
●○●○●○
――カリカリカリッ――
夕暮れ…空が暗がりに沈み…街の活気が幾らか落ち着いて来た頃…未だ微かな喧騒が耳に心地良い、静かな研究室の中…無数の魔術書が開かれた部屋の中で…彼…イヴァンズ・ウーゴールはペンを奔らせていた。
「……ふぅ」
長時間の作業だったのだろう…彼はその書類に奔るペンを止めると、疲労を滲ませた溜め息を吐き…目を瞬かせる。
「やはり…老いると疲労に弱くなるな…」
そして、そう寄る年波に悪態を吐いていると…不意に、彼の研究室の扉にノックが響く。
――コンコンコンッ――
「ッ!――どうぞ」
その音に反応し、疲労を押し込んだイヴァンズがそう言うと、一呼吸置いて、扉は開き…その人物は姿を表す。
「あぁ…久しいな、イヴァンズ」
その人物の姿を見たイヴァンズは…目を見開き、微かに驚いた様な表情を男へ向けた後…明かりに照らされ現れた〝彼〟の名を紡ぐ。
「ッ――〝フロイド・シャーデンス〟殿…」
「ハッハッハッ…そう堅苦しい呼び名をするな…〝幼馴染〟であろう、我等は」
その言葉に彼は、枯れた声で笑い…その身に纏う、重厚なローブを脱ぎ、其処らに有る椅子に腰掛ける。
「――今、御茶を用意しましょう…しかし驚きましたな、〝賢者〟の教位を持ち、多くの魔術研究所を持つ貴方が、儂の様な一介の〝准教授〟に会いに来るとは…」
「何〝遺跡遠征〟の話も兼ねて、お前に会いに来ただけの事だ…まぁ、懐かしの幼馴染に会いに来たと言うのも理由の一つだがな」
フロイドの言葉に、イヴァンズが笑いながら棚に手を伸ばす…そんな彼をフロイドは一瞥し…周囲に散らばる〝魔術式〟を見てイヴァンズに告げる。
「しかしイヴ…やはり、君は〝この魔術式〟を研究しているのか?…〝継承の魔術式〟…ただ〝他者に魔力を譲渡するだけ〟の術式を?」
「えぇまぁ、理論自体は数年前から完成しています…後は調整し、より精度を高める段階ですな」
イヴァンズの言葉に、フロイドは何かを試案するように魔術式を確認し…それからイヴァンズを見て、紡ぐ。
「――こんな物に自身の人生を注ぐとはな…あの頃の君からは到底考え付かん変化だよ」
「お互いそうでしょうフロイド殿…私は自身の力に驕り、貴方は魔術の探求に心血を注いでいた…それが今や、まるで異なる道を進んでいるのは、数奇な運命ですな」
彼等は互いにそう言葉を交わし合いながら、友人との会話に耽り…茶を飲み交わす。
「――今からでも、私の研究所に来ないか…お前なら私の主要研究所を任せても不足はない…共に〝世界〟を手にしないか?」
そして、フロイドがそう言いイヴァンズを見詰める…その目は赤く真っ直ぐだが…その目にイヴァンズは静かに、微かに落胆を抱きながら…フロイドへ言う。
「〝フロイド卿〟…その話は断らせていただく……今の儂には〝この術式〟が有れば良いのです…〝次の代に託す力〟…ソレだけで」
「……そうか」
その言葉に、フロイドはそう沈黙し…二人の間に暫くの沈黙が流れる…。
「……では、せめて〝コレ〟を…お前に譲ろう」
その沈黙を最初に破ったのは…フロイドだった、彼は自身のバッグから、一つの結晶化した〝ソレ〟をイヴァンズの前に持って行く…ソレは、紫の宝石に黒い装飾の施された腕輪だった。
「…コレは?」
「私のツテで造った〝魔術触媒〟だ…並の魔道具以上の出力が出せる…何かの役に立つだろう…持っていてくれ」
その言葉に、イヴァンズはその結晶をジッと見詰め……フロイド言う。
「その様な触媒を私に譲っても良いのですか?」
「何を言う…〝君だからこそ譲るんだ〟…並み居る凡愚に渡した所で無意味だろう…君こそ、この触媒を持つに相応しい」
その視線にフロイドは一点の曇り無くそう返すと…フロイドはその結晶を解除し…腕輪を受け取る…。
「そういう事なら、有り難く使わせて頂きます」
「あぁ……さて、それじゃあそろそろ〝本題〟に入ろうか…遺跡遠征の件だが――」
そして、二人は雑談の後…本来の目的を済ませようと軽く言葉を交わし合う…その会話は夕暮れが冷たい夜の帳に覆われ、星の子等が漂い揺れる刻まで続き…二人は意義の有る問答に耽る…。
それから日は巡り………遂に〝遠征の刻〟は来た。




