表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

不吉な報せ

ほんほんほん、本日の投・稿。

――カッ…カッ…カッ…――


「はぁ…漸く解放された…!」

「所要時間3時間30分…一日のタイムスケジュールがかなり圧迫されてしまいましたね」

「全くだ…挙句〝面倒臭い仕事〟も押し付けられたッ!」


〝始末書〟と言う難敵を処理した僕とアリエルは、窓辺から差し込む陽日を横に受け、研究室に歩を進める。


「お陰で僕の研究に大幅なスケジュール調整が必要になった!…消耗品の発注も変えねばならない…アリエル、任せられるか?」

「お任せを…収集した情報を元に最優のスケジュールを作成致します」


その足取りはお世辞にも良いとは言えず、始末書は兎も角、去り際に学園長に押し付けられた〝追加の仕事〟に僕は不機嫌に顔を顰める…そうしていると。


「おや!――レイン殿ではありませんか」

「ッ…はぁ…噂をすれば影か」


僕は、対面から足取り確かに…僕を認識し話しかけて来た〝老人〟に溜め息を吐きながら、彼を見る。


「全く…面倒な仕事を頼んできましたね〝イヴァンズ准教授〟」


彼の名は〝イヴァンズ・ウーゴール〟…この魔術学園の〝准教授〟であり、〝2年生基礎魔術科担当〟の魔術師…そして、僕がこの学園の中で、2つの意味で〝関わりたくない人物〟だ。


「――いやしかし、先刻学園長から通達されましたが…貴殿が〝遺跡遠征〟の件を受けてくれたと!」

「渋々だがね…〝学生同伴〟でなければ僕も此処まで頑なに拒否はしなかったよ」


僕がそう言うと、彼はまるで気にした素振りも無く笑い飛ばし…緑の瞳を僕に向け、言う。


「ハッハッハッ、まぁそう言わずに…同じ〝教育者〟同士、〝生徒達の成長〟な尽力しましょうぞ!」

「…はぁ」


そう、コレが僕が彼へ持つ〝苦手意識〟の理由だ…イヴァンズ准教授…彼はこの学園で数少ない〝純粋な教育者〟だ…私利私欲に染まらないまま准教授の地位に漕ぎ着けた優秀で善良な〝魔術師〟だ…だが些か〝教育〟に傾倒しすぎている…だから同じく〝中立〟で…一応は〝教師〟として同じ教科を担当している僕に迫るのだ…下心がないのが余計に厄介だ。


「僕には耳が痛い言葉だよイヴァンズ准教授…僕は君程教育熱心では無くてね」

「御謙遜を仰るな、儂は知っておるのですぞ?…レイン殿が頻繁に〝試験場〟に顔を出し、鍛錬に励む生徒達に〝魔術の知恵〟を施しているのを」

「アレは…〝非効率な魔術式〟を調整してやっただけだよ…単なる趣味の範疇だ」

「〝他者へ知恵を分け与える〟…例えそれが自己満足だとしても、〝無償の教導〟を躊躇いなく施せる貴殿は紛れも無く儂の同士ですよ」

「…」


そう言い、ニヤリと笑う准教授に僕は沈黙する…この明るさには毎度毒気が抜かれ、反応に困る…性格的な意味合いとしても僕は彼が〝苦手〟だ。


「――それはそうと、今日此処で貴方を待ち伏せていたのは理由が有りまして」

「?…」


そんな彼は、不意に周囲に視線を彷徨わせたあとそう言うと、僕と自分を包むように遮音結界を展開して声を潜めて言う。


「――実は、この〝遺跡遠征〟…〝フロイド卿〟と〝アントリス卿〟が参画を申し出て居りまして…」

「ッ…〝リンドル派〟の幹部と〝カリスト派〟の幹部ですか」


その言葉に僕がそう言うと、イヴァンズ准教授はコクリと頷き眉を顰める。


「先刻、どう言う訳か、フロイド卿から〝遺跡遠征〟に参画の打診が有りまして…カリスト派はソレに付随する形で私に連絡を…」

「全くあの俗物共…遠征を〝派閥争い〟のタネにするつもりですか」

「えぇ、それも狙いでしょう」


イヴァンズ准教授の言葉に、僕の鼻腔に〝面倒事〟の立ち込め…苛立ち半分呆れ半分に思わずまた溜め息が喉奥に詰まる。


「イヴァンズ殿の事だ、どうせ参加を認めたんでしょう?」

「はい…真偽は兎も角、彼等の派閥にも学びを尊ぶ生徒達は居ますので…所属を理由に参加を否認する訳には行きません」

「ハァァッ…貴方のそういう所は好きですが…しかし、よりによってリンドル派か…少し前に彼処の刺客を処理したばかりですよ」

「――〝アルベルト・バルバイン〟の事ですね…えぇ、聞き及んでいますよ…ですので、御注意を…レイン殿が不覚を取ることは無いでしょうが…相手は〝フロイド卿〟とその関係者です…派閥争いに託つけてレイン殿にも危害を加えてくるやもしれません」

「あぁ、肝に銘じておきますよ」


そう言うと、イヴァンズじは遮音結界を解除し、僕へ一礼する。


「では、儂はこの位で…1週間後に、また会いましょうぞレイン殿」

「えぇ、僕も〝準備〟は万全にしておきます」


そして僕達は道を交差し…其々の研究室に帰って行く…。



――ガチャッ――


「ん?…アレは…」


帰路につき、自室の扉を開けば…僕は、この工房内に普段感じられない〝魔力の波長〟に視線を送る…其処には、淡く輝く〝光の塊達〟と…一丁の封筒がテーブルの上に置かれ…光の塊――〝下位精霊〟達は僕を認識すると僕とアリエルの周りをクルクルと遊び回る。


「――〝シャルからの手紙〟?…今週分の〝害虫駆除〟は終わったが…何かあったのか」


手紙に手を伸ばし、その中身を確認しようと目を細める…其処には、シャルの文字で短くこう書かれていた。


――――――

知恵の賢者へ。


明日〝精霊郷〟に来て下さい。

奇妙な死霊に出会しました。


シャルより。


――――――







○●○●○●


「――さて…それでは改めて…質問致しましょうか」


伝達の精霊達が精霊郷を出た事を確認し、私は今目の前に居る〝ソレ〟へそう告げる。


「貴方は…〝何者〟ですか?」


――ギチッ…ギチギチギチッ――


「いやぁ…確かに、勝手に君の領域に侵入したのは悪かった…謝意は有るし、君等に危害を加えるつもりは毛頭無いんだが…流石にこの扱いは酷くない?…並の屍人なら死んでたぞ?」


其処には…蔓の拘束で四肢を拘束され、樹霊の根で全身を串刺しにされ、頭部と心臓に穴を開けた〝黒い首飾りを身に着けた死体〟が…非難するように、楽しむ様にケラケラと笑い…言葉を返してきた。


――ゴリゴリッ――


「おぉい待て待て!――全く、幾ら屍人だからって躊躇いが無さすぎるだろ、嫌いじゃないッ――とは言え、ふむ…状況説明も兼ねて軽く自己紹介をしよう…だからその物騒な魔力は諌めてくれお嬢さん」


おちゃらけた口調が妙に癪に障り、その四肢を締め上げると、男は焦ったようにそう言って笑い…一呼吸置いて己の名を明かす。


「俺は…あ〜…〝道化師(ジェスター)〟とでも呼んでくれ、真名は明かせんし明かさん…知った所で意味のない名前しか無いからな…種族は見ての通り〝死霊〟だ…そんで、君の見立て通り〝単純な死霊〟とは物が違うが…其処は置いておこう」


そう言うと、男は…己の内側から肉を沸騰させ…蠢く肉で〝眼球〟を再生させると、色褪せた瞳に紫の光を宿して精霊を視る。


――ゾッ!――


たった一度、一瞬の〝一瞥〟だったソレに…私は反射的にその目を潰す…しかし、男はソレに痛がりもせず…両手を上に上げて弁明の言葉を漏らす。


「あースマン、俺の目は〝特別製〟でね…〝要らん呪い〟が生前からこびり付いた曰く付きだ…ちょっと待ってろ…〝良し〟…コレなら〝感じない〟だろう」


その言葉のあと男はそう言うと…己の目を潰し…指先でグチュグチュと弄くったあと…目を再生させると…其処には色褪せた〝黒い目〟が有り…確かに、先程感じた嫌悪感は完全に消えていた。


「お前も詳しくは〝視るな〟よ…狂いはしないだろうが疲れるぞ……まぁ、俺の事は良いんだよ…ソレよか〝此処にいる経緯〟だ」


男はそう言うと、淡々と己が何をしていて、どう言う経緯で此処に来たのかを説明し始めた。


「俺は〝ある連中〟と業務提携していてな…一仕事終えたあと、暫く仕事の予定が無かったもんで〝次の現場予定地〟を観光してたんだよ…控えめに言って〝大成功〟…大変満足行く観光だった…飯は美味い、技術も発展し、〝人間に活気がある〟…暫く此処で〝人間のフリ〟でもしてようかと考えてた矢先…ちょいとした〝人助け〟のつもりで森に入った訳だ」

「……」

「〝深入り〟するつもりは無かったんだが…ふと〝この森〟に入ると〝面白い魔力〟…つまり〝お前達の魔力〟が流れていたのを見てな…何があるか知りたくてフラフラっとやって来た矢先、お前さん等の〝領域〟に入り込んじまって、今此処に至るって訳だ」


その言葉は、如何にも〝胡乱〟で…怪しさに満ちていたが…どうやら〝嘘〟は感じられなかった。


「……〝人助け〟とは、何ですか」

「あぁ…〝学生の捜索〟だよ、泊まってる宿の女将から〝知り合いの学生が3日間帰ってきていない〟って言われてな…暇潰しも兼ねて探してた」

「…その学生は?」

「ちゃんと〝見つけた〟よ…おっと、誤解するなよちゃんと生きた、怪我一つない〝種族:人間〟だ…あと1週間で〝人食い植物〟に溶かされてただろうがな」


その言葉にもやはり〝嘘〟は無く…私は、不承不承ながら〝彼が無害な存在〟である事を認め、拘束を解く。


「おおっ……ふぅ……腸が貫かれたまま吊るされるのは疲れる…メインのボディなら、この程度どうとでもなるんだが…〝擬態用〟ならこんなもんか」


すると、拘束が解けた端からソレは肉体を再構築し…地面に染み付いた血肉を吸い上げて…元の〝カタチ〟に戻る。


「〝拘束を解いた〟って事は、俺は釈放って認識でいいよな?」

「えぇ…不服ですが…〝今は害では無い〟と言うのは事実な様なので…釈放致します…しかし」

「分かってるよ…〝他言無用〟だろ?…〝誓う〟さ…俺はこの事を誰かに話しはしないと」


そして、私の言葉にそう言うと男は私に背を向け…この〝精霊郷〟から立ち去ろうとする…しかし、その間際。


「それじゃあ〝世界の終わり際〟にまた逢おうか麗しの女王…その時〝敵か味方か〟は分からんがな♪」


男はそう言い残し…泥の様に蠢く黒い魔力の中に消えていくと…この〝領域〟から消失する…。


「……〝世界の終わり〟…ですか」


そんな〝奇妙〟な最後の言葉を…私の脳裏にこびり付けて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
死霊、道化、『視る』… 次の現場予定地か… まああの世界、NPCでもちゃんと感情があったし、次回作があっても…不思議ではないというのが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ